演劇ユニット『キ上の空論』主宰の中島庸介が中心となり、演劇作品の製作・プロデュースを目的に2017年に会社化された『オフィス上の空』が新たな試みをおこなう。選出された6団体が“とある部屋”の舞台セットを共通題材に、60分間の作品を上演。それぞれの「個性」と「色」をぶつけあう。「お客様にはシンプルに楽しみを。作る側には新たな出会いと刺激を」をコンセプトとした本企画は観劇に新しい風を吹かせてくれそうだ。
多くの劇団を巻き込む事で生まれるメリットがある
――― 『キ上の空論』作品だけでなく、様々な団体のプロデュースをおこなってきた『オフィス上の空』だが、複数団体を組み合わせた公演は初の試みとなる。
中島「元々は『キ上の空論』が会社化したものが、『オフィス上の空』で、『キ上〜』を中心とした公演をおこなっていく予定でした。でも1つの劇団の公演はどれだけ頑張っても1年に3公演ぐらいが限界。だとしたら、どんどん他の劇団を巻き込んでいこうと。1劇団だけでやるよりも大勢の人達と一緒にやったほうが、もっと頻繁に公演を打てるんじゃないかという所が始まりですね。
今回はシンプルに僕の好きな劇場と団体さんを組み合わせました。吉祥寺シアターは東京に出てきた時に最初に目標にしていた場所であり、演じる側としても観る方としても居心地の良い場所。6団体は実際に観にいって面白い!と感じた所にお声がけさせてもらいました。僕が元々会話劇が好きなので、ファンタジーや抽象的というよりも、具象的なお芝居が中心となる予定です。
小劇場にとって、吉祥寺シアターで公演を打つのは予算面でも集客面でもとても大変な事ですが、1つの劇団だったら難しくても、色んな劇団を巻き込めば集客も互いに補う事もできるし、お客さんが初見の劇団を観て面白いと感じてもらえる新発見もありますよね。また劇団側にも大きなハコで実力を試すメリットがある。6つの団体だからこそ出来る事が、この企画に含まれているような気がしています」
“縛り”がより各々の“色”を際立たせてくれる
――― チラシのメインビジュアルには共通の舞台セットである“ある部屋”の設計図を利用するなど、「公演の意図が伝わるように分かり易く、企画書のようなものを心がけた」という。代表の中島と共に事業を運営する副代表の森脇洋平、アシスタントプロデューサーの富田喜助らも本企画に込めた意図を語る。
森脇「今回は2団体で1組の公演とし、計3組、合計9日間18ステージ(1団体あたり6公演)を上演します。それぞれ2団体を『赤』『青』『黄』の3チームに色分けをしましたが、同じ組の2作品であっても、全く対照的なのが面白いですね。
例えば黄色チームは、一方はコメディで、一方は静かな会話劇と、むしろ正反対な組み合わせにしているので、ふり幅はかなり大きいです。共通のセットを“ある部屋”にした理由としては、会話劇中心の劇団が多い中で、一番物語が膨らみやすい空間はどこかと考えたら、部屋だろうと。部屋に色んな人達が住んでいるように、各劇団さんも図面を見てインスピレーションを得て、色んな仕掛けをしてくると期待しています。
そういう意味では物語を作りやすい劇空間ですよね。例えば演劇フェスだとお客様自身がどういう系統の団体が出るのかなど、前もって情報を集めて行かないと、何が起こっているのかを把握するのは難しいのではないかと思いますが、このようにタイトルに書いてあれば、何が起こるかはわかりやすいと思います。
また、演劇フェスだと何も縛りがない分、各劇団に委ねられる部分が多いですが、今回の僕らの企画では“同じ舞台美術を使用する”という縛りの中で、逆に脚本や演出で団体の色が際立つのではないかと思います。1つ共通のものがある中で、物語が劇団によってこうも違うのかと。それによって同じはずの美術もまた違うものに見えてくるという世界は、他の演劇フェスにはない面白さだと言えます」
