個性派俳優 小野寺丈が作・演出を手掛けるプロデュースユニット・JOE Companyが放つ新作舞台は、“登場人物、全員詐欺師!” ベテラン・中堅・若手の実力派・個性派キャストが己の技量をかけ、痛快無比に騙しあう究極のクライムコメディだ。綿密に練られた脚本と大胆な演出の下、騙し騙され、勘違いが勘違いを呼ぶ、二転三転のストーリーは果たしてどんな結末を迎えるのか!? 御歳80を迎える超ベテラン俳優、島田順司と共に、本作にかける意気込みを語ってもらった。
これまでの作品で一番悩んだプロット
――― 俳優、脚本家、演出家、演劇プロデューサーと多彩な顔を持つ小野寺丈が書き下ろす完全新作は、詐欺師たちが織り成すクライムコメディだ。小野寺が『自信を持って送り出せる一作』と言えるまでには相当な産みの苦しみがあったという。
小野寺「これまでの僕の作品は非日常的なもの。例えば時間が飛んだり、ゴーストが出てきたり、ファンタジー的な要素が強かったのですが、一度、非日常を捨てて日常の人間の世界を描きたいという思いがありました。その中ででも人が人を騙すという行為がとてもドラマチックに感じたんですね。ならば登場人物が全員詐欺師で、且つ全員で騙しあったら面白いんじゃないかという所から構想を練り始めました。
でも、そこからが大変だった。脚本の設計図とも言えるプロットは作品創作の中で僕が最も重要視する部分であり、1シーン毎に、どんな状況で誰がどんな会話をして、どうセットを使い、どう出捌けするかまで細かく作る。言わば、作品の屋台骨になる部分。これが作品の出来を左右します。逆にここさえうまく出来れば、あとは流れの中でまとまるぐらい重要なパート。たぶん、これまでの作品で一番悩んだんじゃないかな。
その苦しい状況を打破してくれたのは1つのアイデアの思いつきでした。それは物語の鍵を握る島田さんに“2役”を演じてもらうこと。それで全てが解決しました。それ以上は言えないのが心苦しいですが、普段の日常でも、お互いが勘違いしたまま、話が進んだりすることがあるじゃないですか。些細な勘違いが物凄い勘違いになったりとか。そういうギミックが畳み込むように仕掛けられて二転三転し、最後に大どんでん返しが待っている怒涛のコメディになっています。これはかなり自信がありますよ」
俳優も虚構の世界を生きている
――― 今回はベテランから若手まで幅広い年代層をキャストに据えた。その中でも小野寺が『究極のベテランはこの人しかいない!』と出演を熱望したのが、御齢80を超える超ベテラン俳優の島田順司だ。
島田「それって生存している役者を上から当たっていったら、僕だったていうやつでしょ?」(一同爆笑)
島田「僕は最初は観客として丈くんの芝居を観にいったんですよ。彼の発想が好きでね。この人は忙しいですよ。書いて、演出やって、プロデュースやって、演技もやる。1人4役ですよ。今時、4つのわらじを履いて、しかも4つ全てに全力で取り組む奴はどんな奴かと。作品ごとに座組みをするわけですが、自分もその作品の一部になりたいと思って協力するようになりました。お互い映画好きという共通点もあるよね。
(詐欺師の役だと聞いて)だいたい俳優は虚構の世界に生きていますから。実際の詐欺師も、虚構を作っておいて、その中に自分を当てはめて、日常を送っているんじゃないかなと想像します。彼らの中の日常感覚は我々にとっての非日常。それをどうやって、役者としてうまく表現できるか。この詐欺師に役については、たくさん材料が転がっていますし、過去の作品を真似て作るのは簡単だけど、自分の精神世界まで落とし込むのはかなり難度の高いこと。だから常に自分から仕掛ける芝居をしていこうかと。詐欺師役は初めての経験なので、ある意味新鮮でもあり、楽しみでもあります」
最低条件はお客を楽しませることだ
――― キャストにはベテランの島田順司を筆頭に、中堅・若手の実力派・個性派俳優が揃った。そこにも小野寺の意図が見える。
小野寺「キャスティングの幅を広くした事で、世代を超えたそれぞれのファン層が集まる事を期待しています。その分、幅広い層のお客さんに楽しんでもらえるものを提供しないといけないので大変ですよ。常にお客さんが何を求めているか考えないといけない。今回は苦しみの末に辿り着いた新境地の作品ですし、演出面でも思い切り凝ってやろうと思います。僕が小劇場にこだわるのは、大劇場では伝わりにくい人間の機微などの繊細なものが、伝わりやすいからです。僕ら作家や演出家、役者たちがギリギリのところまで突き詰めていた上に出来上がる演劇ならではの面白さを、是非間近で体験してもらいたいからです。そういう意味でも島田さんのパッションは小劇場向けとも言えますよね」
島田「はい。ここの劇団の過激さは肉体的も精神的にも大変です(笑)。ここでは主役や端役といった言葉はありませんし、序列もありません。ある意味全員が主役と言えます。その全員でお客さんが楽しい芝居は何だろうと、とことん突き詰める。頭脳的、肉体的に何を要求されるのか、ついていくだけでも大変ですよ。
でもお客さんが楽しい芝居はなんだって言うと、作家や役者が楽しい芝居じゃないんですよ。見せる側が楽しい芝居なんてのはお客さんにとってはどうでもいい事。我々の仕事の最低条件はお客を楽しませることですよ。その場で客席の雰囲気を感じて、その場で表現をする、テレビや映画にもない勝負の世界なんです。そういった場を経験して役者は育っていくものだと言えます」
見事に騙されるという爽快感を楽しんで
――― プロット、脚本、演出、キャスト。全てが緻密に計算しつくされた究極のクライムコメディが間もなくベールを脱ぐ。
小野寺「とにかく伏線が鍵を握っています。それだけ時間をかけて考え抜いたプロットですので、間違いなく皆さんは騙されると思います。それもかなり気持ちよく。二転三転するしかけですが、決してお客さんを置いてきぼりにするようなことはしません。観終わって、あーやられたな!と思わせる爽快感溢れるハッピーエンドが待っていますので、是非鮮やかに騙されて欲しいですね」
島田「役者としては丈くんを騙したいよね。ここまで面白くなったぜ!と良い意味で裏切りたい。どっちも腹の探りあい。もう作者と役者の騙しあいは始まっていますよ。
今回、もしかしたら私の最期の舞台になるかもしれないと皆様に思っていただいて、沢山のご来場をお待ちしております。最期の凄さをお見せしたいなと思っております。これが私の心からではないメッセージです」
小野寺「休む間もなく、すぐにまた声かけますけどね(笑)」
(取材・文&撮影:小笠原大介)