2008年より「ライフパスファインダー」シリーズとして上演を重ねる人気モーションロックオペラの最新作は、初の女性主演としてmisonoを迎え、「Tour to the end.」をリライト。ライブ感溢れる構成で体感するステージを目指す。“今を生きる者へ贈る、魂の応援歌”とは? 脚本・作詞・演出を務める松タケシに話を聞いた。
劇場という箱舟で時間と空間を創造し、観た事がない景色をお見せしたい
――― 大阪芸術大学在学中からカンパニーを作り活動していた松。その後上京してからも俳優活動の傍ら小規模ではあるが作品創りを続けていた。きっかけはある演劇コンペだった。
「ライフパスファインダー(ライパス)としては11年目になります。この企画が生まれたきっかけは、今はなくなりましたが『ガーディアン・ガーデン演劇フェスティバル 』というコンペティションです。2002年(上演は2003年)にそれにエントリーをし、最終選考の3団体を目指してダークホース的に3枠目に入ってしまったんです。急に作品発表が決まってしまいましたが僕は単独だったので、そこからメンバーをかき集め、全くゼロの状態から3か月くらいで発表したのが本シリーズの原点です。
直前に知り合った音楽監督の山下透さんとは『何かあったらご一緒しましょう』というご挨拶をしていたこともあり、急に決まったので真っ先に連絡をして(笑)。演劇に対してアンチテーゼを募らせている時期でもあり「覚えられないタイトル」「よく分からない内容」「すべて異なる開演時間」を実践したら大混乱を招き……でも、山下先生と怒涛の様に創った作品は、とてもやりがいがありました。
それから「これで終わらせるのはもったいない」と思い、かねてから影響を受けている寺山修司氏やフィリップ ジャンティ氏(演劇、人形劇、ダンス、マジックショーなど様々な要素が入り交じった舞台作りが特徴の舞台芸術家)の作品、最近ではフエルサブルータなどを再研究。演劇にはもっと可能があると思い、劇場でしか作れないもの、生で共有しないと出来ないもの、ジャンルで面白いと感じるものをコンセプトにして創作しています。
さらにこのライパスは、生バンドが演奏するバンドスタイルの公演です。ロックミュージカルとつけると、流行りのビジュアル作品や定番作品をイメージされてしまうので、僕の公演は“モーションロックオペラ”というジャンルを定義しました。2008年のシリーズスタートの時に“ライフパスファインダー”という言葉が生まれまして、“人生を探す探査機”という意味ですが、たとえば地球もライフパスファインダーと思っています。
そして“パスファインダー”は“先駆者、誰も踏み入れていないところもかき分けて行く”という意味も持っていまして、僕たちが稽古で見つけた方程式や、人生を豊かにする何かをお客様にご案内する。劇場という箱舟で、日常にはない時間と空間を体験し、皆さんが観た事がない景色をお見せしましょう、という作品作りを続けています」
タロウの自分探しが物語
――― シリーズ8弾は2010年と2011年に発表した作品「Tour to the end.」を上演しますが、松さんの想いが詰まった代表作ということでしょうか?
「創世記の作品の中ではとてもストレートに作っている作品で、関係者の中でも評判が良かったのでこの作品に決めました。新たにリメイクし2019年バージョンとして上演します。『ライフパスファインダー』とは、『インディージョーンズ』とか『スターウォーズ』の感じと思ってください。主人公はどの作品でも秘宝を探しますよね。ライパスの主役はタロウとよばれ、そのタロウが何のために生まれたのか自分探しをすることが全シリーズの共通のテーマです。
そのタロウの自分探しをいろんなモチーフで描いていて、それぞれがサブタイトルの物語になっています。今回はタイトルからわかるように、意味は“終わりへの旅、死への旅”。
生きるということは死への旅を続けていることで、ここだけ切り取ると暗くてネガティブな物語に聞こえるかもしれませんがそうではなくて、本番を観ていただければ『そういうことか!』とわかると思います。
お客様には僕が考える答えを伝えたい訳でなくて、“こういう価値観で物を見たら予想外なものが見つかる”そんな方程式をちりばめたいなと。お客様の選択肢を増やすことを目標にしています。選択肢の中からベストな答えは選べる、必要なのは選択肢を増やす事だ、という想いで作品を作っています」
――― misonoさんが初の女性主演とのことですが。
「この作品をリメイクしようと考えていた時にmisonoさんの参加が決まりました。
今回misonoさんは、主役の「タロウ」を務めますが、この役に性別は関係ありません。
またmisonoさんのプライベートな事でこの作品を決めた訳ではありません。この作品は観終わって劇場を出た時に生まれ変わったような感覚になり、新しい発見ができる『いつでもスタートは今だ』というメッセージが込められています。」
ちょっと運命的なことを感じました
「misonoさんは音楽監督の山下さんとお仕事をした縁でご出演いただきます。以前から出演してくださっている女優の河合美智子さんもそうですが、僕らが魂を削りライフワークになっているこのシリーズにmisonoさんもとても共感してくださっていて。でもご本人の状況を考えると出演することは難しいのでは?とも思いましたが『だからこそやりたい』と、ちょっと運命的なことを感じました。
そして、バンドクルーとしてNosukeさんがドラムの席につきます。奇跡の回復力で参加決意です。作品テーマも含めて全てが引き寄せられた感じが今この瞬間も続いています。きっと終演まで......いや、その先もずっと感じ続けるのではないかと思います。
正直なところ、いろいろ不安もありました。でも、いつもいろんな活動の場から引き寄せられた僕たちは、時間を共にすると共に、お互い信じたい気持ちが溢れてきます。misonoさんを始め、Nosukeさん、前回も一緒してくださった河合美智子さん、過去から何度も一緒してくれているクルー、今回初めて一緒するクルー、テクニカルクルーもずっと旅を共にしてます。信じるに値する仲間が集って、お客様を案内することができるのを、今年はまた新たな気持で挑みたいと思います。
misonoさんもお仕事という枠を超えて参加してくれます。ライパスでこの何十年の芸能活動とは違った表現の場を提供したい。叫びたいことを叫んでもらえたらいいなと思っています」
――― 歌い踊る新しいmisonoさんが観られそうですね。
「misonoさんに限らず、メンバーが変わればセリフも配役も変わります。その中でmisonoさんだからこそ産まれる場面や言葉を、どう形にしていくか、私たちも真剣勝負です(苦笑)。そして火やライトを使う演出があります。クルーは全員一人一本ライトを持っていまして、もちろんパフォーマンスで使う小道具ですが、本当に非常事態があっても比較的安心です。ウチほど避難訓練をやっているカンパニーはないと思います(笑)」
――― 様々な熱量を持った作品になりそうですね。
「パフォーマンスに加え、ダンスや歌、本編はすべて生バンドによる演奏で見どころ満載です。僕はLIVEでない演劇が多いと思っていて、これじゃあスポーツなどに負けちゃうなと(苦笑)LIVE(生)の価値を再認識している時代になっているとは思いますが、ライパスではLIVEであることの意味を他の演劇よりも体験してもらえます。まだ未体験の方は、他にない空間と時間を創造しているので、ぜひ一度体験をしにいらしてください。そしてずっと観てくださっているみなさんには、また新しいライパスで一緒に旅に出ましょう。と思っています」
(取材・文&撮影:谷中理音 )