ロックバンド「ゲスの極み乙女。」のドラマー「ほな・いこか」として活動する一方、2017年からは女優としても活動しているさとうほなみ。2018年は、舞台『ドアを開ければいつも』とドラマ『いつまでも白い羽根』で存在感を見せた彼女が、ウォーキング・スタッフのプロデュースによる舞台『虎は狐と井の中に(仮)』に出演する。俳優・米田敬が企画し、若手作家・池内風(かわいいコンビニ店員飯田さん)と演出家・和田憲明が初タッグを組む本作に、さとうは自らオーディションを受けて参加。「面白そうなものにはどんどん関わりたい」と話すさとうに、和田は「演じることの実感を、今までとは違う形で感じてもらえたら」と期待を込める。
舞台って、こんなに面白いものなんだなと
――― さとうさんが女優を志したのは、小学生の頃テレビドラマが大好きだったのがきっかけだそうですね。
さとう「ドラマが好きで観ていたというより、私これに出たい!と思って観ていることに気づいて、あっ、芝居がしたいと思ったんです。観終わった後にものすごく感情移入して、泣いてしまうくらいでした。それで、いろいろ募集しているところに一人で勝手に書類を送って、映画のエキストラで少し芝居をさせてもらったり、舞台も1回だけやらせてもらったりしました」
――― 音楽を始めたのはその後で?
さとう「はい。高校生のとき、気がついたらバンドにのめりこんでいました」
――― 本格的に女優業を始めたのは、ゲスの極み乙女。が活動休止していた2017年のことでした。
さとう「ずっとお芝居はやりたかったんです。でも機会がなくてできなかったので、このタイミングでいろいろ好きなことをさせてもらおうと思って始めました。とにかく、お芝居ができる機会があったら何でも……と話していたときに、ドラマ『黒革の手帖』のお話をいただいて、出演することになりました」
――― ずっとやりたかったお芝居、いかがでしたか?
さとう「自分の意思でやらせてもらった初めてのお芝居でしたが、テレビドラマってけっこう(制作のスピードが)速いじゃないですか。自分が何をしたらいいのかもわからない状態で終わってしまったので、すごく悔しかったです。それからは、関わるときはなるべく監督としっかり話をさせてもらったりとか、そういう時間を持つようになりました」
――― そして『ドアを開ければいつも』で本格的な舞台も経験されました。キャスト4人だけの芝居で、がっつり関わったことになりますね。
さとう「あのときは役柄が自分のまんまというか、境遇とか考え方もけっこう似ている役だったので、のびのびやらせてもらった感じです。舞台って、やってみるとこんなに面白いものなんだなと思いましたし、生のお芝居を観に行くことも多くなりました」
――― 例えばどんなものを?
さとう「いろいろ行きます。チラシを見て面白そうだと思ったり、好きな役者さんが出ている作品をチケット買って観に行ったりしますし、時間が空いたときに当日券で入れるものを観に行くこともあります」
ーーーそして昨春には『いつまでも白い羽根』というドラマに出演しました。
さとう「レギュラー出演はそれが初めてでした。役どころがけっこう難しくて、作品自体が面白くなるかどうかを左右するキーマンだなと思ったので、そこはちょっと考えて監督と話したりしながら臨みました。周りの人もいろいろと教えてくれて、勉強させてもらったなというのが大きいですね。特に、共演させてもらった加藤雅也さんとは絡む場面がけっこう多かったので、そこでいろいろ言ってもらったりしました」
僕が考える“芝居”を受け入れてもらえるかどうか
――― この『虎は狐と井の中に(仮)』は、自らオーディションを受けて出演することになったそうですね。
さとう「とにかく、すごくお芝居がしたくて。面白い作品に関わりたいので、今回の話を聞いてピッタリだと思ったんです。和田憲明さんのお名前や経歴は知っていて、その和田さんが関わっていらっしゃるという情報だけでオーディションを受けさせてもらいました」
――― そもそもは俳優の米田敬さん発信の企画だとか。
和田「彼はウォーキング・スタッフがやっていたワークショップに一時期来ていたんです。今回の話を振ったのは僕ですけど、彼は自分が中心になるという覚悟を決めて、作家を紹介してくれたりしながら、いろんなことが進んでいきました」
――― 振ったというのは、ハッパをかけたという感じですか?
