海外発の「人狼ゲーム」を13名の役者たちが即興劇で魅せる観客参加型エンターテインメント『人狼 ザ・ライブプレイングシアター』(人狼TLPT)。2012年の立上げから人気を集め、この3月に定番の“村(ビレッジ)”演目と、新作“学園”演目の上演が決定した。わずか6年で50公演500ステージを上演したアドリブ舞台とは。プロデューサー・桜庭未那と、初演から出演している林修司に話を聞いた。
『人狼TLPT』のはじまり
「人狼ゲーム」は味方になりすましたウソつきを会話で見つけ出す10名前後で遊ぶゲームで、そのゲームをステージ化。脚本はオープニングのみ、開演前に6種類13枚のカードで決まる役割に従い人間vs人狼の戦いを即興劇で繰り広げます。全てのステージが二度と同じ展開、結末のないたった一度の物語。観客は誰が人狼なのか推理で参加する。
――― この企画をやろうと思ったきっかけは何ですか?
桜庭「私は子供の頃からゲームが大好きでして、“人狼ゲーム”はインターネットがまだ普及していない昔からあって、人数がいないと遊べないゲームなのでパソコン通信の時代に夜11時のテレホーダイタイムにオンラインで集まって、掲示板で人狼ゲームを遊んでいました。
そのあとお友達と対面で人狼ゲームやる機会がありまして、人狼ゲーム自体は嘘つきを探してやっつけていくゲームですが、“嘘つき”、“能力のある人”、“能力の無い人”がいて、“能力の無い人”のカードを引いた人に対してゲーム中の扱いが雑だったんです。
私が演劇をやっていたこともあってふざけて死んでしまう人に『兄さんは悪くない!』みたいにドラマチックなことをやりはじめたらめちゃめちゃ盛り上がったんです。
素人のごっこでやってもこんなに面白いんだから、プロの役者が本気でやったらすごいドラマが生まれるのではないかと。しかも毎回やる度に悪いやつが変わるので、これはアドリブとか長けている役者さんを集めたらとんでもない物語が自動に出来るのではと。
始めた時には私は別の会社にいまして上司に企画書を出しましたがちょうど震災があった時で、今は小難しい話や物騒な話よりも明るくて分かりやすく楽しめるものでないと却下されたんですね。でも私にとって今やらないと、という焦りがあったので、演出家の吉谷光太郎さんを夜中に呼び出し(笑)、説明をしたら5秒で『やりましょう』と言ってくださって。それでやっと始められた企画になります」
――― 斬新な企画、スタート当初はキャスティングや作品について説明が大変だったのではないでしょうか?
桜庭「そうですね。初演は自腹でやりましたが、幸いなことに林さんも含めてプレビューメンバーはほとんど吉谷さんが声をかけてくださったので、スタートは運よく吉谷さんのおかげで良いメンバーが集まりました。実はその時に人狼ゲームを知っているのは林さんだけだったんです。なので初めからリーダーのように引っ張っていただきました」
林「そうなんです。吉谷さんから面白い企画があるんだけどこの時期空いていない?と(笑)。僕は稽古場で役者とのコミュニケーションとして人狼ゲームと出会っていて、面白いなと思っていました。その人狼ゲームを演劇とは取らえていなくて、稽古場へ行ったら台本があり、おや?と(笑)」
桜庭「観ないとわからないので説明はあきらめて、センスとアンテナの良い魅力的な役者さんであればきっと大丈夫であろうと。正直この企画を説明しただけで面白いと思ってくれた人は吉谷さんだけ。吉谷さんと林さんがいらしたことは運命です」
僕が求めていたものはこれ
――― 初演で印象深かったことはありますか?
林「役者陣はそんなに稽古時間があった訳ではないので、“セリフをしゃべる事”と“ゲームを破綻させない”ことに必死で、当時は一公演一公演やるだけでした。でもお客様達が凄く面白いと言って連日当日券を求める長蛇の列ができ始め、自分達が頑張ったことがこんなにも響くんだなってお客様から教わりました」
――― そのスタートに立ち会えたことは嬉しいですよね。
林「本当に嬉しいです。 桜庭さんの“企画でお客様を呼びたい”という事が新鮮でした。
当時は人気原作をやる、人気者を集める企画が多くて、物づくりをやる人間として物足りなさを感じていたんです。それが人狼やオラクルナイツの皆様と出会って話している間に、僕が求めていたものはこれこれ!って」
――― 出演者は対応力が求められると思いますが、プロデューサーとして大切にしていることは何ですか?
