誰もが通ってきた“青春”を物語の中心に据え、人間の普遍性と人生のかけがえのなさを描く作品を発表し続けている「20歳の国」。その“国王”である竜史が作・演出を手掛ける舞台『No.2』が、8月、神保町花月で幕を開ける。今年2019年から始まった、演劇界を賑わす脚本家や演出家と神保町花月のコラボレーション企画の1作品となる本作。主演を務めるのは、“白目漫才”でおなじみのピスタチオだ。
――― ピスタチオさんには、演劇のイメージはあまりないですよね。お2人の主演はどんな経緯で決まったのでしょう?
竜史「お話を頂いた時に、W主演の話をやりたくて。神保町花月さんとご相談して、お2人にお願いしました。演技の技術とか舞台経験はあんまり気にならなくて、人間性というか、ほどほどに仲良さそうなところがいいなと思って。仲、悪くはないですもんね?」
小澤「悪くはないです(笑)」
竜史「あと、俳優をちょっとやりたいなっていうのがあったって聞いてるんですけど」
小澤「そうですね。少し前から演技を勉強してみたいなって思ってて、去年の秋くらいから神保町花月さんにご相談してたんです。そうしたら1月くらいにこのお話を頂いて。すごくありがたかったです」
伊地知「僕は最初難色を示しましたね。演技に苦手意識が強いというか向いてないというか……。実は、芸人やらせてもらう前に、小さい事務所でエキストラとか再現VTRとか、台詞一言二言くらいの役をやったことがあるんですけど、恥ずかしくなっちゃうっていう1番ダメなやつで。芸人になった後も、ちょっとしたコントでも真面目にやるのが恥ずかしいんですよ。しかも主演って聞いて、さすがにお断りした方がいいんじゃないかって。まして相方とやるじゃないですか。これが知らない俳優さんとかと絡むならまだ何とかなるんですけど」
竜史「2月くらいに顔合わせした時も、小澤さんは普通に喋ってくれたけど、伊地知さんはずっと台本確認してましたもんね」
――― 2月の時点で台本があったんですか? 早いですね。
竜史「年末か年明けくらいにはお渡ししました。何もない状態で出てよって言うのはできないかなと思って。あと、4月に出演者みんなでワークショップを数回やったんですよ」
小澤「レクリエーション的な感じで、楽しかったですね」
伊地知「僕ら全然素人なんで、お願いしたんです。ワークショップ後は、気持ちが前向きになりました。不安はありますけど、それは今後の努力次第だと思ってます」
小澤「すげー真面目じゃねーか!」
竜史「キャラ的には、『演劇ちょろいなって思いました』とか言って欲しいですね(笑)。でも、そのワークショップでの2人はほんとにすごく良くて、一生懸命やってくれたし、演劇を面白がってくれた。一緒にやれることになってよかったなって思いました」
――― 「とある大学の演劇サークルで出会った正反対の同期2人の、18歳からの10年間を描く物語」。脚本を読まれて、感想はいかがですか?
小澤「元のやつからけっこう変わりましたよね」
竜史「そうですね。最初にお渡しした台本から、4月のワークショップを経て、当て書きと言うか、2人や他の役者さんにより合うような形にしたのと、もっと面白くなるように書き直したものを最近読んでいただいて」
伊地知「物語は、青春もので好きな感じでした。恋愛とか友達とのやり取りとか、みんなが通ってる道というか、誰でも共感できる要素が結構あると思うんで、観やすい作品になると思います」
竜史「伊地知さんは映画とかけっこうお好きですもんね」
伊地知「そうなんです。あと、新しい台本を読んで、“自分ってこんな見え方してるんだ”って気づきましたね。言葉遣いとか、チャラいというか若いというか」
小澤「僕の中では、相方は役柄そのまんまです。感情的で格好付けしいで、ナイーブで気にしいで。僕ら、ネタでは白目剥いて人間味がないので、実はこういう人なんだってところも楽しんでもらえたら」
伊地知「僕も、相方の役は相方っぽいなと思いました。あと、あ〜緊張するなと思ったシーンがいくつかあって」
竜史「どういうところですか?」
伊地知「恋愛系の部分が結構あったのと、相方とのシーン。緊張というか恥ずかしい」
――― 伊地知さんは元ホストですし、恋愛相談に乗るイベントもなさってるし、恋愛系は得意分野じゃないんですか。
小澤「恋愛マスターとして活動してますからね」
伊地知「それが、おちゃらけちゃうんですよ。おちゃらけの中でなら臭い台詞とか全然言えるんですけど、ガチで目を見てとかはほんとに無理で。女性をほめたり気持ちよくさせるのも、どっちかって言うとボケながらいっちゃうんで。……あと、共演者の方がみんな僕のこと好きになっちゃうんじゃないかって心配です」
竜史「恋愛マスターのキャラを急に思い出したじゃないですか(笑)」
伊地知「あとは相方とのシーンがやっぱり恥ずかしいですね」
小澤「そこは僕もちょっと恥ずかしいです」
伊地知「ただ、そこの部分が最初に頂いた台本から一番変わった部分なんですよ。で、相方は、絶対新しいやつのほうがいいよなってめちゃめちゃ推してくるんです」
小澤「いいシーンですよね?(竜史に)」
竜史「え、僕が自分で言うの(笑)?」
伊地知「でも、絶対そこが見せ場なんで、僕らが台無しにはできないなと思ってます」
竜史「実は僕、ああいう感じの2人の熱いシーンってあんまり書いたことないんですよ。もうちょっと淡々としてる感じが多い。でも、2人の話を聞いて、対等な人間関係の2人が長い時間を過ごすって、なかなかない事だと思うので、そういう感じがそのまま舞台に乗るといいかなと思って書き直しました。元々最初にあげた台本は僕と友人をモデルにした話で、僕らの要素50%くらいだったのが、今は2人に寄せちゃったから、残ってるのは10%くらいです」
――― そのほかの見どころは?
