星潤率いる大学生のミュージカルサークルS&Dが、初のオリジナルミュージカルを製作する。作品をパッケージ化し全国の学生や団体が著作権を気にすることなく演じることができる、新たなミュージカルのスタンダードを提案すべく精鋭たちが集まった。プロデューサーには講師としても活動する星潤、脚本・演出を務めるのは劇作家としても活躍しているひらたあや、作曲にはゲーム音楽やオペラの作曲で注目を集める樹原孝之介が担当。まだ誰もやった事がない画期的な挑戦について3人に話を聞いた。
4年目でやっと環境が整いこの企画をスタートできました
――― 星とひらたは劇団四季時代の同期、青春時代を共にした盟友だ。この2人が出会ったことで今に繋がっている。
星「二人とも5年ぐらい在籍して退団しましたが、僕は劇団四季でやっていた時に自分のミュージカルを作ってみたいという気持ちになり、また学生に指導していきたいという想いも含め2015年にミュージカルサークルの S & D を立ち上げました。脚本演出をできる子がいないかと思った時にひらたを思い出して声をかけました。実はこうちゃん(樹原)とはひらたより前に出会っていまして、早稲田大学の『Oasis』というジャズダンスのサークルがあるのですが僕はそこの4期で」
樹原「そうですね、僕は後輩で10期ですね」
星「6年離れてるんだ! そのサークルを引退してからもつながりがあり、OBが出られる公演で後輩として出会った時に彼はもうプロとして音楽活動をしていて、この子は絶対にいつか何かにからめたらと(笑)。作曲となった時には絶対こうちゃん!って」
樹原「プロになったのは高校3年生の時です。そんな前から目を付けられていたとは(笑)」
――― 今、ミュージカルがTVの音楽番組で取り扱いされ、一般化しつつありますが、若者たちの注目度として上がってきているのでしょうか?
ひらた「確かに、流行っているなという感じはあります」
星「そういう部分からも最初からオリジナルを作りたかったという想いはありました」
樹原「僕もミュージカルは大好きで、たぶんこの中ではミュージカルを手掛けたのは一番早いかもしれません。2006年高校生の時に版権物のミュージカルをどこの高校でもやっていて、一度その公演DVDを販売して問題になったことがあり、その翌年はどうしよう、だったら自分達で作っちゃえ!という流れで作ったことが最初ですね。そこからミュージカルを作る事が楽しくて」
星「これがオリジナルミュージカルを作りたいという根本、問題点でもあって、ミュージカルを作ることはとても難しいんです。演劇を作るなら脚本があればいいですが、ミュージカルとなると作曲が必要になります。高校のミュージカル部や演劇部でミュージカル公演をやる場合、例えばディズニーや劇団四季の何かを海賊版のような形でやるしかないんです。
著作権的な事を全部クリアして正々堂々とやろうと思ったら、作曲をするしかない。でも敷居が高いし不可能に近い。それもあって私達も4年目でやっと環境が整いこの企画をスタートできました。ミュージカルをやりたいと思った人がやれるようなミュージカルを作れたらいいなって」
色々な種をもらって一緒に咲かせていく作業がとても楽しい
ミュージカルサークルS&Dが手掛ける初のオリジナルミュージカル『ひとりぼっちの夜』は、出演者は100名の大学生。2019年12月に上演が決まっている。そのトライアウト公演として、実力と経験のあるプロのキャストで7月に上演する。作品をパッケージ化し小学校や地域ミュージカルに提案、教材としていくための基盤となる公演になるようだ。
――― 初のオリジナル作品は『ファンタジー』とのことですがテーマなどを教えてください。
ひらた「私が絵本やムーミン、星の王子さまなどファンタジー作品が好きで、大人になって再度読んだ時にまた感動するんです。想像力や考える力を養ってほしいし、また大人になると無くなる物を捨てないで欲しいという想いがあります。この作品は身近なものをファンタジーとして捉えてる感じはありますね。何故花の色は決まっているのか、空は何故青いのか、みんな一度は何故かと考えたことがあるけれど、ま、いいやと思ってしまう様な事を再度考えて欲しくて、子供でも大人でもそんな気持ちを持てるようなお話にできたらと」
――― 物語はある一夜の出来事。友達が出来ず心を閉ざしてした主人公ヨシュカがある夜に祖母から教わった「おまじないの歌」を歌うことで世界の不思議を作る人々と出会い交流を描く。
ひらた「誰しも寂しい夜や暗い気持ちの時があると思うんです。そういう時に身近な物で星、空、花を想像することによって満たされる夜があるのではないかなと。ひとりじゃないよって。大人になっても月を眺めながらしみじみとすることがあったりしますよね(笑)」
――― ミュージカルは音楽が命、星さんとひらたさんとはどんなお話を?
