音楽と演劇を融合させたライブ感溢れる表現で人気を集めるSEPTが、活動5周年記念となる新作『MIRRORION(ミラリオン)』を上演する。喜怒哀楽の感情をテーマに、鏡の向こうの世界を描く本作。脚本を手掛け出演もする主宰の杉浦タカオは、「今までの集大成かつ最新のSEPTを見せたい」と意気込む。
生バンド・歌・アクロバット・殺陣など様々な要素がミックスされたステージを出演者自身も楽しみにしており、そこから生まれる熱量がSEPTの大きな強みと言えそうだ。SEPT初参加となる宇治清高と、過去4公演で神様≠演じてきた椿隆之、そして今回は日替わりゲストで参加する吉岡毅志・杉浦太陽を交えて、公演へ向けての期待をたっぷりと話してもらった。
アットホームな雰囲気の“SEPTファミリー”
――― 今作は5周年記念で通算10本目の公演だそうですが、主宰として今までの手応えをどのように感じていますか?
タカオ「SEPTは、最初は普通のライブイベントとして始まって、お芝居が入ったのはVol.2から。5年も続くと思っていなかったのが正直なところですが、回を重ねるごとに、やりたいことを具現化できるようになってきました。これもたくさんの仲間たちに支えてもらったおかげです。今回のVol.8では、その集大成を見せたいですね」
――― 過去の公演に参加したキャストも大勢出演しますね。
タカオ「日替わりゲストを含めると総勢37人の中で、30人くらいが過去のSEPTに出てくれた人たちです。そこに宇治君をはじめとする初参加の人たちが加わって、最新のSEPTができればいいかなと思っています」
――― 椿さんは舞台の経験が豊富な中、SEPTの劇場公演すべてに出演していますが、SEPTならではの特徴はどんなところにあると感じますか?
椿「登場人物一人一人の背負っているものがしっかり描かれていて、誰もが共感できるところのあるストーリーだと思っています。それが物語の終盤になると全部が揃っていくみたいな印象があって、お客さんもすごく観やすいんじゃないかなと感じています」
――― 生バンドなどの要素についてはどうですか?
椿「生バンドは最高にいいですね。自分が関係ない場面でも、そこに出ていって歌いたくなるくらい(笑)」
――― 吉岡さんもSEPTではお馴染みのメンバーです。
吉岡「もともと杉浦兄弟とは家族のように長い付き合いで、タカオがライブハウスでバンドをやってる頃から知っていますからね。SEPTはとにかくアットホームで温かい。そういう雰囲気をタカオが作っていて、僕にとってもいつの間にかホームみたいな感じになっています」
―――吉岡さんは音楽活動もされていますね。
吉岡「なので、タカオが目指すところにはすごく賛同しています。さっき生バンドの話が出ましたが、たとえば戦いのシーンにドラムとかギターが生で入ってくると、それだけで躍動感が出る。魂が揺れる感じがするんです。しかも日を追うごとに良くなっていくのも、生の醍醐味ですね」
――― 太陽さんは、弟のタカオさんが主宰するSEPTをどんなふうにご覧になっていますか?
太陽「昔から一緒に育ってきた弟ですから、そこに最初から僕が出ても甘やかすことになると思って、あえて突き放すイメージではありました。でもたくさんの仲間たちを主宰として束ねて、面白い脚本を書いて……という、僕も知らない新しい弟を自分で作り上げたんだなというのは、見ていてとても嬉しいです」
――― そして5年も続いてきた。
太陽「次の作品を作れるのは、もちろん前作が良かったからできることで、おかげさまで劇場も大きくなってきたし、目を見張る勢いで成長しているのはやっぱり嬉しいですね。そんな弟がやっている作品に、演者として入れる喜びはとても大きいです。そして類は友を呼ぶというのか、今日集まったのは全員が特撮ヒーロー出身者(笑)。同じく日替わりゲストの市瀬君(市瀬秀和/『ウルトラマンコスモス』出演)も入れたら6人。なかなかこんな機会はないですよね」
――― 今回初参加となる宇治さんもヒーロー出身者ですね。最近まで留学されていて、帰国後第一弾がこの作品になるそうですが。
宇治「帰ってきて2週間後くらいにお話をいただきました。舞台をやること自体が初めてなので、最初は僕でいいのかなと思いましたが、博品館劇場は『ウルトラヒーローバトル』で立った場所でもあるので、すごく縁があるなと思って」
――― 過去の資料もご覧になったと思いますが、SEPTの印象は?
宇治「やっぱりバンドの生演奏が入るというのはすごいですね。自分は音楽はやりませんが、観たり聴いたりするのはすごく好きなので、それをお芝居を融合するのは新しいチャレンジだなと。もともと舞台に接する機会があまりなかった自分がせっかく初めて出演するなら、そういう舞台がいいなと興味が湧きました」
タカオ「主人公をやってほしいと強く思える人を探している中で、たまたま兄貴に相談したら、宇治君を紹介してくれたんです」
太陽「ウルトラマンビクトリーやから、勝てるぞと(笑)」
タカオ「それで実際に会って話をさせてもらったら、今話したみたいなことを言ってくれたので、ぜひお願いしますということになりました」
全員が当て書きされたキャラクターを演じる
――― 『MIRRORION』の内容について聞かせていただけますか?
