女性キャラクターを主人公とする恋愛ゲーム=通称“乙女ゲーム”。その中でも、シリアスで切ない“泣きゲー”として高い人気を誇り、来年にはプレイステーションVita版の発売も予定されている『CLOCK ZERO〜終焉の一秒〜』が、昨年の初演、今年3月の再演に続いて3度目の舞台化。サブタイトルに“ringage(リンゲージ)”と付された今回は、現実と夢の世界が交錯する原作の世界観をベースにしながらも、前2回と大きく内容を変えた新たな作品へと生まれ変わっている。初演から関わるメインキャストの中から、九楼撫子役の井越有彩さん、神賀旭役の猪野広樹さん、放浪者役の日和佑貴さんが、本作の魅力を語ってくれた。(取材・文・撮影/西本 勲)
――― 3度目の舞台化にあたり、今の気持ちは?
日和「今回はテーマも主人公も変わっていて、でも作品としてはあくまでも『CLOCK ZERO』。原作の中でもきっかけになるシーンは引き続き使われていますけど、積み上げ方が全く違う。まだ稽古の段階ですけど、それに対する驚きや戸惑いは、たぶんみんなすごく感じてるんじゃないかな」
井越「内容がガラッと変わるというのを最初に聞いたときは、不安と期待がいろいろ混ざっていました。でも稽古場に入ると、1つ1つのシーンがこういうふうにできていくんだなって勉強になったり、そこをプラスして今までとは変えていきたいなって思ってます」
猪野「初演と再演で役や世界観を掘り下げてきた分、アドバンテージもあるけど、逆に自由じゃないところもあると思うんです。そこを少しずつ剥がしながら、新しいものを見つけようとしている感じですね」
――― ゲームのキャラクターを現実の舞台で演じる上で意識することは?
井越「九楼撫子という役は、ゲームでは声がないので、初演の頃はどう演じればいいか苦戦しました。でも、いろんなキャストの皆さんからアドバイスをいただいたり、演出家さんや原作者さんからの要望にちゃんと向き合ってから、こういうふうに演じていくんだなって、どんどん自分が強くなっていけたと思います」
猪野「初演では“似せよう”と頑張ったんですけど、腑に落ちないところを残したまま終わってしまったんです。それで再演のときに演出家さんから言われたのが、“自分から役に行くんじゃなくて、役を自分に近付けてこい”ということ。そこから吹っ切れて、ゲームのキャラクターは気にしなくなりました。むしろ、俺のこの役という感じに変わりましたね」
日和「二次元の作品として一度成立しているものを生身の人間がやるっていうのは、原作を愛している人たちにとってすごく不安なことですよね。でも結局、俳優として舞台からお客さんに作品を届けるのはまた別なことで、舞台は舞台で伝えたいこともある。それを、観てくださる人にちゃんと届けられたらいいなと思っています」
――― 改めて、舞台『CLOCK ZERO〜終焉の一秒〜 ringage』の見どころを。
猪野「この作品自体が二面性を持っていて、誰かが幸せになったら別の誰かは幸せにならない。そこで不幸せの方に目を向けると、また新たに感じられることがたくさんある……そんな作品です。今回初めて観る方にとっても、思いを寄せられるところ、共感できるところはいっぱい詰まっていると思います」
井越「自分自身、すごく胸がキュンキュンする作品です。でもそれだけじゃなくて、笑いがあったり切ないシーンがあったり、いろんな感情がある。1人1人のキャラクターも本当に個性的なので、そういうところもチェックしてほしいです」
日和「やっぱり猪野君がさっき言った二面性に集約されていて、目の前のこのキャラクターはすごく幸せになったけど、待てよ?あっちのもう1人は……というふうに、終わった後も余韻を感じられるというか、想像に浸っていただける作品になっていると思います。あと、毎回アフターイベントがあって、公演の後にキャラクターが出てきてゲームやコントで盛り上がっています。作品がちょっと重めなので、そういうメリハリも楽しんでいただきたいですね」