ガールズ演劇集団アリスインプロジェクトの11月公演は、アリスインアリスの名曲『ともだちインプット』を舞台化した作品である。人間とバーチカロイドが共存する世界で繰り広げられる笑いあり、涙ありのSF群像劇だ。バーチカロイド×制服少女×青春群像劇。近い未来に訪れるかもしれない世界を表現する意気込みを、物語の中核を担う役を演じる森川彩香、夏目愛海、竹内舞、須山朱里に聞いた。
バーチカロイドは多種であることの象徴
――― ご自身の役について、第一印象などを教えてください。
森川「私は“アキ”という二人姉妹の姉を演じます。実は顔合わせのときに初めてW主演だと聞いたので、今はまだびっくりしてる気持ちが強くて。アキはキャストの中で数少ない人間役の一人で、とても元気がいい女の子です。
私は今までも元気な役をもらうことが多かったのでおそらく元気なイメージをもたれているみたいなのですが、本当はそんなことは全然なくて(笑)。メインでぐいぐい引っ張るというよりは自分のペースを守ってちょっと横から見ていたいタイプなので、役としては舞台の上でみんなを引っ張りつつ、普段は下からそっと支えるという立ち位置で頑張っていきたいですね。」
夏目「私が演じる“ハル”はわかりやすいくらい、いわゆるロボットというところから始まります。物語を通して、より人間に近いバーチカロイドになっていくのですが、そこをちゃんと表現できるかな……とちょっと不安です。ロボットっぽい動きは初挑戦ですし、段々人間らしくなっていく過程を見せなければいけないので。あと、バーチカロイドとして生まれたばかりのところから成長していくので、この歳で生まれたばかりの存在を演じるのもなかなか大変だな、と。
ただ、普段から実年齢より若く見られることが多くて幼い印象を与えてしまうことがコンプレックスだったのですが、今回の役はそれを強みに変えることができそうで、自分の中でも新しい試みになりそうです」
竹内「私の役は人類の歴史を保存する会社の幹部のリーダーの“ガートルード”です。潜入捜査をしているのですが、まずは舞台に現れた瞬間にちょっと怪しいな?と思ってもらえるようなインパクトを与えたいですね。私としては初の悪役なので、裏の主役になれるように、お客さんに『きたーっ!!』って思って頂けるように演じていきたいです。
私は4人組のダンスボーカルグループのリーダーをやっているので、ガートルードと共通点があると思いました。ただ、私は第一印象でクールに見られることがあるんですが、実際は全然そんなことはないのでそこは違うと思います……あ、でもガートルードは部下に振り回されてクールになりきれないところがあるから、やっぱり似ているのかも(笑)」
須山「私の演じる“フユ”はより人間に近い愛のあるバーチカロイドです。ただ、愛といっても人間が人間に抱く感情とは同じではないはず。だからこそ気づける愛だったり、目線だったり、というところを表現できるようにしていきたいです。
この作品でのバーチカロイドは“多種であること”の象徴だと思っています。今まで演じてきた役は、人間ではない役が多かったのですが、今回は人間ではないけれど人間に近いということで、今まで以上に難しい気がしていて。さらに、今まで経験していない“荒ぶる”演技があるということで、難しいことだらけですが、新しい自分に挑戦できそうだとわくわくしています!」
バーチカロイドとかロボットに対しても普通な感覚で、特別だとは思っていません。
――― バーチカロイドという存在に対して、どのような思いを持たれましたか?
森川「私は人間の役でバーチカロイドと仲良くなっていくんですが、私自身ロボットが大好きなので、アキのように本当にバーチカロイドの友達がほしいくらいです。ガンダムのプラモデルからハマって作中に出てくるハロっていうAIロボットも好きで……あとボーカロイドが本当に好きです。よく『ボーカロイドの声は魂がない』って言われるみたいなんですが、私にとってはそんなことは全くなくて。“いい曲だな、誰が歌っているんだろう”って調べたらボーカロイドだったっていうこともあるくらい(笑)。
それくらいバーチカロイドとかロボットに対しても普通な感覚で、特別だとは思っていません。昔とはちょっとバーチカロイドとか、人間以外の存在に対する感覚も変わってきてるんじゃないかなと思いました」
夏目「バーチカロイドも人と同じように、愛情を持った存在なんじゃないかなと思いました。ハルがそうなのですが、一緒に居れば居るほど愛情は深くなると思いますし、バーチカロイドの愛はプログラムされたものではなく、人間的な愛情を持ってくれていると私は信じています。愛情が深くなって誰かを助けたい、そういう風に思うことがあると思います!」
竹内「ガートルードの役としては、人類側への思い入れが深い人物なのでバーチカロイドに対して全肯定ではないと思うんですが、もしバーチカロイドがいたら、私自身は友達にもなれるし愛せると思っています。完璧な友達になってくれそう。不完全なバーチカロイドでも大丈夫かと言われると……そこは程度によります(笑)。今回の作品の中の不完全なバーチカロイドはちょっと困っちゃうレベルの子もいるので。それこそガートルードがクールになりきれない原因です(笑)」
同世代のしかも女の子だけの座組だからこそ表現できる強み
――― 出演者全員が女性というアリスインプロジェクトですが、顔合わせをした印象はどうでしたか?
