次世代の演劇界を担う脚本家・演出家と吉本タレントのコラボレーションで創る、新スタイルの演劇を発表し始めた神保町花月。4月公演『演劇♡顧問』は、劇団□字ックの主宰で、映画やドラマの監督・脚本家としても活躍する山田佳奈を脚本・演出・キャストとして迎え、しずるをはじめとした芸人たちと創る新作を上演する。
美保純主催の飲み会から始まった企画
――― 村上さんのお声掛けで、山田さんがこの企画に参加することになったそうですね。
村上「山田さんとはプライベートでお付き合いがあって、作品を観に行かせてもらったこともあったんですけど、仕事でご一緒したことはなくて。いつか何かやってみたいねって話はしてたんですよね。そうしたら神保町花月がリニュアルする話を聞いて、機は熟したぞ、みたいな。山田さんがお忙しいのは知ってるんで、実現して良かったです」
山田「村上さんとは、美保純さんを交えた飲み会の飲み仲間。クリエーターとか芸人とかじゃなく、普通にお友達みたいな感じだったので、今回こういう機会をいただけて光栄です」
村上「美保さんから『すごい面白い、気持ち良い作品を書く人がいるのよ!』って言われて、初めて□字ックを観に行かせてもらった時に、すげえ!って思って。言い方は悪いですけど、えげつないところをこんなにやるんだ!みたいに思って、すごい鮮明に覚えてて。そこから飲み仲間になりましたよね」
山田「そこから私は、しずるのライブにはずっとお客さんで足を運ばせていただいてました。でも、池田さんとは今回の舞台の話が来て、初めておしゃべりしましたよね」
池田「ほんと、そうですね」
山田「そういう意味でも新鮮というか、飲みの小さいノリが仕事になって、面白いなあと思いますね」
高校演劇界の裏側を描いた、大人の青春物語
――― 「高校演劇」をテーマにした作品だそうですが。
山田「去年からずっと温めてた、高校演劇のバックヤードというか、先生たちの話になります。高校演劇の先生たちって、自分たちの甲子園がまだ続いてる、みたいな感じでめちゃめちゃ面白いんですよ。子供に夢を託しながらも自分たちの夢を追っているので。大会で負けたのが悔しすぎてそれをストレートにぶつけてくる人、逆にこちらが考えている以上の言葉で礼を伝えてくれる人、本当に色々いらっしゃる。あと、やっぱり限られた世界なので、先生同士で内緒で恋愛してたり、生徒に対しての接し方に右往左往されてたり。そういうお話を伺って、これはドラマがあるなと思ってたんですよ」
――― そんなドラマがあるんですね。
山田「私は高校演劇出身ですし、大会の審査員として講師をやったりもしてるので、高校演劇の表も裏もどんな感じか分かるんですけど、こういう話にしようと思うって村上さんに話した時、もちろんご存知なかったんです。ただ、私には分からないM−1グランプリやキングオブコントの裏側にも何か共通する部分があるかもねって聞いて、このテーマ正解だったな、と思いました」
池田「修学旅行とかでも、教師ってなんか僕らに隠れてビール飲んでたりタバコ吸ってたりみたいなことを聞くんで、そういうことなのかな?って。教師側に立つなんてこと、演劇とかじゃないとないんで、楽しみっすね」
――― しずるのお2人は先生役ですか?
山田「まだ確定ではないですけど、しずるさんも、他の方も全員先生役。バイク川崎バイクさんだけ、高校演劇の審査員役の予定です。奇妙な劇団名の劇団主宰とか面白いなって思ってて(笑)。カートヤングさんに演劇論でめっちゃ責められてる感じとか」
村上「バツが悪い感じは似合ってるかも(笑)」
山田「吉本さん側のキャストでは、カートヤングさんとヒラノショウダイさんは初めましてです。バイク川崎バイクさんは、私が一時期すごく好きで、稽古場とかでテンション上がるから、ずっとヒ〜ヤヒ〜ヤ言ってて(笑)、ラインのスタンプも買ってて」
村上「確かに持ってますね」
山田「そしたら、俳優の山田ジェームス武が知り合いだって言って、私の舞台に呼んでくれたんですよ。そこで、ただのファンみたいな感じで初めましてして、そこから舞台を毎回観にきてくださってるんです。しずるのお2人は同期でしたっけ? 仲良しだっておっしゃってましたよね」
池田「そうです、同期です」
村上「僕ら、これくらいの期間、こんながっつり芝居やるのは今回が初めてなんです。なので、演者の中に同期がいてホッとするっていうか、嬉しかったですね。実はバイクってそんなイメージ無いんですけど、吉本の俺ら周りの芸人の中で一番くらい、演劇を観に行ってるんですよ。『バイクだけに、ブンブン』とかやってるイメージが強いと思うんですけど、お芝居観るのも好きだし、1人コントもやってるんで、そういうところも楽しみですね」
――― じゃあ、バイク川崎バイクさんの知られざる、蓄積された何かがこの舞台で出るかも?
村上「そうですね。本人いないところでハードルあげちゃってますけど(笑)」
芸人流は封印。□字ック×しずるの意味がある芝居をちゃんとやりたい
――― 吉本の劇場で“芸人さんとお芝居をすること”に対して、山田さんの普段のお仕事との違いはありますか?
