劇作家・イトウシンタロウが主宰するNICE STALKERの新作『暴力先輩』は、来たる2020年代に向けて「多様性」をテーマに掲げた作品。ミスiDインバウンドアイドル賞に輝いた女性アーティスト・みしゃむーそが舞台初出演することでも話題の本作は、自分と異なる価値観を認めることについて、「共感」や「理解」ではなく「暴力」を通して考える物語になるという。NICE STALKERの舞台に一貫して出演している女優・帯金ゆかりを加えた3人に、公演に向けての思いなどを聞いた。
多様性の先にある争いを、暴力以外で解決するには
――― 前回の公演「表現の自由よりも大切なこと、あるいは無害な芸術の話『ロリコンのすべて』」(再演)に続いて、問題提起的なタイトルだと感じました。
イトウ「前回と今回はテーマ的につながっているわけではありません。ただ、『ロリコンのすべて』では、ロリコンをテーマに扱っているというだけで批判の声もありました。実際はそういう芝居ではなかったんですけど、世の中にはそういうのを見たくも聞きたくもない人がいる。でも一方で、口には出せないけどそういうのを見たいと思う人もいる。
今は、そんなふうに価値観の違う人たちが認め合って生きていこうという時代で、特に2020年の東京オリンピックに向けていろんな文化が競い合い、楽しい感じになっていくみたいなイメージをみんながなんとなく抱いていると思うんです。でも本来は『ロリコンのすべて』のように、多様性があるところには必ず争いが生まれます。多様性を認めようと言っているはずなのに、実際は違う意見を排除することになってしまって、その先には暴力的なことが待っている……みたいなことを考えたところから発想したのが今回の作品です」
――― 確かに「多様性」について語られる機会は増えていますが、そこでは暴力的な言葉が飛び交っていることも多いです。
イトウ「今の日本人が考えている“多様性を認めよう”というのは、理解し合ったり、わかり合って仲良くなっていこうみたいなイメージですけど、絶対に理解できないような価値観を持った人間が来た場合にどうするかということを想定していない。だから簡単に喧嘩になってしまうんです。それが国同士のレベルになると、暴力以外にそれを解決する方法がなかったりするので戦争が起きる。暴力以外にどういう解決をしていけばいいのかな、ということを今回の作品では考えたいんです。そのために、お芝居の中に多様性が欲しいと思い、普段小劇場に出ているような役者さんではなく、むしろその雰囲気を壊してくれるような方を探していたときに出会ったのが、今回ヒロインとして出演していただく、みしゃむーそさんでした」
――― みしゃむーそさんは、もともと演劇に興味があったそうですね。
みしゃむーそ「はい。小劇場にはあまり詳しくないんですけど、親の影響もあって劇団四季とか大きなものをいろいろ観ていました。あと、ちょっと範囲が広くなってしまいますけどお笑いも好きで、無名の芸人さんとかもけっこう観ていました」
イトウ「彼女の写真を見て、2秒でピンと来ました。そう言うと浅はかに聞こえるかもしれませんが、こういうセルフイメージを表現したいと考えている、そのことがはっきりわかる写真だったんです。お芝居は今回が初めてですが、パフォーマンスでは人前に出ていますし、人前で何かをすることに関しては完璧にプロフェッショナルな感じなので、そういう人を役者さんたちと混ぜたときにどういう変化が起きるか、それを舞台の上で見せられたらなと思います」
みしゃむーそ「オーディションを受けさせていただいたんですけど、それもオーディションというよりワークショップみたいな感じでした。エチュードっていうんですか? それも、もともと中学校とか高校のときに友達とずっと即興コントみたいなのをやっていたので、それだ!と思って、すごく楽しかったです。今回出演が決まって、周りのクリエイターの友達も、絶対お芝居やってほしかったって言ってくれてます」
役者の“素”の状態から欲しいものを掴み取る
――― ツイッターや公式サイトのブログで稽古の様子を公開していますが、最初は台本を書く準備のための稽古から始まったようですね。
