2016年にスタートした女性キャストだけの演劇プロジェクト、AUBE GIRL'S STAGEの第6回公演は、主人公の女子大生・遥(はるか)が幼馴染たちと一緒に1997年へタイムスリップする『遥か2019』。複雑な家庭環境で育った主人公が、生まれた頃の時代で見たものとは……? 2013年に本作の初演版『遙か』を執筆・上演し「いつか再演したかった」という山本夢人と、ダブルキャストで主人公を演じる三村遙佳、吉田彩花に話を聞いた。
キャストの親世代にも楽しんでもらえる内容に
――― あらすじによると、生まれてすぐに母親を亡くした主人公が、かつて自分の生まれた町が「宇宙開発の町」として知られていた1997年にタイムスリップして、宇宙開発が頓挫した謎と母親の死の謎を目にするという物語です。初演はロケットエンジンを開発する男性が主人公だったようですが。
山本「そこを女性キャスト用に変えています。あと、初演の評判はとても良かったのですが、自分としては、もっとこうしておけばよかったと思うところがいくつかあって、やり直したい作品ではあったんです。もちろん、AUBE GIRL'S STAGEでやってみたい作品だという思いもありました」
――― タイムスリップする先が1997年というのは?
山本「主人公が生まれた年なんです。初演では2035年から2013年にタイムスリップする設定でしたが、今回は逆に2019年から過去へ飛ぶ設定に変えました。AUBE GIRL'S STAGEでは、30代40代以上のお客様にも共感していただける話にすることを心がけているので、彼女たちが生まれた時代へ飛んでいく設定にすれば、彼女たち自身も興味を持つだろうし、30代40代以上のお客様も懐かしい気持ちで観られるんじゃないかと。そんなふうにピンと来たところから選んだ作品でもあります」
――― 今回もいつものように2チーム制で、まず“TEAM MOON”の主演が三村遙佳さん。
三村「もともと北海道出身で、去年の6月から東京で活動しています。それまではいろいろなCMや広告に出たり、観光地モデルや劇場型アイドルというのもやっていました。上京してから舞台に出演させていただくようになって、これが5本目の舞台になります」
――― 演技に興味はあったのですか?
三村「あったんですけど、北海道にいた頃は経験がなくて、東京に来て新たな挑戦としてやらせていただいています。アイドルのお友達がアリスインプロジェクトの舞台の札幌公演に出ているのを観に行ったことがあって、アイドルって歌って踊るだけじゃなくて演じるというのも素敵なことなんだなって思ったんです。それもあって、自分も演技をやってみたいと思っていました」
――― そんな三村さんを主役に選んだポイントは?
山本「今回、オーディションには過去最高の人数に集まっていただきまして、採用した子以外にも優秀な子がたくさんいました。その中でも主役というのはやはり特別で、真ん中にいて違和感がないとか、いろんな要素が求められるのですが、三村さんには、なんだかここにいてほしいという不思議な魔力を感じたんです。雰囲気はけっこうホンワカしているんですけど、ずっしりしたところも感じて、真ん中がいいなと思いました」
チーム制でそれぞれの良いところを引き出す
――― そして、もう一方の“TEAM EARTH”主演が吉田彩花さん。これまでいろいろな舞台に出てきた中で、今回の作品にはどんな印象がありますか?
吉田「宇宙って、もちろん実際に存在はするんですけど、本当にあるのかどうかわからない世界というイメージがあって、そこを目指そうと決心するのは、ワクワクすると同時に恐ろしいものを見てしまうような、プラスとマイナスが入り混じった感じがします。そこにタイムスリップが加わって、さらに家族の話という身近な要素も入ってくるので、近いけど遠い話というか、現実的なのに非現実的というところが面白そうだなと思いました。そういう作品で主役をいただけるのはとても嬉しいです」
山本「吉田さんは経験も技術もあって、安心して主役を任せられるというパターンです。出演した舞台も観させていただいたのですが、自分から主張することもできるし、他人の芝居を受けて際立たせてあげることもできる。僕が観た舞台では無茶振りをされてたんですけど……」
吉田「(笑)」
山本「最初は嫌がっていましたけど、すぐ綺麗にやって面白かったですし。なんでもできる人だなという印象ですね」
――― お二人とも、これまでにダブルキャストの経験はありますか?