樹原「2人には制約はあっても自由にやって欲しいと言われていて、ひらたさんとは初めてのお仕事でとても共感しています。僕もファンタジーが好きで、その世界観の中で色々な色があり様々な作品を作れるので楽しいですね。色々な種をもらってそれを一緒に咲かせていく作業がいまとても楽しいです。作品はファンタジーなので硬い音楽ではなく、ヨシュカの世界を大切に想像を広げた時、この音とこの音を組み合わせるとどうかなとか、色々なジャンルから引っ張ってきたり言葉や歌詞の個性を生かして固めています」
星「僕はプロデュ―サーという立場で脚本や音楽について『小学生でもできる』という方向性は提案しています。ずっとサークルをやっていて大学生に脚本を書いていると恋愛要素が入ってきますが、でも今回は恋愛ではないよねと。最初から主人公や他のキャラクターは男の子でも女の子でもできるものにしたいなと。そうなった時には音楽も男性でも女性でも歌えるよう対応はできるように、またそんなに難しい曲でもない、そんな提案はしています」
――― 歌詞はどなたが書かれるのですか?
ひらた「私が書きます」
星「僕たちも作曲家をいれてミュージカルを創る事は初めてなので、ワクワクが一番大きいですね。いま準備の段階ですが、稽古が始まると『ここの間奏を伸ばして』とかそこでも色々変化していくので、それも楽しみですね」
ひらた「そばに作曲者がいるのですぐに対応もできますよね」
――― 見どころを教えてください。
ひらた「お話が動き始めるおまつりのシーンは見どころになると思います。現実と不思議な世界の変わり目となるこのシーンを素敵なものにできたら。もちろん音楽にもこだわりがあって一番意見を伝えているのはここの曲ですね」
星「おまつりは人によって思い浮かぶモノは違いますよね。僕なんかはピーヒャラピーヒャラのthe祭を想像しますが、今回はそうじゃないよねって」(全員爆笑)
ひらた「そうなんです。国を限定したくなくてどういう方向にするかとても話していて、私もこの物語を書く時に色々おまつりを調べましたがいっぱいありすぎて(笑)不思議な世界に行った時、同じおまつりなのにちょっとへんてこだぞっという設定があるので、ダンサーさんも含めミュージカルらしくそのシーンは華やかにできたらと」
――― そのシーンはこの物語の肝、演出と脚本に音楽の相乗効果に期待が膨らみます!
樹原「こちらもやり甲斐があるので、ここは音楽としても聞きどころになると思います」
星「ひらたが想像しているおまつりと、こうちゃんが表現するおまつりの音に、お互い発見があると思います。いい物が生まれると確信しています。どんなおまつりになっているかご期待ください」
全国の子供たちに広がってさらに生まれ変わっていったら
ひらた「オリジナルの楽曲でやれること、そして昔から知っているプロの仲間とミュージカルを作ることが初めての試みなので全てが挑戦です。脚本をみんなに渡した時の役者の反応も気になりますし、そして演出もとても楽しみで。稽古場で試行錯誤が続いても楽しく奮闘できそうです」
樹原「色々な曲を書くので、それをみんなに歌ってもらえることはワクワクします。ミュージカルの楽曲は演者が歌うことでまた生まれ変わるんです。その瞬間にたくさん立ち会えそうで楽しみですね。7月のプレ公演を経て12月公演でももっと大勢の方が生まれ変わらせてくれる、とても嬉しいです」
星「僕は仲間がすごく大事だなってとても感じていています。このS&Dでも100人以上の学生がいて凄いエネルギーがあって、彼らともっと大きなことができないかと思った時に、オリジナルのミュージカルをみんなで作ってみんなで広げて行こうと。そうなった時に今まで出会ってきた仲間たちとだったらできるんじゃないか。今回出てもらう役者さんも直接の知り合いや他の仲間と繋がっていて、信頼できる仲間と一つの作品を作っていけるということはすごく嬉しいことだなと思います。
7月公演は80分くらいを想定していますが、それが次の12月、学生100人で120分の作品にしようとしていて、それが全国の子供たちに広がってさらに生まれ変わっていったらこんなに嬉しいことはないです」
ひらた「一つの夢は教科書に掲載されること」
星「劇団四季の楽曲で掲載されているものがありますからね。ミュージカルの定番になれたらいいなという想いがあります。そして毎年続けてブラッシュアップしていけたら。
7月公演の出演者はミュージカル経験が豊富な方が集まります。ミュージカルが好きな大人も子供もみんなが楽しめるパワフルな作品になっています。お楽しみしていてください」
(取材・文&撮影:谷中理音)