俳優・粟島瑞丸がプロデュース、脚本、演出を手掛ける演劇集団Z-Lion(ジーライオン)。 記念すべき第10回公演最新作は「記憶」と「時間」をキーワードにAIやロボットの開発に勤しむ研究者達の人間ドラマをZ-Lionタッチでハートフルに描く。Z-Lionでは初出演にして初主演となる市川知宏と同じくZ-Lion初出演の敦士、そして粟島瑞丸に話を聞いた。
Z-Lionの作品は観終わった後にほっこりする
――― 今作で第10回公演になりますが、一つの節目になるのでしょうか?
粟島「節目というスペシャル感は出していませんが、今まで作ってきた形の仕上げの様な公演になるかもしれません」
――― 年およそ2作品のサイクルを守っていらっしゃいますが、粟島さんにとっては良いペースだったのでしょうか?
粟島「いやいや! しんどいペースです。今作は完全新作をお届けしますが新作を年2本はなかなか大変です(笑)」
――― 本作の主演・翔太を演じるのは市川知宏。Z-Lion過去2作品を観劇し出演を熱望していたという。
粟島「いっちーとはどこかのタイミングでやりたいねと話していて。今回は主役を男性でいこうと決めた時に年齢的にもいっちーしかいないなと」
市川「嬉しいですね。Z-Lionの作品はとてもハートフルで終わった後にほっこりした気持ちになります。舞台って難しい作品も多いですが、Z-Lionはとても観やすい世界観で大好きです。あと、公演後にその後の物語を頂けるのも嬉しいです。僕が演じる翔太は、まっすぐで優しくて嘘がなく自分がやっていることに真摯に取り組んでいる青年です。もともとカウンターショック(心肺蘇生のための自動体外式除細動器)を作る会社に勤めていて、ひょんな事から記憶をカウンターショックで呼び起こせるのでは?と研究をはじめ、色々な事件に巻き込まれていきます」
――― そしておよそ6年ぶりの舞台出演となる敦士は出演オファーに驚いたと笑う。
粟島「敦士さんがレギュラー出演されているテレビドラマに出演させていただいたり、ずっと交流があったんです」
敦士「舞台共演はあらためて初めましてとなるのでしょうか。今回お声がけいただいて舞台特有の緊張感を思い出してきました。ステージに立つ気持ち良さや終わった後の達成感は舞台って大きいですよね。ドラマだとシーンごとに撮影するから、最後まで会わない人もいるんです。舞台は温かみというか、みんなでずっと一緒にいる、みんなで構築していく雰囲気が好きなんです。お声がけいただいて最初『え!?』って言いました(笑)。ホントにそれだけ舞台から離れていて、久しぶりにハマってみたくなりました」
粟島「良かった、嬉しいですね」
――― 舞台のスイッチが入ったということでしょうか?
敦士「そうですね、来たか舞台!と、ビビッとしましたもん、ワクワクしますね。僕はロボット会社の社長で、会社の利益のために開発しているものに出資をしていたり。でもある時、自分の中にある構想が膨らんで動き出します」
粟島「そうなんです! キーパーソンなんです」
敦士「自分の役は懐が深くて男らしい印象を受けました。最初はチャラチャラなんですけど(笑)、最初の印象から物語が進むにつれて全然変わっていく様をみせていきたいです」
話しているとだんだん思い出してくる、脳って面白い
――― 舞台は近未来、「時間」や「記憶」がキーワードになりますが、台本を手に取った時の印象を教えてください。
市川「瑞丸さんの発想力が凄いですよね。現代でもロボットはいますが人間に近いロボットはまだいなくて、それを想像しながら「忘れてしまう人間」と「忘れる事ができないロボット」にたどり着いたことに僕は感銘を受けました。実際未来にロボットができたらこんな問題が起きるのではないだろうかと」
敦士「面白いよね。ロボットって僕らのイメージだと正確に何でもこなす、完璧でなければいけないっていうイメージ。でもこの作品に出てくるロボットはそこじゃなくて着眼点が凄い。ちょっとリアルですよね」
市川「人間とロボットを一緒にしてしまえという考えも近い将来あるかもしれないですね」
敦士「そうそう、僕の役はいずれそんな時代が来る、共存しなきゃいけないって思っている人物です。台本を読んで思ったのが学生時代なんかの記憶が本当に無いこと。」
粟島「小学校、中学校の頃の同窓生とか名前はわからないですからね」
敦士「僕はTVに出させていただいているのでみんなは僕を認識しているけど、僕は容姿が変わっていたりすると本当に誰かわからない」
粟島「歳を重ねれば重ねるほどわからなくなるよね(笑)」
敦士「でも話しているとだんだん思い出してくるんです。だから脳って面白いなって思っていて、まさにこの作品のテーマ。お客様はきっと自分のことを重ねながら観るのではないかと」
粟島「そうだとありがたいね。いつも終わってからお客様に言われて嬉しいのは、絶対あり得ないけど、あってもおかしくないねっと。そんなギリギリのラインを攻めています」
敦士「でもほんとにリアルになるかもしれない。今だって人体にチップを入れたりしているし」
粟島「記憶をダウンロードする研究も海外では進んでいるらしくて」
敦士「凄いよね、そうなったらセリフを覚えるのが楽だよね」(全員笑)
自分よりもみんなを面白くしたい
――― 粟島さんは脚本、演出の他に出演もされますよね?