三村「アリスインプロジェクトの舞台と、爆走おとな小学生『あたしをくらえ』で、ダブルキャストをやらせていただきました。まだ本当に演技経験が少ないので、自分が出ないチームが稽古しているときは必ずメモを取って、自分の役の子のいいところをたくさん取り入れるようにしていました。本番も必ず観ていました」
吉田「私もあります。同じ役の人を意識しないようにはしていますが、やっぱり相手のこういう表現の仕方は素敵だなと思ったら、それは素直に、自分の形に変換して取り入れたいと思います」
山本「AUBE GIRL'S STAGEでは、まず最初に2チーム合同でワークショップ的なことを2日間やったあと、稽古はそれぞれのチームに分けて進めます。でも、それぞれお互いの稽古は見に来ていて、良いライバル意識を持ってやっています。同じ役同士で話し合ったりすることも多く、でも相手と同じにはなりたくないという気持ちもたぶんあって、自分ならどうするかと考える作業になっていく。そこが、役者としての成長につながっているのだと思います」
――― もちろん観客にとっても、同じ作品を2つの違う仕上がりで観られる楽しさがあります。
山本「最近、アンケートやTwitterで感想をいただくことが本当に増えていて、“こんなに違うんだ!”って皆さんおっしゃっています。ただ、確かにこうして違うタイプの役者さんを選んではいますが、作品を違うものにしようと思って演出しているわけではありません。それぞれの役者を見て、この人ならこう、この人ならこうだなという視点でやっていった結果、全く違う作品になっているのかなという気がします」
悲劇を希望に変えていくところを見てほしい
――― ダンスをフィーチャーするのもAUBE GIRL'S STAGEの特徴ですが、今回の作品も?
山本「はい。やっぱり若い子たちの身体能力やパワーを使った方が、みんなのいいところを引き出せると思ってダンスを入れています。初演とは入れる場所を少し変えていますが、彼女たちのエネルギーをぜひ観ていただきたいですね」
三村「私はもともとずっとダンスをやっていたので、今回の舞台では演技とダンスの両方ともすごく楽しみです。観る方々が楽しいと思ってもらえるように頑張りたいです」
吉田「私は……割とダンスのあるものは避けて生きてきたんですけど(笑)、2年前のミュージカルで初めてダンスをやって、そのときはきっちり練習しました。練習すればなんだってできる、という気持ちです(笑)」
山本「Swanky Rider時代の振付師が参加しているんですけど、僕の演出スタイルと同じで、キャストその人を見て振りを決めていくんです。この子のダンス良さそうだから使っちゃおう、みたいにして、それぞれが持っている良さを出していこうと考えています」
――― 2013年の初演と同じ中野ザ・ポケットで上演するというのもポイントですね。
山本「AUBE GIRL'S STAGEとしては今までよりワンサイズ大きな劇場になるので、挑戦ですね。僕自身、ザ・ポケットという劇場にはすごく育ててもらったと感じていますし、お客さんも“あそこはいいところだよね”と皆さんおっしゃいます。AUBE GIRL'S STAGEを立ち上げて丸3年になるので、1つの節目として、これまでの集大成みたいな公演にしたいと思っています」
――― では最後に、公演を楽しみにしている皆さんに向けて一言ずつお願いします。
吉田「女性キャストだけの舞台に対するイメージは人それぞれだと思いますけど、女性だけでやるからこそ表現できるものや、空気感が絶対にあると思うんです。宇宙開発とかタイムスリップという要素にはロマンがありますし、家族に関する話はかなり気持ちが動くところもあります。初演の台本を読ませていただいて涙が止まらなかったくらい。それが今回の再演でどう変わるのかもすごく楽しみですし、いろんな視点で楽しめる作品だと思うので、素直な気持ちで楽しんでいただけたら嬉しいです」
三村「タイムスリップで過去の時代に飛ぶということで、いろんな世代の人に楽しんでいただきたいですし、2つのチームどちらを観ても良かったと思っていただけるようにしたいです。私自身、初めての主演で不安もあるんですけど、山本さんの思いも受け取って、携わる以上は素敵な作品になるよう一生懸命頑張りたいと思います」
山本「前々回〜前回と再演が続いていますが、今回は自分の中では最近の作品で、当時の役者の年齢も割と高かったので、割と大人のキャラクターがたくさん出てきます。それに若い子たちが挑戦するというのも見どころの一つですね。あと、AUBE GIRL'S STAGEの作品はいつも結末は希望で終わっていて、今回もそこは外さないのですが、大筋としては強烈な悲劇で、取り巻く状況もけっこうドロドロしているんです。
これから芝居を覚えていこうっていう若い女優にとっては、けっこう辛い話も出てくると思いますが、そこでしっかりとした演技を身につけてもらって、悲劇を希望に変えていくというところを皆さんに見ていただきたいと思います」
(取材・文&撮影:西本 勲)