小澤「僕は歌を歌うシーンがあるんですよ」
竜史「小澤さん、あの歌が十八番って言ってたから」
伊地知「あの歌があそこで入ってた時点で、あ、これいじってんなって思った」
小澤「そうそうそうそう!」
伊地知「こいつが好きな女の子に、カラオケ行って一曲目にその歌を胸に手を当てて熱唱したら、その子が一曲で帰っちゃったっていうエピソードがあるんですけど、その曲を、胸に手を当てて歌うって書いてあって(笑)」
――― それはいじってますね(笑)
伊地知「そういうのが2〜3箇所あるんですよ。結構いじってんですよ、竜史さん。だから、笑っちゃうんじゃないかと思って怖くて」
竜史「いやいや、怖くないですよ。僕の作品はキスシーンがよくあるんですけど、基本的にはしっとりしたシーンじゃなくて、笑っちゃう、共感できるシーンにしたいと思ってるんです。キスって自分がする時はもちろん真面目だけど、道端で誰かがやってるの見たら笑っちゃうじゃないですか。その感じっていうか、お客さんに、あ〜恥ずかしいな、でも分かる、みたいに感じて欲しい。やっぱり僕は、恥ずかしいのは面白いと思うんで。人間臭いというか、好きな子の前で、今思い返すとすごい恥ずかしいけど、その時は真剣にやってたことっていっぱいあるじゃないですか」
小澤「ありますね」
竜史「で、ピスタチオって、人間離れしてる芸風じゃないですか」
小澤「白目剥いてね」
竜史「その人たちを、貶めるとかじゃなくて、こういう魅力もあるぞっていうのを出したいと思ったんです」
伊地知「いじったわけではなくて?」
竜史「…………そうですね」
小澤「いや、ちょっと間があったじゃないですか!」
竜史「いや確かに、そうなのかもしれない。いじろうと思ったわけじゃないんですけど、結果的にこの行為は、いじるってことなのかもしれない。ただ、ピスタチオはもう売れてらっしゃいますけど、僕は人間としてすごく尊敬しているので、一面的な部分じゃなく、もっと注目してもらいたくて。だから、今のうちにピスタチオを見に来て欲しいと思います」
――― ビジュアルもめちゃくちゃ格好良いですし、お2人が初めて見せる人間臭い顔、楽しみにしています。
伊地知「舞台を観た後、余韻に浸れるような、何かしらを残せるような舞台にしたいんで。来た人が友達に話したくなって、千秋楽が一番お客さんが入る作品にできるように、小澤よりもいい演技をして頑張りたいと思います」
小澤「青春をテーマにした作品なので、若い方は今と照らし合わせて、大人の方は昔こういうことあったなっていう風に楽しんでいただけると思います。そもそもは僕が芝居をやってみたいって言い出したことから始まってるんで、相方に負けるわけにはいかないんで。これは新しい形のピスタチオの、喧嘩ではないですけど、やりあいの一部でもあると思うんで。そういうのも楽しんでいただければと思います」
竜史「元々は自分の話なんですけど、話もキャラクターもだいぶお2人に寄せて変わってきている中で、改めて自分のことを再発見することが多いんです。お客さんが、“自分の人生そんなに面白いもんじゃないし、結構恥ずかしいこともあったけど、なんかいいもんじゃないか”って思ってくれたらいいですね。タイトルの『No.2』は、どっちかがNo.1でどっちかがNo.2ってことなんですけど、多分、人によって感じ方が違うと思うし、どっちもそうなのかもしれなくて。片方が主役じゃなくて2人が主役っていう、この関係性をぜひ楽しみにして欲しいなと思います」
(取材・文:土屋美緒 撮影:岩田えり)