100万部超のベストセラーを舞台化し、大きな注目を集めた『鏡の法則』。2013年に初演を迎え、全公演ソールド・アウトを果たした伝説のステージが、6年の月日を経て待望の再演を果たす。脚本・演出を手がけるのは、RYUHEI COMPANY主宰の望月龍平。また今回の再演ではキャストを一新し、主人公の秋山栄子役を元劇団四季の樋口麻美が、その少女時代を林愛夏が、そしてキーパーソンの矢口信次郎役を望月自身が演じる。
――― 2013年に初演を迎え、全公演ソールド・アウトを果たした話題作『鏡の法則』。6年ぶりの上演となりますが、これまでも再演を望む声はあったのでは?
望月「初演の反響はとても大きく、再演して欲しいという声は確かにたくさんいただきました。ここまで時間が空いてしまったのは、やはりキャストによるところが大きかったと思います。初演時はオーディションで選んだ役者さんが矢口信次郎役を演じていましたが、とても面白いキャラクターだったので、半分あて書きしていたんです。ところが彼が数年前に急死してしまい、その役を演じられる人がいなくなってしまった。今回秋山栄子役を演じてもらうふたりもそうですが、やはりキャストが揃わないと作品作りは難しい。
そんななか、『もう一度役者としての望月龍平を見たい』という声をいただき、僕もまた舞台に立ってみようかという気持ちになった。このふたりを配役できたのもそうですが、キャストが新たに揃ったことで、6年経ってようやく再演が叶った形です」
樋口「龍ちゃんと私は同じ劇団四季の第35期生で、旧知の仲ではありました。ただ彼は最近忙しくて同期会にも参加してくれないし、ちょっと疎遠になっていたので、突然オファーをいただいてもうびっくり(笑)。でも龍ちゃんの目指す方向は私もよくわかっているから、そういう意味ではいい物作りができる人だと思っているし、そこは信頼しきっています」
望月「キャスティングはたいてい理屈ではなく直感です。僕自身の“その人が演じるこの役を見たい”という想いでキャスティングしていくので、ある意味ファン心理で選んでいる部分は大きいかもしれません。麻美は単純にプレーヤーとしてものづくりを一緒にしたかった、というのがキャスティングの一番の理由。年齢的にも役と同じで、タイムリーでもありました。愛夏ちゃんは『林愛夏のうにょうにょルーム』で共演してて、“アイドルでこんなに純粋でひたむきな子っているんだ!”という衝撃がありました。あとふたりともそうだけど、こちらがひとつ言ったことをぱっと受け取ってくれるだろう、この人たちに加わってもらったら、自分の伝えたいことをより明確にお客さんにキャッチしてもらえるのでは、という役者としての信頼感も大きいですね」
林「出演のお話をいただいたときは素直に嬉しかったです。おふたりは私が『ライオンキング』にヤングナラ役で出演していた子役時代頃から、ずっと憧れの存在で、今回こうしてご一緒できて本当に光栄です。樋口さんの公演はこれまでたくさん拝見してきましたが、なかでも一番印象に残っているのは『ウィキッド』。一番好きな作品でもあり、樋口さんの歌う姿にとても感動させられました。芝居に関してはまだまだ未熟な部分があるので、おふたりの演技をたくさん見て学ばせてもらえたらと思っています」
――― 主人公の秋山栄子を樋口さんが、その少女時代を林さんが演じます。
林「まさか自分が樋口さんと共演できるなんて、しかも少女時代を演じることができるなんて夢にも思っていませんでした。精一杯頑張りたいと思っています」
樋口「全く似てないけれど(笑)、こんな可愛い子に少女時代を演じてもらえるなんて嬉しいですね。ただ台本を読んだとき、これは相当ハードな役だなと思いました。自分と向き合って、深く深く掘り下げていって、またそれを修復していく作業を幕が開くたび毎回取り組んでいくことになる。こういう役を演じたことは今までないし、相当大変そうだなと思っています」
望月「そうなんだよね。かなり根深い部分、普段は無意識に蓋をしている部分と向き合っていく必要があるから、役者は大変だと思う。僕が演出で大切にしているのが、その役者のもともと持っている傷だったり、人生で味わった想いを抉り出していくこと。役に向き合っていくことで、役者は自分の人生と向き合うことになる。僕も両親とぶつかっていた時の想いや葛藤を振り返る必要があるし、みんなそれぞれ過去の自分を炙り出していく作業が必要で、これはかなりしんどいはず。
ただそれが消化されると、役や作品を通して自分の知らない一面に出会えたり、奥底に眠っていた気持ちに気付けたりする。また役者自身にとって、そういう体験になったらいいなと思っています」
――― 再演を迎えるにあたり、初演と変えた部分はあるのでしょうか?