山田「すごく前に、神保町花月さんに脚本だけ書かせていただいたことがあっったんですけど、まあアドリブ合戦になるんですよ」
村上・池田「(笑)」
山田「なので、今回はそれを込み込みで書きたいなと思って」
村上「あー、そうなんだ」
山田「“ここはもう、塩梅良く面白くやってください”みたいなのもありかなって。もちろん演劇なので、やるからには台本があって台詞があるんですけど、こんなにがっつり芸人さんとやらせていたことはないので、そこの旨味を使った方がいいというか、じゃなかったらあんまりやる意義がないかなと。うちの劇団員はそういうの好きな人たちなんで、多少迷惑かけてもいいだろう、面白がってくれるだろうっていう気持ちもあるし」
――― 逆に、“□字ックらしさ”みたいなことは意識されますか?
山田「最近は、□字ックでやらなきゃいけないもの、劇団の作品において求められているものっていうのが一個あるなあと思っていて、個人のクリエイティブはそれとは別に分けて考えるようになってきているんですね。例えば、□字ックだったら女性が主人公のものを求められているけど、個人のクリエイティブでは、そこはもう取っ払って求められているものをやる、っていう考え方で。今回の作品は、その個人のクリエイティブの考え方に近いかもしれないです。
ただ、企画には〈□字ック×しずる〉とついているし、脚本・演出が私なので、□字ック節っていうのは自ずと出るだろうなと。けど、変に意識はしてないです。どこを面白がれるかが毎作品違うだけで、今回は芸人さんとやるって事が面白いから、そこをちゃんと、ある意味緩くふざけてやれたらいいなって」
――― しずるさんは、“俳優として演劇をする”っていうことを意識されますか?
村上「吉本の劇場なんで、俳優として出るっていうモードじゃなく、いつもっぽくなりそうな気もするんですけど、せっかく“俳優”って言っていただけるなら、俳優になりきってというか、コントじゃないですけど、□字ックの俳優の方々と同じような面するっていう楽しみ方もいいかなって。せっかくの機会なので、いい経験にしたいです」
池田「どこまでが芸人でどこまでが俳優、みたいなことって、決めるのは周りだと思うので、もう与えられた物を一生懸命、どこが面白いかっていうのを教えていただいて、それを最大限邪魔せずに出せたらいいと思います」
――― 控え目ですね。
池田「芸人が芝居やることに、あんまいいイメージない人もいるんでね。自分がどれだけ面白いと思ってるか知らないけど、アドリブ入れすぎじゃない?みたいな話を聞いたことがあって。でも、シソンヌだけはちゃんとやってくれた、みたいな話聞いて」
村上・山田「(笑)」
池田「ほとんどの芸人が内輪で笑いを取る、みたいなことを聞いたことあって。そのイメージを払拭まではできないですけど、しずるもちょっとシソンヌ寄りなんだって言われるように」
――― シソンヌさん基準ですか(笑)?
池田「はい。もうそろそろ大人なんで、脚本全体で何が面白いんだろうとか、ここは出てもいいんだって時には出て、出ちゃいけないって思ったところでは出ない。そういうところ、ちゃんと把握してやれたら。山田さんがやりたいって思うことをできるように、僕らは出せる力を最大限出す。勝手にやんないようにしたいと思います」
山田「え、勝手にやって欲しい」
村上「でもそれはやっぱり、どこまで許されるのかのラインが難しいよね。で、また、神保町花月っていうのも良くない(笑)。僕ら、ここでずっとやってたんで。良い悪いは別にして、普通のお芝居に比べて、やっぱり芸人って稽古が少なくて、“台詞入っちゃったらOK!あとは行間をボケで埋めればいい”みたいなとこがあって。結局、ボケて突っ込んでっていうお笑いのところが正義だったりするんで、以前はお芝居をフリにするような座組みが結構あって、それは吉本っぽくていいんですけど、その空気感が残ってるんですよね」
――― ここ(神保町花月の稽古場)に。
村上「そう。俺らバカなんで、ここにいるからあの時の感じ、って体が動いちゃう可能性があるんですよね。“実家ではくつろいじゃえ”みたいな。でも、実家に山田さんに来てもらってる、みたいなことだから、振る舞い方はちゃんと考えてお芝居しよう、ってことですよね。山田さんは勝手にって言ってくれてますけど、それはサービスで言ってくれてるんで、そこに甘えずやらないと」
池田「プロだし、仕事だし。遊びじゃないんで」
村上「格好いいじゃん(笑)。でも本当、せっかく□字ック×しずるってなってるんだったら、いい意味で硬くなってもいいと思うんです。振り幅を作るというか、しっかりキュッと締めるところがあるからこそ、いい塩梅でゆるくと言うか、遊べる部分ができるので。基本はやっぱりお芝居させてもらう、□字ックに入らせてもらうっていう入り口で、足並み揃ってる方がいいかなと思います」
――― 公演も、“役者・しずる”も、楽しみです。
池田「邪魔せず、命令されたことをしっかり遂行するのを目指そうと思います」
村上「奴隷宣言(笑)? 13公演あるんで、本番をやっていく中で結構変わったりすると思うんですよ。お客さんにそこに付き合っていただくというか、そこも含めて楽しんでいただければ、2回3回観る楽しみもあるのかな、って。で、千秋楽が終わった時には、□字ックのお客さんも、出演する芸人のお客さんも、どっちにも楽しかったって言ってもらえるようにしたいですね」
山田「これ、□字ックの本公演を除くと、私の今年唯一の新作なんですよ。最近は映画やドラマにも携わらせていただいて、本当にありがたいんですけど、やっぱりホームは舞台だなって思ってるので。大好きなしずるさんやバイク川崎バイクさんや芸人さんとご一緒できる、しかも13公演打てるっていうのは幸せなことなので、沢山飲みに行って、沢山のお客さんと共有したいですね」
(取材・文:土屋美緒 撮影:平賀正明)