イトウ「集まった役者さんの個性に合わせて当て書きをしていくのはよくあることですが、僕らの当て書きはもう一歩踏み込んでいって、その役者さん本人が素の状態のままで舞台上にいるような形を目指しています。なので、いわゆるお芝居の稽古というイメージとはだいぶ違うところから始まります」
みしゃむーそ「ただいろんな人とお喋りしているのを、イトウさんが見ている感じですね」
イトウ「あまりカチッとした稽古にすると、役者さんの中で“こういうふうに見られたい”という意識が強くなってしまうので。なるべくそういうのを持たなくていいように、その人がうっかりポロッと言うようなことを言わせようと頑張るんです(笑)。今回初めて参加する人もそうですけど、毎回付き合ってくれるメンバーがいるからこそできるやり方だと思っています」
――― その“毎回付き合ってくれるメンバー”の一人が帯金さんですね。
帯金「他の現場でもエチュードから立ち上げていくスタイルはけっこうあって、そういうところにも参加していますけど、イトウさんはなるべく役者にプレゼンさせないように頑張る人なんです。陰に隠れようとするというか(笑)。私はもともと自分で劇団をやっていた人間なので、もっとピリッとさせたほうがいいんじゃないかと思ってしまいがちなんですけど、そういうものを徹底的に排除して、自分が欲しいものを掴み取ろうとするのがイトウさんのスタイルで」
――― 馴染むまで時間がかかったのではないですか?
帯金「はい(笑)。私はもう10年くらいそれにお付き合いしているんですけど、最初は“もっとちゃんとやりましょう!”って、けっこう喧嘩していました。イトウさんはそれを上手にかわしながら、私の気の荒いところも台本に反映させていく。出演者の本当に面白いところを、フフフとほくそ笑みながら書いているんです(笑)」
イトウ「ありがとうございます(笑)」
帯金「そんなふうに、イトウさんは素材としての私を楽しんでくれるので、だったら他の現場でも素材のままでいていいのかなって、どこへ行っても肩の力が抜けやすくなってきた気がします。そこはすごくありがたいですね」
正しいことがいつも正しい理由で行われているとは限らない
――― 作品のテーマ、内容についてはどう感じていますか?
みしゃむーそ「“多様性”と似たような話で、私が高校生の頃に“個性的”という言葉が流行ったんです。きゃりーぱみゅぱみゅさんが流行った頃に、“個性派ファッション”というのが確立したんですけど、それはおかしな話で……そもそも“個性派ファッション”というのが雑誌とかに書かれてジャンルになったら、もうそれは個性派じゃない。それと、多様性が多様性を認めない、みたいなのはすごく似ているなと思いました」
イトウ「確かに。“清純派AV女優”みたいなことですよね」
帯金「え?(笑)」
みしゃむーそ「……違います(笑)」
イトウ「すいません、間違えました(笑)」
帯金「私は今回のテーマ、よくぞ言ってくれたなと思います。私はもともと口が悪くて、言っちゃいけないような言葉もたくさん選んで言ってきたんですけど、自分は決してそんなに悪い人間じゃないと思ってるんです(笑)。でも、別に誰かを傷つけたいわけでもない言葉や行動が、最近はあれもダメこれもダメみたいになって、すごく生きづらくなってる。正論があまりにも大きな顔をして歩いているような感じがして」
イトウ「言ってることは正しいけど、それを言ってる理由はほんとに正しいのか?っていうことなんですよね。公演のメインビジュアルを描いてくれたマンガ家のちょぼらうにょぽみ先生も、世の中の正しさとか暴力的なことをあざ笑うような作品を描いてSNSでよく炎上している方で、『暴力先輩』のテーマにとても合うと思ってお願いしました。今回のキャッチコピーを考えるときに“正しいことが、いつも正しい理由で行われているとは限らない”という候補があったんですけど、まさにそういうことなのかなと」
――― 同じようにモヤモヤした思いを抱えている人には、ぜひこの舞台を観てほしいですね。
イトウ「暴力イコール悪いことっていうふうにテンプレートで考えてしまいがちなところを、一度崩して考え直すような作品になればと思っています」
(取材・文&撮影:西本 勲)