タカオ「今回は喜怒哀楽の感情をテーマに、MIRRORION(ミラリオン)というタイトルの通り、鏡の中の世界というファンタジーを描きます。その中で主人公たちが自分の感情と向き合って、どう成長していくかというストーリーです。そこに生バンド、歌、ダンス、殺陣、アクロバット、プロジェクションマッピングといった要素を全部ミックスして、新しいものにチャレンジします」
――― その主人公が、ぜひ宇治さんにやってほしいと思えるキャラクターだったんですね。
タカオ「さらにその後、実際に宇治君と会ってから書き換えています。SEPTではいつも当て書きをしていて、その人と会って話した印象や声色を感じた上で、佇まいや台詞の語尾を調整しているんです。だから今回の『MIRRORION』は宇治君がメインじゃないとできない世界だし、それは椿君もゲストの二人も同じです」
宇治「ビジュアル撮影では、最初イメージしていたよりも強い感じのキャラになりましたね」
太陽「見た目がね(笑)」
宇治「でも実際はもっと違う面を持ったキャラクターなので、これからの稽古で掴んでいきたいと思っています」
――― 椿さんはSEPTの作品で“神”の役が定着していますが。
タカオ「今回は神でも人間でもない異世界の存在、道化師の仮面をつけた“調律師”と呼ばれるキャラクターの一人を演じてもらいます」
椿「狂気的な役なので、プライベートに引きずらないように気をつけようと思っています」
タカオ「今回は初めてダークなイメージの役柄なので」
椿「人で遊ぶというか、振り回しているように見えるキャラクターですね」
――― 吉岡さんと太陽さんは日替わりで同じ役を演じるのですね。
太陽「ひょうきんな役です」
タカオ「飄々とした役ね(笑)」
太陽「同じ“ひょう”でもだいぶ違う(笑)」
吉岡「過去に舞台で共演したことはありますけど、同じ役をダブルキャスト的に演じるのは今回が初めて。太陽は太陽のアプローチで、僕は僕のできることを、というのが楽しみです」
太陽「同じ役を与えられても、性格も考え方も違うからね」
吉岡「ちょっと筋トレでもしようかな(笑)」
タカオ「見た目を合わせにいくんかい(笑)」
――― そして、タカオさんも役者の一人として出演されます。
タカオ「稽古が始まると、主宰ということも忘れて、共演者として一緒にお芝居を楽しんでいることの方が多いです。裏方の仕事をしなくなるので怒られるんですけど(笑)、脚本家と役者としての自分はまったく別物と考えています」
全く新しいジャンルの舞台だと思って観てほしい
――― 演出面での新しいチャレンジは?
タカオ「いつもバンドをステージ上に組むんですけど、真ん中から人が出入りできるように、ドラムとキーボードを左右に振ってバランスをとっていたんです。でも、本来バンドといえばやっぱりドラムがセンターにいてほしいので、今回はそれを解決する新しい方法を考えたのが一番のチャレンジですね。あと、衣装も相当凝っていて、日替わりで同じ役を演じる二人(吉岡・太陽)も衣装が違います。宇治君も……」
宇治「派手になりましたね(笑)」
タカオ「物語に沿った表現をするためにいろんな人に動いていただいて、やっと形にすることができました」
――― では最後に、初めてSEPTの世界に触れる人に向けて一言ずつメッセージをいただけますか。
椿「今、2.5次元の舞台が流行っているじゃないですか。SEPTの舞台って、今回特にそう思ったんですけど、一人一人のキャラクターがすごくしっかりしているので、逆にこの舞台がアニメとか漫画になるといいなって。そういう感じの世界観を楽しんでもらえたら嬉しいです」
吉岡「SEPTは俳優チーム以外にも、ミュージシャンチーム、アクションチームなど、個性豊かなキャストが所狭しと駆け回る舞台になっているので、初めての人はどこも見逃せないと思います。そんなふうに、本当にすごいアーティストたちがたくさん集まった舞台を楽しんでほしいのと、個人的にはさっき話したように太陽と同じ役をやるので、少なくとも2回は観に来てほしいですね」
太陽「そして、どっちが良かったかをアンケートに……」
吉岡「両方とも素敵でしたって書いてください(笑)」
太陽「こういうメンバーだからこそ、特撮ファンの方もたくさん観に来てくださると思いますけど、そういうところを一旦忘れても楽しめる作品にしたいです。とにかくキャストが30人以上いるので見どころたっぷりだし、もちろん初回と千秋楽でも味わいは変わると思います。来て良かったなと思ってもらいたいので、舞台を観るのは初めてだという人も、自分の新しいジャンルを開拓するつもりで楽しんでほしいです」
宇治「バンドや歌、ダンスなど、それぞれに特化した人たちがこんなに集まる舞台ってなかなかないと思うので、完全に新しいジャンルのものという感覚で観てもらいたいですね。そして、これを楽しいと思ってくれる人が今後もっと多くなれば、SEPTもさらに大きくなって、できることが増えていく。自分がメインでやらせてもらう今回の作品で、観に来てくれる人が一人でも多くなればいいなと思います」
タカオ「SEPTを知っている人も、知らない人も両方楽しめるのが一番大事なところで、そういうものを作りたいと思っています。そして、バンドメンバーやダンサーも含めた全員が役名のあるキャラクターで、ちゃんと物語の世界に生きている登場人物として描くのも特徴です。単なるお芝居のバックではない、一人一人の生きざまも見どころだと思います。これだけ多くのジャンルの人たちが集まる舞台をぜひ楽しんでもらって、何か一つでも心に残って帰っていただけたら嬉しいです」
(取材・文:西本 勲)