和田「お前、このままじゃダメだぞ、みたいなことですね(笑)」
――― その紹介してもらった作家というのが、劇団「かわいいコンビニ店員飯田さん」の池内風さん。
和田「僕は池内君のことを知らなかったので、脚本を読ませてもらって、映像も2本ほど観せてもらいました。今回の話を決めた後ですけど、彼の芝居も観に行きました。僕は映像でも舞台でも、基本的に苦手な作品が多くて、特に日本語の会話のドラマは観ていてキツイことが多いんです。でも彼の舞台を観たときは、いい会話を書くなとか、ちゃんと空気を作ってるなとか、もちろん若くて未熟な部分はあるんだけど、ちゃんと意思統一して作ろうとしているなというのが見えました。それは僕にとって大事なことなんです」
――― そして、オーディションにさとうさんが応募してきた。
和田「書類に「ゲスの極み乙女。」って書いてあってびっくりしました(笑)。一生縁がないような世界の人がどうして来るんだろうと」
――― どういうオーディションだったのですか?
和田「いつも役者を決めるときは、まず会わせてもらって話をします。僕は芝居や演技に対してどうしても譲れない考え方があって、それが通じそうにない人とはやっちゃいけないと思っているので。自分の考える芝居というものが受け入れられないかなと思ったら、僕はその人と一緒に良い芝居を作る能力はないと。そういう話をして、それでも興味ありますか?というところからスタートします。あとは今の芝居の状態を見るために、その場で渡したセリフを少し喋ってもらったりしました」
さとう「お話をさせてもらったとき、俺はずっと演出してないとダメな人間なんだというようなことをおっしゃっていて。それを聞いて、めちゃくちゃ素敵だなと思って、本当にやりたいなと思いました」
役柄に自分が乗っかって起きる反応が楽しみ
――― さとうさんを起用した決め手は?
和田「もちろん本人の魅力も大きいですが、やっぱり自分にとっては話が通じるというか、理解してもらえるんじゃないかという期待がすごくありました。そういう人なら、絶対にその人の魅力が反映される演技をやってもらえるだろうと。僕はいつもそういうものを目指しているので、一緒にやりたいと思いました」
――― 少し芝居をしてもらったときの印象は?
和田「いきなり台本を渡すと、準備が必要とか、役の理解が必要だという話にすぐなってしまいますが、僕の考え方は違います。演技すること自体のコツというものがあって、それを持っている人は、準備不足とか役の解釈とかに関係なく、けっこう良い演技が絶対できるというのが僕の考え方。それでさとうさんにセリフをしゃべってもらって、最初は自由さをそれほど強く感じたわけではなかったんですけど、すごく一生懸命、セリフじゃなくて自分の言葉で喋ろうという雰囲気があったんです。それで、僕から少し話をした後ににもう一度やってもらったらけっこう変わって、より自由にやってくれた。そのときの様子とか表情がすごく素敵だったので、お願いしようと思いました」
――― そんなさとうさんにとって、演じることの面白さとは?
さとう「その人に自分が乗っかるとどういう反応が起きるかな、というところですね。それはもう、自分でしかできないことなので。これからもそこは楽しみながらやっていきたいです。『ドアを開ければいつも』のときは自分に近い役柄で、自分と全然違う人を演じたらどうなるかというのをまだ舞台で経験していないので、そこはこれからの楽しみでもあります。女優としては、とにかく前へ前へという感じですね」
和田「こうして話を聞いていて思うのは、今回の作品で、演じるということに対するさとうさんの考え方とか実感が、今までと少し変わればいいなと。そこで違う快感みたいなものを感じてもらえたら、どんな役であろうと絶対に結果はついてくると思います。僕はいろいろややこしいことを言いますけど(笑)、たくさん話をして、少しでも考え方が伝わったなら、あとは責任を持ってベストな作品にしますから」
(取材・文&撮影:西本 勲)