若手を中心とする女性キャストだけの舞台公演プロジェクト、AUBE GIRL’S STAGEの第5回公演『ため生き2018』が行われる。現代社会の問題や、そこで生きる若者たちの姿をモチーフにした作品を通して「これからの芸能界や演劇界を担うタレント・女優に育ってほしい」という願いを込めたこのプロジェクト、今回は作・演出の山本夢人が自身の演劇ユニットであるレッドカンパニーの旗揚げ公演で2011年に上演した作品のリメイクとなる。「若者たちの中にある枯渇感を表現しながら、この年代の女の子たちならではのパワーをしっかり見せたい」と話す山本と、ダブルキャストで主人公を演じる佐々木七海と志村玲那の3人が公演への思いを話してくれた。
“誰かのために”というキーワードから発想
――― 第4回公演『オレンジの画面2018』は、山本さんが23歳で神戸から上京して最初に書いた作品のリメイクだったそうですが、今はご自身にとって大切な作品を振り返る時期なのでしょうか?
山本「単純に、自信や実績のある作品をまたやってみようというのもありますし、当時の役者の年齢と、今のAUBE GIRL'S STAGEの女の子たちの年齢層が近いことも理由の一つです。今回リメイクする『ため生き』は、当時若い子たちを見て考えたり感じたりしたことを割とストレートにぶつけた作品なんですけど、今読み返してみても、そのときの思いは変わっていないどころか増していると感じます。そこが、お客様にも演者にもヒットするのではないかと」
――― とある海岸のゴミ拾いを長年ボランティアで行っている家族の物語で、そのゴミ拾いに参加せずキャバクラで働く娘が主人公です。このモチーフはどこから発想を得たのでしょう?
山本「まず、“社会貢献”とか“誰かのためになりたい”といったキーワードが最初に浮かびました。当時、東日本大震災の被災地にボランティアで行く若い子たちのニュースを見たのと、渋谷の街で緑の服を着てゴミ拾いをしている若い子たちがすごくいい顔をしているのを見たのがきっかけです。そこから広げていって、ちょうど夏の時期だったので、夏の海のゴミ拾いについていろいろ調べてみると、自分の考えにマッチするところもあったので、それを物語として広げていった感じです」
――― 佐々木さんと志村さんは、この作品にどんな感想を持ちましたか?
佐々木「2011年版の台本を、主人公と自分と重なる部分を探しながら読んでみて、主人公のお母さんの言葉にすごく刺さるものがたくさんありました。私の両親は、特にああしなさいこうしなさいと言うこともなく、そっと応援してくれていて、そういうのと重ね合わせたりしました」
志村「この主人公を私がやるんだなと思いながら読んだんですけど、まず生活環境がまったく違いすぎるので、演じるのは楽しそうだなと思いました。見た目は絶対似てるだろうなと思いましたけど(笑)、思っていることを言わないで自分で抱えてしまうところは全然違います。私はどちらかというとすごくおしゃべりで……黙っていられないんですよ(笑)。家族同士も言いたいことをズバズバ言い合うから、家庭環境で悩んだこともないし。こんなふうに抱え込んでしまう人っているんだな、というのが一番の感想でした」
――― このお2人を主人公に選んだ決め手は何でしょう?
山本「オーディションでいろんな力を見させていただいて、そこで光っていた二人だというのがまずあります。それと、今こうして話を聞いていてもすごく対照的な二人で、それがちょうどいいんじゃないかとピンときました。佐々木さんはすごく表現力が高いというか、役の気持ちを考える力が強い子だなという印象があって、この子に主役をやってほしいなと。志村さんは、今ご自身で言ってたようにすごく明るい人柄なので、その良さをどんどん出していってくれたらいいなと思いました」
――― 完全ダブルキャストというのもAUBE GIRL'S STAGEの特徴ですが、あえて対照的な2人をダブルにすることが多いのですか?
山本「そうではないときもありますが、対照的に見せたいと思っている部分はあります。特に今回は、主人公がこのお2人ということでまったく別物の作品になるんじゃないかと、すごくワクワクしています」
23人のキャスト全員に対して23通りの演出を
――― 佐々木さんは2年前から本格的に役者として活動されていますが、始めたきっかけは?