粟島「僕はほんとに当たり障りのない役を演じています(笑)。ストーリーテラーみたいな役が多いのですが、実は今回は多少関わる役になります」
市川「脚本を書いて演出をしてやり切ったとならずに、その作品に出演するって凄いなって思います。自分なら難しくて……」
粟島「実はZ-Lionに出ないでおこうと思うこともあって、自分の書いたセリフって一番言いにくいんです。会話のテンポはリズムで書いているので自分が発するには合わない事が多くて。でもZ-Lionは独りでやっているので劇団員がいるわけではなく製作会社みたいになってしまうし、お客様にとって本人が出ていないのはプロデュース公演を観に行く感覚になってしまいますよね」
市川「色んな脳がないとできないですよね」
粟島「いやいや、だからいつもいっぱいいっぱいです」
市川「演じている最中に人の芝居を見て演出家の目線になったりしませんか?」
粟島「それはありますね、喋らないシーンで演出家になっていたり。あと逆に昔はギリギリで本番一週間前に役者として入ることがあって役者のみんなが慣れてなくて、本番中に『あれ? ズイさんいる?』みたいな感じになるっていう。(全員笑)同じような立場の方の誰に聞いてもそうみたいで集中が難しくて。自分よりもみんなを面白くしたいのでストーリーから外れた所にいたい感覚になりますね」
敦士「めちゃくちゃいい人じゃないですか」
粟島「(笑)」
彼らが持っている魅力を最大限に出せるようにしていきたい
――― このお2人をどう演出していこうとお考えですか?
粟島「僕は演出していこうという感覚がなく、その代わりにいっちー、敦士さんを観に来た方が今まで観た芝居の中で一番良かったと言わせたいという想いが常にあります。彼らが持っている魅力を最大限に出せるようにしていきたいですね」
敦士「嬉しいですね。やはり自分でも気付いていないこともありますから、それを引き出してもらって、前に出演した作品よりも成長していたいです」
粟島「舞台特有の座組力って絶対にあると思うんです。これから稽古をいっぱいやっていく中で、みんながやって良かったねっと言われる作品にはしたいです」
敦士「初めての顔合わせではみんなフランクで壁がなくて稽古も面白くなりそう」
市川「僕も思いました!」
粟島「そうですね、いい雰囲気で作品作りができると思います」
市川「自分が一番壁があったんじゃないかって、今、反省しています(全員笑)。皆さんとお会いして一層楽しみになりました」
粟島「誰かが転ばないようにマラソンのイメージで作っていますのでZ-Lionは一体感を観て欲しいですね」
敦士「全員に光があたっているのでそれぞれのキャラクターにも注目して欲しいです」
市川「僕たちは研究者として物を作り出しているので、お客様もその一員になってその時間経過も共有していけたら嬉しいです」
敦士「僕はひとりだけ異質な立場で深い人間になれそうです。初めて台本を読んだ時と時間がたった今と印象が変わってきているので、これからもっと突き詰めていけたら」
粟島「そしてお馴染みの永山たかしさんやマー坊さんも出演いたしますし、芸人さんや声優の皆口裕子さんなどフィールドが違う所で活躍されている方が今回集まっていまして、ここも見どころになると思います」
――― 最後にメッセージをお願いします。
粟島「観終わった後に良い時間だったと思わせる2時間を作ります。Z-Lionの世界観がこのメンバーでどうなるのか、楽しみに来ていただきたいです」
市川「役者の個性を出してくださるということで僕もそこに乗って、敦士さんをはじめ、キャストの皆さんに身を預けて良い作品を作りますので、楽しみにしてください」
敦士「とても個性が際立つメンバーが集まっているので、それが融合して一つの作品になった時とんでもなく面白い物ができるのではないかと思っています。脚本もとてもわかりやすくて面白いので、何も構えずに観ていただけます。観た方がそれぞれのお気に入りのキャラクターを見つけて欲しいですね。是非お楽しみにしていてください。あと喧嘩中の人とかも来て欲しいですね」
粟島「そうそう!」
市川「状況が変わるかもしれないです!」
(取材・文&撮影:谷中理音)