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串田和美


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恨み合ってばかりいる時代だからこそ、やる意義がある。

串田和美が『K.テンペスト2019』に込めたもの

シェイクスピアの『テンペスト』を大胆にアレンジした『K.テンペスト2019』の開幕が近づいている。初演は2014年。瞬く間に評判を呼び、2017年に再演。そして今回の再々演により、わずか5年の間に3度の上演を果たすこととなる。「コクーン歌舞伎」など常に既成概念を更新する作品をつくり続けてきた串田和美が今、精力を傾ける『K.テンペスト』とはどんな作品なのか。そこには、串田和美らしい演劇観が込められていた。


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赦すことは難しい。だからこそ、演劇にしたかった。

シェイクスピアの『テンペスト』は、一般的に「ロマンス劇」として広く知られている。だが串田が、『K.テンペスト』を立ち上げるにあたって主眼を置いたのは、「ロマンス劇」ではなく、「人間の赦し合い」というテーマだった。

「今の世の中は、ヘイトだとか、恨み合ってばかりいるようなことが多いじゃない? そういうのを見ながら、ここ数年、赦すだとか赦さないだとかっていうのは一体どういうことなんだろうって、ずっと考えていたんですよ。『テンペスト』に惹かれたのは、恨んだり赦したりっていう関係が描かれていて、そこに興味が沸いたからでした」

『テンペスト』は、ナポリ王・アロンゾー、ミラノ大公・アントーニオらを乗せた船が、嵐に襲われ、あわや沈没というドラマティックな場面から幕を開ける。九死に一生を得て漂着したのは、小さな孤島。そこには、アントーニオの兄・プロスペローが暮らしていた。プロスペローはかつてミラノを統治していたが、その地位を狙ったアントーニオと、彼と結託したアロンゾーの策略によって島流しに。アロンゾーらの乗った船を襲った嵐は、復讐に燃えるプロスペローが、自らの研究した「魔法」によって引き起こしたものだった。

「前にFacebookで年老いたアメリカ兵がインディアンの生き残りに懺悔をしている写真を見てね。もちろんその老兵たちがインディアンを直接迫害したわけじゃない。でも、歴史を辿れば、彼らの先祖がインディアンたちにひどいことをしたのは事実。だから今謝りたいと。それを見て、すごいなと思ったんですよ。世の中には、たとえ謝ったって簡単には赦せないほど大きな怒りや恨みがある。そういうものを前にしたとき、僕らはちゃんと謝れるのだろうかと。1枚の写真からそんなことを考えたことが、この作品につながっています」

プロスペローの復讐劇は、娘・ミランダとアロンゾーの息子・ファーディナンドの恋など、様々な人間模様を巻き込みながら、最終的にハッピーエンドへと着地する。串田は「赦すことは、本当に難しいこと」と噛みしめた上で、5年に3度という早いペースで本作の上演を繰り返している理由をこう説明する。

「ロマンス劇だとか、魔法だとか、そういう言葉が出てくると、まるで御伽噺みたいだけど、そこにはちゃんと現代に通じるものがあって。たとえば戦争にしたって、みんな頭では悪いことをしたとわかっているし、終戦記念日が来れば頭も下げるけど、実際は何も変わらない。むしろ今、世の中はどんどんひどくなっている気がする。でも、僕は運動家じゃないから、そんなことをそのまま全部喋って訴えてもしょうがない。演劇にすることで、見ている人たちの感性や感覚に何かを響かせていけたらと思っています。」


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劇場はこういうものだっていう既成概念を壊したい。

『K.テンペスト』の面白いところは、その枠にはまらない演出だ。スケールの大きな演出手法に定評のある串田だが、同作では大掛かりな舞台美術は一切用いず、質素な椅子がいくつか点在しているだけ。さらに、開幕前の客席を役者がこともなげに行き来し、まるで舞台と客席が混然一体となったような空間で、現実と虚構の境目を溶かすようにして物語が始まる。

「大きな劇場でスペクタクルなことをやるのももちろん楽しいんだけどね。そうやって、どこかからかき集めてきたような椅子に腰を下ろして、みんながワイワイと討論していくうちに演劇的な表現から始まって、気づいたらまた日常に戻っている。そういう演劇も楽しいじゃない?」