桜庭「脚本や設定によってもちろんテーマがあり、代表的な作品の『村』シリーズですと自分の命も含めて“命を大事にしながら戦って欲しい”という事がテーマです。キャストさんの知名度に関わらずスタートしたこともあり、登場人物が13人いますが、帰りには絶対覚えてもらえる数人の中に入るように、最初にゲームから脱落しても記憶に残る人になるようにと心掛けています。
後はお客様が見ながら“死なないで、明日もあなたが観たい”と思えるような魅力を自分で作ってねと言っています。役者さんの人気に関わらず評価されて欲しいので、褒められたらそれは自分の物であると伝えています。この作品は個人プレイではなくて、13人みんなで作らなければいけないので、仲間として自分以外を立たせるという瞬間が逆に輝いたり全体を良くしたりするのでチームプレイなんです」
『人狼TLPT』とは、このテーマをどんな曲で奏でようか、本番中にチューニングしていくイメージ
――― 稽古の進め方は普通の舞台と違ってくると思いますがどう挑むのでしょうか?
林「役者をやっていて大切にしていることは、プランは持って行くけど、実際にみんなとセッションする時はある程度ノープランで“やる”と決めているんです。最終的にどの曲を奏でたいかはみんなで決めればよくて、演歌の人もいればロックの人もいてレゲエの人もいる。演劇が細かくジャンルが分かれていないので音楽のジャンルで例えるのが一番分かりやすいのですが、劇団ではなく色々なジャンルの人たちが集まって、そこに演出家さんが今回はこれにしようとみんなで決めて13人で奏でようとなるのが普通の演劇の作り方。でも人狼はそういう意味で言うと、ロックの日もあればレゲエの日もありヒップポップの日もあるみたいな……それをみんな本番中にチューニングしていくっていうイメージです」
桜庭「まさに、誰がリードボーカルかとかね、わかりやすい!」
林「お前が唄うのね、じゃそうやって歌うならバイオリンかな、ギターかなとか、楽器をみんなで変えていく。インプロ(即興劇)の基本はノーと言わない事なんです。 受け入れることでお客さんは笑ってくれたり、否定しないことが重要なんです。『村』演目だったら、命を大切にという絶対的テーマがある中で、このテーマをどんな曲で奏でようか、というのを役者13人でやっているイメージです」
桜庭「わかりやすい!」
――― これはネタを出し惜しみできないですね!
林「13人がネタを13個持ってきて、それをいくつやれるかというのをみんなで精査しなければいけなくて、初日は出せても2つくらいなんです。なので残りの11人が提案に乗り、自分の提案を無理にやらない事が作品に厚さが出ると言うか、空気を読みつつですね」
桜庭「しかしゲームがガチなので難しいんです。“ゲームを捨てない”というルールがありまして、例えばアドリブ的にここは林さんが生き残った方が面白いだろうと思っても、面白がって林さんを処刑しないことはなしで、どんなに苦しくても分かってしまったら処刑する。絶対のルールはあります。色々な要素を瞬時にみんなで判断して作る作品です。
人狼ゲームは騙し合いに思われがちですが、信じあいですね。信用させた方が勝ちなんです。騙すよりは信じてもらう、一人一票しか持てないので、仲間も信じてもらわないと票が集められない。お客様も回答用紙を持って参加しているので、お客様を騙すというよりは、客様には物語を楽しんでいただき、人狼を引いた人は翻弄することはあるでしょうけど、信じたことで間違った結果になる方が面白いですよね。お客さんに本物だと思わせる方が重要です。お客様に不快な想いをしてもらいたくないので、騙すというネガティブなものより信じさせるとか、人狼も仲間がいるので仲間を助ける気持ちを大切にしています」
――― 一期一会な作品ですが、思わぬ方向へ進んだり、本番で印象深かった出来事はありますか?