望月「かなりリライトしています。例えば愛夏ちゃんの演じる少女時代の栄子のシーン。彼女が恋に落ちてときめいてる姿を歌で表現したいという気持ちがあって、そこは新しく加えました。前回は音楽をBGM的に使っていて、舞台上にいるミュージシャンがその役の心情を歌い出すという手法を取っていたので、ミュージカルとは謳っていませんでした。でも今回は歌が増えたということで、改めてミュージカルと謳っています」
樋口「私、実は歌ってあまり得意ではなくて。苦手意識があって、舞台上で歌ってて気持ちいいということはないんですよね」
林「ええっ!」
望月「そうなの!? 衝撃! 初めて聞いた! 愛夏ちゃんは歌は好き?」
林「好きです!」
樋口「愛夏ちゃんの歌声、素直で大好き。いっぱい聴きたいって思っちゃう」
望月「愛夏ちゃんって本番とリハーサルが全く違うんだよね。リハーサルでは控え目なんだけど、本番で“行くしかない!”となったときにものすごい光を放つ。あれは見ててすごく面白いなと思った」
樋口「アイドルとして何千人の前で歌ってきたんだから、場数が違うよね」
林「ミュージカルの歌はまだまだなので、もっともっと実力を上げたいです!」
樋口「ミュージカルだったらどの役がやりたいの? “四季あるある”で、口にすると叶わないとも言われるけれど……」
望月「でも10回口にすると“叶う”だけどね」
樋口「じゃあ言った方がいいよ!」
林「『アラジン』のジャスミンを演じてみたいです。ただ親が『美女と野獣』のベルをやって欲しいと言っているので、ベルもいつか挑戦したいです。子供の頃の私は落ち着きがなく、集団行動できるようにと親が片っ端から習い事をさせたのがダンスをはじめたきっかけでした。英会話や習字といろいろ習いましたけど、ダンススクールに行ったら初めて楽しんでお稽古することができて。やっぱりミュージカルが好きだったのか、3歳のとき『アニー』に連れていってもらい、そこで初めて2時間以上の作品を観ることができたそうです。
この世界に入ってからいろいろなお仕事をしてきましたが、一番好きなミュージカルの世界に戻ってくることができて、今すごく心地良さを感じています」
――― 望月さんは脚本・演出に加え、役者としても出演します。作り手と演じ手の両方を担う上で大変なことはないですか?
望月「役者をしながら演出をするというのはやはり難しいですね。役者は主観的であるべきだと思うけど、それはまた演出家の“こう運びたい”と意図するものとはちょっとズレがあって……。何しろ僕の演出はすごく細かいんです。無駄なものはできるだけ削ぎ落としたいし、役者に台詞がフィットしていないとすごく気になる。動きひとつにしても必然であって欲しいと思うから、“そんなところにそんな時間をかけるの?”というくらい要求が細かくなってしまって(笑)」
樋口「いいこだわりだよね、すごく共感します。浅利演出もそうで、役者の台詞と心理がフィットしていないと千本ノックが打ち込まれる。役者としては、返して、返して、自分の言葉になるまで返さなければいけないという……」
望月「あえて語弊を恐れず言うならば、浅利さんって究極の素人目線を持っている人で、だからこそウソがない。大切なのは、そこにリアリティがあるかということ。ウソを関知する嗅覚がすごくて、ちょっとでも自分をよく見せようとか、役者が自意識を持った瞬間に、がつんとそれを打ち砕かれる」
林「私はどんなに厳しくても大丈夫、千本ノックが来ても食らいついていきたいです! 大変な方がより前向きになれるし、鍛えられ、そしてさらに上を目していきたいです」
望月「上に行って欲しいな、我々を踏み台にしてね(笑)」
林「何てこと言うんですか、やめてください!!」
――― 待望の再演を迎えるミュージカル『鏡の法則』。どんな舞台にしたいですか?
樋口「劇団四季を退団してからしばらくお芝居から遠ざかっていて、だからこそ声なき人に声を与える演劇のありがたみに気づかされた部分がすごくありました。今回はどれだけ作品と向き合えるかが勝負になると思う。栄子と、自分と、作品と向き合ったとき、どんなものが生まれるか。表現するのではなく、掘っていく作業をどこまでできるか。ステージにどこまで魂ごとぶつかっていけるか、今は不安半分、期待半分という気持ち。共演者のみんなとすごいものをつくっていければと、そしてみなさんにこの舞台をぜひ体験しに来てもらえたらと思います」
林「私自身は思春期に恋愛とか親への反発を経験してこなかったので、栄子を通して体験できるのは楽しみでもあり、いかに役に入り込めるか挑戦したいです。貴重な機会をいただき、私にできることを一生懸命頑張りたいと思っています」
望月「キャッチコピーに“なぜ、観た人の9割が涙したのか?”と謳っていますが、初演では本当に多くの方が涙を流してくれました。たぶん子供としての自分、夫婦としての自分、親としての自分と、どの人にも必ず投影できるキャラクターの心情があって、自分を省みることになる演目なんだと思います。舞台として観るというよりも、体験として味わってもらいたい作品です。できればご家族で一緒に舞台を観ていただきたい。もしくは、友達、パートナーと一緒に観ていただき、終わった後にディスカッションして欲しい。“自分はこう思った”という振り返りまでを作品のセットとして体験する、そういう演目になったら嬉しいですね」
(取材・文:小野寺悦子/撮影:友澤綾乃)