そう楽しそうに微笑む横顔に、かつて耳にしたことのある串田のこんなエピソードがよぎった。中学に進学した串田は、新入生歓迎会の場で上級生のお芝居を観ていた。演目は『瓜子姫とあまのじゃく』。異変が起きたのは、幕が上がってしばらくしてからのことだ。客席で観ていた3年生がいきなり騒ぎ始めたのだ。

「『くだらねえぞ』って舞台に向かって野次を飛ばしてね。そのときは、中学に入るとこんな怖い先輩がいるんだとおっかなく思ったもんですよ。そしたら、とうとうその3年生が舞台に上がって、『こんなもんやめちまえ』と騒ぎ出した。で、ついには先生も出てきて、大騒ぎ。でもね、よく見るとその先生っていうのがどうも生徒みたいで。種明かしをすると、野次を飛ばした3年生も含めて、全部がお芝居だったんです。今となっては珍しくもない二重構造だけど、当時の僕からしたらビックリで。演劇ってこんなに面白いんだと思いました」

蛇足だが、その野次を飛ばした3年生は、のちの俳優の山本圭。瓜子姫を演じていたのは、女優になった長山藍子だったと言う。中学1年生にしてメタ演劇の面白さにふれた串田が、演劇の定型にはまらないのも無理のない話だ。

「劇場はこういうものだっていう既成概念を壊したい想いは常にある。切符を買って、自分の席に座って、安全な場所でお芝居を楽しむのが演劇の当たり前だと思っているかもしれないけど、そうとも限らないよってね」


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俳優は、ただのキャラクターでも道具でもない。

今回も、串田流の刺激的な試みが随所に散りばめられている。俳優たちのまとう衣装は、スーツなどいかにも現代風。そこに、約400年前のイングランドの面影はない。

「立派な美術や衣装がなくなって、それこそ劇場ではなく広場でだって、演劇はできる。どんなところからでもお芝居は始められるんだっていうことを、この作品では証明したくてね。いろいろ仕掛けをつくるのが好きだからつい凝りたくなるんだけど、今回はダメだって自分に言い聞かせながらやっています(笑)」

俳優は、藤木孝、カムカムミニキーナの松村武ら新キャストを迎える。串田は、こうした俳優たちと稽古場で自身のエピソードをディスカッションしながら作劇を進めていく。

「そういう話が妙に有名になったおかげで、よく周りからは「劇団車座」なんて悪口を叩かれたりするんだけどね(笑)。そうやってみんなと話している時間の方がよっぽど多くて。ほとんど演出家席に座っていない。もともと僕自身、役者になろうと思ってこの世界に入ってきた人間だし、演出に関しては、やってた劇団が解散したりで、“自分がせざるを得なかった”ところが大きいんですよ。だから今でも演劇は役者がつくるものだと思っているし、役者なら何でも演出家に聞くんじゃなくて、まずは自分で考えなきゃダメっていう感覚なんです」

稽古場で披露された役者のエピソードは、物語の肉片となって盛り込まれる。だからこそ、演じる役者が変われば、まったく別の『K.テンペスト』となるのだ。

「今回は松村さんや藤木さんのように、今まで騙されたり騙したりしてきたであろう大人の俳優が中心にいるから。これまでよりもリアリティの増した『K.テンペスト』になると思う。その上で、そういうリアリティのある役者が御伽噺をやる面白さっていうのも出していきたいね。俳優は、ただのキャラクターや道具じゃない。その人の感性や感覚がぶつかりあって生まれてくるものが演劇じゃないかなっていう考えはずっと根底にあります」


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劇は、客席の向こう側にいる人に向けてもつくらなくちゃいけない。

2003年4月、串田はまつもと市民芸術館芸術監督に就任した。渋谷Bunkamuraシアターコクーン初代芸術監督を務めるなど、長らく東京の最前線で演劇をつくり続けてきた串田が、松本に拠点を置いてもう16年になる。「都心」ではなく「地方」に根城を移したことは、串田の演劇観にどんな影響を与えているのだろうか。