桜庭「稽古で凄いのが出ちゃう時がありましたね(笑)。爆笑回に関しては林さんの右に出る人はいません。林さんはステージでお客様を楽しませることしか考えていない(笑)。めちゃくちゃ恐ろしく会場中がビリっとくる時もあれば、林さんが死んだだけで爆笑されたり。林さんだけですよ! 死んで拍手が起きるのは」
林「(笑)。その演目は死んだら客席にはける段取りで、めちゃくちゃ美味しいって思って。ちゃんと死ねたのでここはもう目立って帰ろうと思ったらなぜか拍手が起きるという」
桜庭「残ってるメンバーもステージで笑いをこらえていましたね」
7年目にして林修司が演出を務める
――― お客様を楽しませる林さんは今回ビレッジ編で初の演出に挑戦されます。
林「評価は100%お客様がするもの。お客様が笑えたとか泣けたとか、色々な意味で面白かったと言ってもらえたら勝ちだと思っています。そして終わった後に、あえて『もっと面白くするにはこういうアイデアがあったね』というアドバイスはみんな聞いてね、ってことだけはモットーにやっていこうと思っています。人狼を7年間やっていて、個性豊かな俳優さんがいっぱいいて、持っている楽器が全員違うんです。みんなで一緒にクラシックをやろうって演出家が言っても無理ですよね、個性を大事にして行こうと思っています。
そして今回は演出にプロジェクションマッピングを使用します。目で見て耳で聞いても面白い作品やりたくて。村人狼に関しては歌ったり踊ったりすることに対してそれほどなくていいかなと思っていて、そう考えると動きが少なくなってしまうので、そこから映像を入れることにしました。より感覚でも楽しめる物語と映像をリンクさせていきたいですね。
空にオーロラが出て綺麗だなとセリフがあったとして、想像してもらうしかないですが、それは優しくないなと思うんです。映像を流して役者がオーロラ綺麗だねって言ったらどれだけハードルを下げてあげられるだろう。 決められたセリフのハードルを下げることが演出家の仕事だと思っています」
桜庭「参加型一体型の企画なので、会場の気持ちを一つにまとめるための一つの手としてはビジュアルという手法はすごくいいと思いますね」
――― 7年目にして新しい人狼TLPTが生まれそうですね。
桜庭「そうですね。7年目で、林さんだからこそ私たちはいいと思っていて、 誰よりも理解を深くしている林さんで、しかも村ではないバージョンの演出はされています。真髄を理解している林さんが7年目にして考える演出を私たちは完全に信頼しています」
林「桜庭さんがコンテンツと共に育ててきた俳優さんもたくさんいらっしゃるので、その良さを絶対に消さないようにするだけですね。オープニングはとにかくお客様と一体感を持って、ゲームが始まる本編ではキャストの個性やいいところを絶対に消さないように、どこまで自分の意見を言って押し付けないか。
それぞれの皆さんの個性に合わせてアドバイスをしていけたら」
桜庭「全員主役なんです。13人どんなキャリアであろうと、誰が主役になるかわからないステージなので、普通のお芝居よりは一人一人にさいている時間は長いと思っています」
新設定で新規のキャストさんがアドリブ芝居で勝負ができるように
――― そして新作、学園を舞台にしたイグザムが上演されます。
桜庭「イグザムは試験という意味。おまけステージでは学園ものを少しやっていたのですが、今までの学園と設定を一新させ、新規のキャストも入りやすいものを作りたいなと思い誕生しました。 未来の学校のお話で、入学することが難しい学校に特殊な入学方法が一つあって、その方法が試験会場に行くと人狼ゲームをやらされる……というものです。そして幼等部から研究員クラスまであり、飛び級もできるので何歳でも入学できます。この学校に入学すると月面に建設中の特別校舎に行くことができるというお話で生徒たちは試されます」
林「人気シリーズになりそうですね」
桜庭「新設定で新規のキャストさんがアドリブ芝居で勝負ができるようにできたら。この人狼はもっと色々な役者さんに関わってもらいたいので、ベテランの方はもちろんですが新人の方が学ぶ場としてもよい場所ではないかな」
――― ではこの3月公演はあらたな扉をあけるような作品になりそうですね、未体験の人もこれはチャンスですね。
桜庭「だからこそ、まだこの人狼TLPTを見ていない方はここから見ても大丈夫です。劇場で生で見ることは本当に楽しいです」
林「人狼ほど参加型の舞台はなかなかないと思います。お客様の時間がある舞台なので、お客様も僕たちも両方が主役になれる舞台です。アトラクションみたいな、参加型演劇のものすごく新しい形と思います。一緒に舞台を観てお客様もその日の主役になって欲しいなと思っています。是非いいらしてください」
桜庭「キャッチコピーが『これよりはじまるは……今をおいて他にない、たった一度の物語。』というキャッチコピーなんですが、たった一度しかない物語が何篇も紡がれていきます。そこにあるのはキャストだけの力ではなくお客様を交えた物語ですので、ぜひ一つ一つの物語を一度でもいいので体験していただけたら嬉しいです」
(取材・文&撮影:谷中理音)