複数のライブハウスを自由に行き来しながら、さまざまなバンドやアーティストのライブを楽しむ、いわゆるサーキット形式の音楽フェスが近年盛んになっている。そんな中、一際異彩を放っているのが、新宿・歌舞伎町で行われるCONNECT歌舞伎町MUSIC FESTIVALだ。2014年に初めて開催され、その後は2017年、2018年と回を重ねてきたこのフェスは、日本を代表する歓楽街=歌舞伎町というロケーションの独自性と、ベテランからニューカマーまで多彩なラインナップを揃えた都市型音楽フェスという特徴で注目を集めている。その実行委員会委員長を務める柴本新悟さんは、もともとDJとして国内外で活動し、現在は歌舞伎町で飲食店の経営も行う人物。ライブハウス各店に声をかけるところからスタートし、街ぐるみのイベントとしてフェスを盛り立ててきた彼に話を聞いた。
DJも飲食店もサービス業、という気持ちで
――― DJとして活動されていた柴本さんが、歌舞伎町で飲食店をすることになったいきさつは?
「これはもう運命みたいなもので(笑)、元々は妻の両親が経営していたお店なんです。今年で創業39年目になるのですが、義理の両親が高齢になりましたので、私が継ぐか店を畳むかという話になって、だったらやってみようかなと。これが普通の飲食店だったらやらなかったと思うのですが、何と言っても歌舞伎町なので、ここでうまくやれなかったらビジネスのセンスはないだろうと思って、自分へのチャレンジという意味合いも込めて経営を引き継ぐことになりました」
――― 大きな転機ですね。
「ただ、今まで僕がやっていたDJパーティーとかクラブイベントも、振り返ってみると飲食店と似ているところがあるんです。集客するという点は同じですし、お客さんのリアクションを見ながら場の雰囲気を作っていくという点でも、DJはけっこうサービス業かなと僕は思います。そういう共通点を見出せたことで、点と点がつながるような瞬間を感じて、さらに力が入ったところはありますね」
――― そして歌舞伎町の商店街振興組合との接点が生まれ、若者を中心に街を盛り上げてほしいという声が上がったことがこのフェスの発端になったそうですね。
「平たく言うと街おこし、歌舞伎町の音楽マーケットの活性化とアピールがこのフェスの目的です。ただ、僕が得意とするDJとかクラブのカルチャーが、残念ながら今の歌舞伎町にはほとんどありませんし、それをライブハウスに持ち込むのもちょっと違うなと。僕は街の音楽マーケットの皆さんに協力していただいてこういうイベントをやりたいと思っていましたので、ライブハウスの皆さんが最も得意で、最も信じていて、そのためなら身を粉にしてやってくれるジャンルでなければならない。そこで、ロックやポップ寄りの内容になりました。出演アーティストの選定に関しても、僕は完全にノータッチです。各ライブハウスが自主的にブッキングを行い、運営もできるだけ歌舞伎町のリソースでやっているというのは大きな特徴だと思います」
歌舞伎町を散策できるのも、このフェスの醍醐味
――― 近年、同じくサーキット形式のフェスが行われるようになった渋谷や下北沢などに比べて、歌舞伎町のライブハウスには少しコア寄りのイメージがあります。そういうお店が自主的に関わることで、全体として独特の匂いが立ち上がっているように感じます。
「意識的かどうかはわかりませんが、それぞれのライブハウスが一番やりたいことをやるという形で作っていった結果、そう感じてもらえるものになったのでしょうね。あと、歌舞伎町にはロックバーが多く、ハードコアやパンク系のサウンドをお店のカラーにしているところがたくさんあるんです。そういうことも、音楽に関わる皆さんに“新宿の匂い”を感じさせる理由かもしれません」
――― これまで3回開催してきて、街おこしというところでの手応えはありますか?
「新宿にある企業さんで、応援したいとおっしゃっていただけるところが増えました。たとえばユニカビジョンさん(新宿東口ヤマダ電機ビル壁面の大型ビジョン)には毎回CM番組を作っていただいています。他にも、歌舞伎町で新しいカルチャーを作ろうという私たちの動きに賛同してをサポートしてくださるところが増えている一方で、街の飲食店が当日限定のクーポンを出してくれたりして、お客さんが足を運ぶきっかけになっています。ライブハウス目当てで歌舞伎町に来た人が、あの雑居ビルの上に何があるんだろう?とか、ちょっと入りづらいけどあの看板は気になるとか、そういう興味をかき立てて街を散策できるような。これは都市型フェスティバルならではの醍醐味だと思います」
――― 大きな会場で行うフェスとも違う面白さですね。まさに街ぐるみというか。
「今、歌舞伎町の再開発が急ピッチで行われていて、ハードウェアはどんどん変わっています。でも、人が人を楽しませるエンターテイメントの根幹を私たちがちゃんとサポートして継続させるということをやっていかないと、すぐに飽きられてしまう。諸先輩方に70〜80年代の話を聞いたり、自分が上京してきた90年代初頭を振り返ると、飲食、映画館、風俗、そして音楽が4つのタイヤのように回ることで、歌舞伎町を繁栄させていたと思うんです。でも現段階で、音楽の勢いは残念ながら欠けていると思います。
これは私たちの世代が頑張らないと復活しないし、それがCONNECT歌舞伎町MUSIC FESTIVALを始めた1つの大きな考えの基になっているところです。自分たちでカルチャーを作ることで、そこに人が集まり、さらに新しい人が集まって、それを目当てにお客さんがやってくる。タイトルの“CONNECT”には、そういう流れを作りたいという意味も込めています」
日本のロックシーンを支えるライブハウスが連携
――― 複数のライブハウスが協力し合うというところでも、良い流れが生まれているようですね。
「あまり交流がなかったライブハウス同士が、話をするようになりましたね。初年度はちょっとぎこちなかったんです。ご協力をお願いしますと話しても“??”みたいな感じで。でも、イベントを一緒に作るとなれば連絡を取らざるを得ませんし、普段は商売敵という面はあっても、この日だけはその垣根をなくしましょうとお話しして、だんだんコミュニティーが作れてきました。意思や結束力は以前より強まっていますし、僕のように外部から来たフラットな立場の人間が中心になったからこそ、それができたのかなと。日本のロックシーンの屋台骨を支えていると言っても過言ではないロフトやルイードといったライブハウスが、このフェスを通じて繋がる意味は大きいと思います」
――― そしてもちろん、シンプルに音楽が好きなお客さんにとっても、普段接する機会のないアーティストのライブを観るチャンスですね。
「やはりライブハウスの皆さんがブッキングしていますので、ブレイク直前のアーティストが出ていたり、過去の出演バンドが今や大きな話題を作れるまでに成長したり、というケースは多いですね。今年はチケット代を安くすることもできましたし、小規模ですがシネシティ広場の野外ステージを復活させ、吉田豪さんを迎えて観覧無料のトークライブを行います。昨年まではどちらかというとインドア中心の展開でしたが、歌舞伎町のど真ん中にあるスペースをうまく活用して賑わいを作ろうというチャレンジです。すでに来年以降の展開も考えていますが、まずは今年の成功を目指していろいろ準備を進めています。ぜひたくさんの方に楽しんでいただきたいと思います」
(取材・文&撮影:西本 勲)