佐々木「幼稚園のときに、お母さんが私を劇団に入れたのが一番最初のきっかけです。私自身もやっていて楽しくて、小学校高学年くらいのときにもっと本格的にやりたいと思って、今の事務所のオーディションを受けました。私も、舞台はお客さんが目の前にいて、演じている側も見ている側も一つの場所で同じものを感じられるのがいいなって、いつも思います」
――― 志村さんは子役タレントからスタートして、舞台歴は10年くらいですね。
志村「一番最初の舞台は中学生のときで、吉田鋼太郎さんが主演の舞台でヒロインをやらせていただいたんですけど(『MIDSUMMER CAROL ガマ王子 vs ザリガニ魔人』2008年)、当時はそれがどれだけすごいことか理解できないまま、周りの大人の方にかわいがってもらいながら、鍛えていただきました。舞台は、お客さんがどう思っているかを、その場でひしひしと感じられるところが好きです。泣けるシーンで、客席から泣き声が聞こえてきたりすると鳥肌が立ちますね」
――― 主役として舞台に立つことについて、いかがですか?
佐々木「自分がこういう感じなので、みんなを引っ張っていくみたいなのは……そういう経験はあまりないですけど、責任感を持って取り組んでいけたらなと思ってます」
志村「私は基本的にワーッと騒いでいるだけで(笑)、学校とかではそれをまとめてくれる友達がいる。自分から“じゃあやるぞ”っていうタイプではないですね。だから今回は頑張って、引っ張っていけたらなって思います」
――― 確かに対照的なお2人が、同じ役を演じるというだけでも興味を惹かれます。
山本「ちなみに佐々木さんが出演する方のチームは、実は佐々木さんが最年少なんです。役柄も、お酒飲んで酔っ払って帰ってくるシーンがあったりして大変だと思いますけど、きっと今回の公演を通してものすごく成長してくれるのではないかと期待しています。志村さんは、隣にいてもすごく楽しいこの人柄が力だと思うので(笑)、割とこのままに近い感じで出来上がると思います。あと、主役2人に前に立ってもらうのはもちろんですが、23人のキャスト全員にバックグランドのある役をつけて、この役者さんはこういうふうにお芝居を習ってきて、今はこういう立ち位置で、次はここに行けばいいんだなというのを23通り作っていくという演出をやっているんです。23人を優劣つけることなくしっかりと導いていきたい。そこだけは絶対に外さないように考えています」
彼女たちにしかできない芝居を作り上げる
――― 音楽やダンスなどエンターテイメント的な要素も大切にしているそうですが。
山本「前回に引き続き、ダンスは入れたいと思っています。やっぱり若くて華のある女性キャストだけで上演するにあたって、身体のパワーみたいなものを見せた方がエネルギッシュになると感じたので、ストレートプレイ用に作ったこの作品を、ダンスも成立するように作り変えるのは僕の中での挑戦ですね」
佐々木「ダンスは大好きで、オーディションのときも音楽に合わせて踊ったのがすごく楽しかったです」
志村「私は家で、いつも歌って踊ってます(笑)。好きなだけで上手くはないんですけど、高校生の頃はダンス部でした」
山本「2人ともすごく上手ですよ。そういう楽しいダンスもありますけど、どちらかというとシリアスな感情から作る身体表現としてのダンスを入れることになると思います。そこもぜひ楽しみにしていただきたいところです」
――― 最後に、お客様に向けてメッセージをお願いします。
佐々木「この『ため生き』というタイトルを見たときに、すごく“いいなあ”って思ったんです。だから……いろんな方にこの作品のことを知ってもらいたいです」
志村「2回見ても面白い作品です! ……って単純すぎるかな(笑)。2つのチームで全然違うと思うので、両方見てほしいですね」
山本「AUBE GIRL'S STAGEは今回で5回目になりますが、根本的なところは今までどおり、若い子たちが未来に向かってどう進んでいくか、その壁を超えていく姿を見せるというところは変わりません。ただ、今までは割と“チャレンジ”という言葉を使っていましたが、これからはもうチャレンジということではなく、この年齢の彼女たちにしかできない華やかでパワーのある芝居をしっかりと作り上げるというところにもっと特化して、洗練させていきたいと思っています。その上で、今回の作品では“人の役に立ちたい”という思いの奥にある、今の若い子たちの枯渇感のようなものを表現してみたいです。そこには、人のためになっていないと自分は存在していないような気持ちが根底にあるのではないかと。そういうシーンやセリフを若い子たちに渡したときにどう響くか。ぜひ、そういうところを見ていただきたいと思います」
(取材・文&撮影:西本 勲)