夏目「私は初舞台がアリスインなんです。それから3年経って、いろんなところで勉強してホームに戻ってこられたことが純粋に嬉しいです。普段は自分より年上の役者さんたちの中で演じることばかりですが、今回は同世代の、しかも女の子だけの座組なのでどんどん仲良くなれると思っていますし、こういう座組だからこそ表現できる強みを活かした雰囲気にしたいですね。メンバーには年下の子も居たりするので、いつもの引っ張ってもらう立場ではなく、引っ張る立場としてホームに恩返しをしたいという気持ちです。」
須山「私はSHOWROOM(※)で司会をやったりしているので、その場を回したりだとか、バランスを取るのが比較的うまいタイプだと思います。アリスインでやるSHOWROOMの番組の司会も担当する予定です。そういった面でも、全員とちゃんと話してそれぞれの個性を知っていきたいと思います。そして全体としてのバランスを作っていきたいですね」
※ライブ動画ストリーミングサービス「SHOWROOM」
――― 最後に『ともだちインプット』を通して、観客に一番伝えたいことを教えてください。
森川「人間だ、バーチカロイドだ、と違いにばかり目が行きがちですが、私自身はバーチカロイドと友達になりたいと思っているくらいなので、違いによる差別があるっていうのはどうかなと思っています。多用性は悪いものじゃなくて、色々あっても結局みんな仲間。人間とバーチカロイドも仲間。私たちとお客さんも仲間。“みんな仲間で平和にいこうよ”ということを伝えたいです。
あと、個人的に歌とダンスが得意なので、オープニングの見せ場を楽しみにしています。観に来てくださる方はオープニングにも注目していただきたいです!」
夏目「私は舞台を観に行くということ自体が、まだそんなに気軽でメジャーなものではなさそうだと感じていて。その敷居を下げたいなといつも思っています。初めて観る人に楽しんでもらえる作品にしたいです。
そして、バーチカロイドと人間の関係がどうなるのか。バーチカロイド自身がどうなるのか。それを説明できるのが、私の演じるハルだと思います。バーチカロイドと少女たちの未来がどうなるか……ハルを見て、観客の皆さんが自分なりの答えを見つけてもらえるように頑張ります!」
竹内「私は『ハリー・ポッター』が好きなんですが、そういったSFとかファンタジーの世界を作れるのが舞台のいいところだと思っています。今回の作品もSFですし。現実と違う世界が繰り広げられる、舞台というものを純粋に楽しんでほしいです。テーマとか何か持って帰ってもらえたら更に嬉しいのですが、本当に楽しかった!って笑って帰ってもらえるだけで十分です。最高に楽しんでもらえるように頑張ります!」
須山「私自身、そんなに舞台を経験しているわけではないので、今回の配役に対してしっかり挑戦したいという気持ちがまずあります。空想の世界を描ける舞台だからこそ、想像力をはたらかせてしっかり表現していきたいし、お客様には、そんな空想の世界が目の前でナマモノで演じられている面白さを持って帰ってほしいです。
そして、人それぞれ考え方が違うことも伝えたい。私が今回演じるバーチカロイドは人間とは違います。『違い』の象徴のような役がフユだと思っていますが、だからといって違うことは悪いことではないし、違っていても仲良くできるはずです。“区別はあるけど差別はないんだよ、そしてそれは創作世界のバーチカロイドだけでなくて、今目の前にある世界の差別も本当はただの区別でみんなが仲良くできるはずなんだよ”ということが伝わればいいな、と思います」
(取材・文:横山まどか 撮影:安藤史紘)