富田「僕はこの6団体が集まると聞いたときに、これだけの団体が同じ企画で集まるんだとすごくワクワクしました。1度で2団体の公演を観たら、きっと他の団体はどんな仕掛けをしてくるんだろうと気になってくるはずです。そうなれば僕達としては大成功。
しかも各団体60分公演とちゃんとボリュームもあるので、しっかりと各劇団のカラーにも触れることができます。これは劇団側の人間にも言えることですが、お互いのカラーが刺激になれば、また新たな創造が生まれる可能性も出てくるので、仕掛ける側としても非常に楽しみです」
信頼できる“レーベル”としての企画に
――― 画期的な試みとなる本企画には、小劇場の置かれた現状を打破したいという思いも強く込められている。
中島「小劇場の劇団は4千以上あると聞いた事があります。ユーチューバーのように名乗れば誰でも女優、俳優になれるという飽和状態で、お互いに良くも悪くも、ライバル視をしてしまうんですよね。その中でなかなか1つの劇団が抜けるには難しい。でも僕らが言いたいのは『みんなで行こうよ』と。
小劇場に関わる人達もきっと、この芸術でご飯を食べていきたいと思っているはず。でも現状を打破できずに時間だけが経っているという状況をどうにかして変えて行きたい。その為に会社を立ち上げました。色んな取り組みをおこなう中で、集客でも金銭面でも潤いを持たせられる仕組み作りが出来たらなと。
吉祥寺シアターで公演を打つにはキャパ的にも一定以上の集客が必要になってきます。集客の為キャスト数を多く出すと、作家さんに負担がかかって、本来やりたい事ができなくなってしまう。でもこういう企画があれば、大きな劇場であっても、作家さんがやりたいものを薄めずに伝えられる。そういう意味でも作家さんにとっても良い試みだと思います」
森脇「確かに小劇場は各々が自己プロデュースの集まりなので、お客さんも誰の何を観に行ったらいいのか分からないと思うんですね。小劇場独特の見えない壁みたいなものがあって、アングラなイメージというか。でも1つ信頼できるレーベルみたいなものがあれば、観劇へのハードルもかなり下がると思うんですよ。僕らも小劇場上がりの人間なので、おこがましいかも知れないけど、『上の空』というレーベルに関わって頂ける事が信頼に繋がれば嬉しいです。皆で手を取り合って、各々の色が出しやすい環境があれば、お客さんも1歩足を踏み入れやすくなる。今回のこの企画がその一歩になればと思います」
1年に1度のペースでの定期化を目指したい
――― 観る側にも演じる側にも新しい価値を提供してくれる本企画は今後の発展にも期待したい。
森脇「個性の異なる2つの団体が対になっていることで、絶対劇団さん同士が意識しあうと思うんですね。色んな美術の使い方や、駆け引きも裏ではあるのかなと楽しみにしています。色んな個性がぶつかり合うことで生まれる化学反応に是非注目して欲しいなと。今後は面白い事をやっているのに、どうしても大きい劇場でできない劇団さんや、学生劇団さんとかの手助けを出来たら良いですね」
富田「お客様にはこの6団体の名前を見てワクワクしてもらえたら勝ちだと思っているので、そのワクワクを信じて観に来て欲しいですね。この6団体が一同に会するのはめったにない事ですし、是非内部の人達にも面白がってもらえたらなと。他の団体さんを観に来たお客様が別の団体のファンになる可能性もあるので、良い意味でのハプニングに期待して欲しいです。皆さん、一緒にステージを盛り上げていきましょう!」
中島「今回は初めての試みであり、今後どうなっていくかは分かりませんが、1年に1度のペースで定期化しようと思っています。今年もこの時期が来たな!という紅白歌合戦のような企画にしていきたいですし、色んな方にこの企画そのものを面白がってもらえたら最高ですね。公演時期も4月の気候も良い時期なので、是非、お花見みたいな感じでふらっと来てもらえたら嬉しいです。劇場でお待ちしています!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)