戦国時代を舞台にした物語の中でも、「真田十勇士」はひときわ人気の高い作品だ。それもそのはず。この物語は史実を残したのではなく、明治後期に創り出されたフィクション作品。だから最初から読者を惹きつける内容を詰め込んで書かれているわけだ。それ故にこの物語は講談に始まり芝居、映画、人形劇などさまざまな方法で上演されてきたし、その度に様々な解釈や新脚色が加えられてきた。しかし内容と言えば真田幸村に使えた10人の勇士(しかもそれぞれが特殊な能力を持っている)達の活躍を描くものがほとんどだ。劇作家・演出家、そして役者としても活躍する伊達謙一が主宰する劇団SHOW特急による「真田十勇伝」は、これまでの「真田…」とはだいぶ異なる、独自性を持った作品に仕上がっている。そして2014年に初演。2015年の再演時には第27回池袋演劇祭にてとしまテレビ賞を受賞した本作が、時代の節目となった今年、新たなキャストを加え劇場もあうるすぽっとへとグレードアップした「真田十勇伝-令和元年-」として再々演される。今回、新キャストとして参加する金 すんらと木村敦。そしてヒロインをWキャストで務める今川宇宙と西園みすずの4名に話を聞いた。
金「3回目の上演になるはずですが、ここに居る僕達にとっては新作みたいなものですね。演出家からも「再演というと固定観念が入るから新作のつもりで、と言われてます」
――― 長いこと劇団四季でキャリアを積み、退団後も俳優、歌手として活躍する一方で後進の指導も積極的に行っている金は、今回の出演者の中で(おそらく)最年長。出演者にとっても、そして劇場にやってくる若い観客にとっても親父的存在になるわけで、もちろん役柄は真田幸村の父、昌幸だ。
金「幸村役の木村君とは親子ということになります。現代人にあの(戦国の)時代のことを伝えるとしたら“生きるか死ぬか”の時代ということでしょうか。昔は今よりずっと寿命も短かったわけで、さらに戦国の世は戦に巻き込まれたりして“死”が身近にあったとおもいます。だからこそ一瞬を命がけで生きるという気持ち生きる気持ちを伝えなくてはいけない。とおもいました。そう、この公演はただ舞台をこなすのではなく、何かを伝える行為だと思うんです」
――― 冒頭に書いたとおり、広く知られる「真田十勇士」を「真田十勇伝」と書き換えているのは、劇団としてのオリジナリティを出すことはもちろんだが、それ以上に、単なる英雄譚ではなく、彼らの生き様を通して伝えたいものを大切にしたいという気持ちからだという。そしてここでいう「彼ら」の頭領となるのが、木村敦扮する真田幸村。
木村「幸村は家族想いの人だったと思います。だから兄と敵味方に分かれた時はとても悩んだことでしょう。そしてそれまでは一歩後に居たのが、兄との別れや、その後の環境の変化によって変わっていくわけですね。金さんとは親子になるわけですが、今回初めてご一緒するのに、顔合わせから凄く歩み寄って声をかけてくださって。本当のお父さんのように優しい、そして頼れる存在なんです」
金「まだなにもしてないけど(笑)」
木村「あとは付いていくしかないですね(笑)」
金「木村君はまだまだ秘めているものを沢山持っていると思いますよ。それがこれから稽古を重ねていくうちにだんだん出てきて、役もできあがってくる。これからが楽しみですね」
――― 昌幸と幸村。そして十勇士や家臣達。闘いの時代に生きる男たちの対岸でそれを見守る女達も居る。その筆頭がヒロインとなるお清。今作でお清を演じる西園みすずと今川宇宙はお清という女性をどう捉えているのだろう。
西園「時代のため、その未来のために闘っている男たちの、心の支えですね。そういった女性は凄いと思います。もちろん奥ゆかしさもありながら、その奥に芯の強さがあると思います」
今川「お清は十勇士を支える存在ですが、そこに私も強さを感じています。きっと今よりもしたたかさも必要だったと思いますね。台本を読んでいて思ったんですけど、それぞれの登場人物にちゃんとスポットが当たる、そんなイメージが湧くんですね。稽古を通してお清を育てていきたいです」
金「お清の存在は全ての時代に求められる女性像だと思います。みんな女性から生まれるわけだし、育まれて家や社会を作るわけですからね。なかなか難しい役だけど、このふたりもまた何か持っているから抜擢されたんだと思いますよ。気負わずに演じて欲しいですね」
――― 君主のため、そして家名を護るために闘う男たち。そしてそれを受け止めて癒し、男たちが去った後は彼らの姿を語り継ぐ女達。そこには現代の個人主義とは違う、「家」を単位とした思想がながれているはずだ。ここでちょっと気になったのが、若い3人の出演者達は果たしてそういった思想を理解できるのだろうか?ということだ。彼らはどう考えているのだろうか。
今川「今は色々なことが自由な時代ですけれど、“家”を重んじるという意識はあまり変わっていない気がします。みんな気持ちの中で大事な意識として残っているのではないですか」
西園「私の実家は大阪ですが、私自身10代で東京に出ているので、ずっと家や家族とは距離があるので年に何回しか帰れません。でもその分実家に居る頃よりも家族は大切に想っている気がします。見えないところでつながっていると思うんです」
木村「僕には姉が、親戚には従姉妹達が居ますが、全員女性なんです。そのせいか以前祖父に『木村家は男がおまえ一人なんだからしっかりしろ』といわれたことがあります。当時はピンとこなかったのですが、今になるとその言葉の意味がわかった気がします。この舞台を通して、その意識はますます高まっていくのだろうと思っています」
――― さらにもうひとつ。この舞台の見所のひとつといえば迫力のアクションシーン。中でも幸村や十勇士達の立ち回りはクライマックスのひとつになるに違いないが、そこでの主役はもちろん木村。運動は得意だという彼だが、殺陣の自信はどれ程のものか。
木村「殺陣は経験がありますが、まだまだどう魅せればいいかは勉強中ですね。正解はわからないし、正解があるのかどうか……気をつけているのは怪我しないことですね(笑)」
――― 会場となるあうるすぽっとは前回から比べると舞台も広くなったとはいえ、おそらく十数人が一斉に太刀を抜いて振り回すわけで、一瞬の気の緩みも許されない。そんな緊張感を感じさせる一言だった。令和に入ったタイミングで装いも新たに送る「真田十勇伝-令和元年-。最後に観客へのメッセージを尋ねてみた。
木村「見に来てくださるお客さんには僕等にしかできない物語を「伝えていきたいですし、なにかひとつでも共感していただけるようなものが生まれれば良いなと思っています」
今川「これまで色々な人が色々な形で演じてきたこの物語ですが、今回は私達にしかできない舞台に仕上げたいです。熱意が伝わるように頑張ります」
西園「人生最後、生きるか死ぬかの瀬戸際に、自分自身の事ではなく、護りたい人の事を考えて突き進む。そんな風に泥臭く闘う男たちを見に来てください」
金「歴史上の人物や歴史は格好よく見えるけれど、それをただ見せるのではなく、時代にもまれながら護るもののために泥臭く闘った命を、舞台も客席も共有できれば良いなと思います。やらされている、見せられているではなく、皆で創り上げる今だからこそ実現する舞台にしたいです」
(取材・文&撮影:渡部晋也)