「その土地の人とちゃんと向き合えるようになった、っていうのが一番の違い。まつもと市民芸術館もね、建設するときはえらく反対を受けたのよ。僕なんかは最初は反対されるぐらいならやめればと思ったんだけど(笑)、よくよく話を聞いてみたら違うぞと。反対するっていうことは、それだけ関心のある人たちなんだと気づいた。ちゃんと対話してみたら、みんな闇雲に反対しているわけじゃなく、自分たちなりに『もっとこういうものにしてほしい』という意見がある。だからこそ、僕はちゃんと彼らと話をしなくちゃいけなかった。あの頃は、“しなくいちゃいけない”なんて思っていたけれど、結果的にその時間が自分の演劇のつくり方を動かすものになりましたね」

そう串田は在りし日を思い返す。地域の人々との関わりが、串田の何を変えたのか。

「税金で芝居をつくるっていうのはどういうことかを、ちゃんと考えるようになりました。松本市の人口は約24万人。当然、その24万人みんなが芝居を観に来たら1年公演をやり続けても間に合わないわけで。実際に劇場に来て芝居にふれているのは、ほんの1%程度。つまり残りの人は税金を払っているのに観に来れないということになる」

それも踏まえた上で、つくり手たちがすべきことは何か。串田は「直接芝居を観ていない人にも影響を与えられるものをつくること」だと掲げる。

「たとえば、そのわずか1%の人が芝居を観たことで元気になり、周りの人たちにいい影響を与えること。そうやって元気な人を増やすことで、劇場に行ったことがない、あるいは行けない人たちも含めて、演劇のさかんな街で暮らしているという自覚や喜びを持てるようになる。そういうことが大切なんじゃないかと思うようになりました。僕らは客席に座っている人だけに向けて演じているんじゃない。その向こう側にいる人に向けても演じなきゃいけないんだということは、この松本に来たから気づけたことです」

人口約17万人の小都市ながら、毎年開催される「シビウ国際演劇祭」を通じて注目を集めるようになったルーマニアのシビウなど、演劇をはじめとした芸術が地域活性に貢献している事例は、世界的に増えている。松本もまた、多数の劇場を有する東京の住民が“演劇を観るために”こぞって足を運ぶ街となりつつある。

「東京の場合、劇場を出たら、あとは電車に乗って家に帰るだけかもしれない。でも、松本のような地域の劇場は、芝居を観た後に近くの店で御飯を食べたり、時間があるなら一泊するなり、劇場を出た後もまだ余韻が楽しめる。ふらっと入ったお店で『さっき劇場で隣に座っていた人ですよね?』と声をかけられて、そこから仲良くなれたりね。それってすごく楽しいし、贅沢なことじゃないですか」

そう串田は朗らかに笑いかけた。『K.テンペスト』はまつもと市民芸術館で5月16日(木)から19日(日)まで上演したのち、東京芸術劇場シアターイーストへと場を移し、5月22日(水)から5月26日(日)まで上演される。劇場が変われば、作品も変わる。どちらで楽しむか選ぶのも、観劇の醍醐味のひとつだ。

(取材・文&撮影:横川良明)

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PROFILE

串田和美(くしだ・かずよし)のプロフィール画像

● 串田和美(くしだ・かずよし)
1942年生まれ、東京都出身。
俳優、演出家、舞台美術家。まつもと市民芸術館芸術監督。俳優座付属養成所、文学座を経て、1966年、劇団自由劇場を結成(後にオンシアター自由劇場と改名、1996年に解散)。1985年から1996年まで東京・渋谷のBunkamuraシアターコクーン初代芸術監督を務める。2003年、まつもと市民芸術館芸術監督に就任。主な演出・出演作品にオンシアター自由劇場『上海バンスキング』(第14回紀伊國屋演劇賞団体賞受賞)、『クスコ』『もっと泣いてよフラッパー』など。コクーン歌舞伎、平成中村座の演出家としても知られる。

公演情報

「K.テンペスト2019」のチラシ画像

K.テンペスト2019

2019年5月22日 (水) 〜2019年5月26日 (日)
東京芸術劇場 シアターイースト
HP:公演ホームページ

16名限定!一般5,500円(全席自由・税込) → 4,600円 さらに200Pゲット!

詳細はこちら

「K.テンペスト2019」のチラシ画像

K.テンペスト2019

2019年5月22日 (水) 〜2019年5月26日 (日)
東京芸術劇場 シアターイースト
HP:公演ホームページ

一般:5,500円
U25(25歳以下):3,000円
U18(18歳以下):2,000円
(全席自由・税込)

※U25、U18の方は当日年齢確認証をご提示下さい。

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