演劇界を賑わす脚本家・演出家×よしもと所属タレントのコラボレーションで、新スタイルの演劇を送り出して行くと宣言した神保町花月。その第2弾として、田村孝裕率いる劇団ONEOR8が08年に上演した『莫逆の犬』をリメイクして、板尾創路ら新キャストで上演する。
――― 神保町花月の新しい取り組みに田村さんが参加することになったのは、板尾さんの推薦だそうですね?
板尾「結構前にご一緒して、コンスタントに仕事してたわけじゃないんですけど、何度か舞台を観に行かせてもらっていたし、そんなに久しぶりって感じでもなくて、存在は常に感じていたというか、ずっと繋がってる感はありますね。田村さんは、役者との関係性とか序列、年齢、キャリア、そんなものに流されないでしっかり演出していただけるので、厳しいけど信用できた。お世辞も言わないし変に乗せるって感じのことをしないので、何と言うか、正義感を感じましたね。それはいいもんできますわな、って感じだったし、大変だったけど、やっててすごく納得のいくお芝居でした」
田村「僕はもう、板尾さんにお声かけいただいたっていうことのみで、この仕事やりたいと思ってしまいました」
――― 10年ぶりのリメイク再演となりますね。
板尾「主演の宮下(雄也)は初演を観て鮮明に覚えていて、今回の出演を食い気味で志願したって聞いてます」
田村「みたいですね。当時はちょうどいろんな方に注目していただいていた頃で、ちょっとそれに抗って、少し尖ったものをやりたいみたいな生意気な感じが多分あって(笑)、それでこういう絶望的な話になっちゃったんですよね。そういう意味では、今の時代にそぐわないなっていう思いもあるし、それこそ板尾さんとご一緒させていただくにあたって、書き換えたいなって思うところも色々あります。
初演の台本は、本当に救いが何もない、絶望的な話なんですよ。それは今の時代に許されるのかな、とも思うし。主人公が彼女に振られて、××で××になって、××っていうシーンで終わるんですよ」
板尾「はー、なるほどね。すごいバッドエンドだね。神保町花月にそんな演目ないやろうしなあ、刺激になって逆にええかも分かりませんよ」
田村「神保町花月はやっぱりお笑いの場所なので、お客さんが暗—い気持ちで帰って行くお芝居はどうなのかなと思ってたんですけど」
板尾「そういう話、あっていいし、何がいい何が悪いとかっていうのは別にないんで、全然いいんじゃないですか。今までの神保町花月とは違うぞ、結構マジで演劇やんねんな、っていう意味では、歓迎するテーマ、エンディングだと思います。それくらいのほうが、後の作品もやりやすくなったりするかもしれないし。別にそんな、お笑いの場所だからとか、気ぃ遣ってもらわんでもいいですよ」
田村「がっつり参考にさせていただきます。ちょっと考えちゃってたんですけど、今の板尾さんの言葉で、じゃあそういうことでいこうかなって思えました」
――― そんな田村さんから見た、役者・板尾創路はどのような方ですか?
田村「板尾さんは、僕が子供の頃から見させていただいたイメージのまま、もう本当にミステリアス。お芝居もそうですし、私生活もそうですし、稽古もそうでしたし、今もそう。ずっと分からないです(笑)」
板尾「分からない人でも演出できるもんなんですね(笑)」
田村「分からないから、良い意味でも悪い意味でも自由にどこまでも飛べちゃうんです。僕はよく当て書きをするんですけど、板尾さんなら、日常、普通の人はこんなことしないでしょっていうことでも、何か成立する気がしちゃう、そこが強みでもあり怖さでもあると思ってます」
――― 板尾さんはじめ、主演の宮下雄也さん、田村作品常連の矢部太郎さん(カラテカ)など、新キャストの力で、前回を上回る舞台が期待できそうです。
板尾「僕は、劇団の方と一緒にやるのがすごく楽しみです。初演を見てる人にも良かったって言ってもらえるものができたらいいなと思います」
田村「せっかく神保町花月さんが演劇に本気になるっていうことなので、出演いただく芸人さんも役者さん扱いで接するつもりですし、お笑いのライブとかやってる劇場ですけど、僕は“演劇”をここに持ち込むっていう気持ちでやらせていただこうと思います」
(取材・文:土屋美緒 撮影:岩田えり)