次世代の演劇界を担う人材と、新たなスタイルの演劇にチャレンジしている神保町花月。9月26日より上演する『三十と十五の私』は、〈学生の中絶〉をテーマに劇団張ち切れパンダが2015年に初演した作品で、主宰の梨澤慧以子が今回も作・演出を務める。主演は注目の若手コンビ、「世間知らズ」の西田さおり。その弟役に相方の椎木ゆうたが扮する。
10代の中絶という重いテーマの作品を、あえて吉本と
――― まず最初に、どのような作品なのでしょうか?
梨澤「テーマ的に、やっぱり生々しい話にはなってきますね。私の周りに中絶して苦しんでる子がいたので、その問題を書きたい思いはずっとあったんです。ただ、命を扱う問題なので、若い頃に書いてもあんまり伝わらないんじゃないかと思っていて、30歳になったら、と決めて書いたんです」
――― 今回は再演になりますが、前回から変えていく部分はありますか?
梨澤「大体の流れは変わらないですけど、演じてくれる方が変わるので台詞を書き直したりはします。基本当て書きなので、普段は、稽古の間に仲良くなって関係性ができて、嘘のない状態にして、あとは読めばいい状態を作ってから脚本が完成する感じなんです。しかも今回は芸人さんが多く出演されるので、やっぱり雰囲気は変わっていくんじゃないかと思ってます」
――― 吉本や神保町花月とのコラボレーションはご自身初ですよね。
梨澤「やっぱりお笑いのイメージが強いので、最初は喜劇寄りの作品がいいのかなと思ったんですけど、しっかり演劇をやっていきたいというお話だったので、だったら濃密な人間関係とかリアリティのある芝居をやったほうが楽しいかな?と思って、この作品を選びました。芸人さんは役者とは違うものを持ち込んでくださると思うし、自分の中で一回区切りをつけた作品なので、もう一回やることでどういう形になるか、すごく楽しみですね」
演者同士の関係性から、物語にリアリティが生まれる
――― 西田さんと椎木さんは、今の時点で作品にどんな印象を持っていますか?
西田「神保町花月の公演は何度か出てるんですけど、初演のDVDを見せてもらったら、今までやったことも観たこともないようなお芝居で」
椎木「彼女は、妖怪とか妖精とか、コメディタッチの役が多かったんです」
西田「はい、そもそも人間役がそんなになかったんです」
椎木「体型もややこしいし。フライヤー撮影の時も、制服着たらパンパンすぎて、周りみんな頭抱えちゃってましたから。化粧も濃いし、どうすんだよこれ?って。とりあえず本番までに痩せろとは言いました(笑)。作品の感想は……僕、めちゃくちゃ頭悪いんで、あ、こういう物語もあるんだなって、あまり何も考えずに受け止めたというか。妊娠して10代で……ってなると、こういう感覚で過ごすのか、みたいな感じでした」
――― お2人の役どころは?
梨澤「西田さんには、15歳の時に中絶する女性の役で、15歳と30歳をやってもらいます。30歳で、ちょっとうだつがあがらないというか、会社もクビになって、1人暮らしの家を引き払って実家に戻って……大人になりきれない女性の象徴みたいな感じです。椎木さんはその弟役ですね」
椎木「再婚相手の連れ子で、義理の弟なんですよね。梨澤さんがすぐ、はまり役かもしれないって言ってくれたんで、何となく役に入りやすいのかなって思ってるんですけど」
梨澤「うん、そのままで大丈夫、何の役作りも必要ない感じがします。主人公とどうやりとりできるかとか、ここの関係性が大事なんですけど、コンビだからそれもすぐできそう。家族のリアリティみたいなものは、多分すぐ作れるんじゃないかなと思ってます」
西田「私は正直、すごく難しい役だ……と思いました。そもそも私、中絶どころかまだ経験もなくて。顔面は結構いい方だと思うんですけど(笑)、バージンなんです。なので、そういうことしたんだっていうイメージトレーニングをして毎日舞台に行きます」
――― (笑)。内側に抱えるものがある役は、西田さんの明るいイメージとは違うので、見てみたいです。
椎木「確かに、そういうイメージはないと思います」
西田「本当は結構、根暗なんですよ。人見知りもありますし。なので、このキャラクターに感じるものはあります」
椎木「あと、実はめちゃくちゃ真面目なんですよね。肩の力抜けばいいのにと思うけど、まあ、それが良いところだと思うんで、見守りたいなと思います」
――― 優しい。お姉さんを見守る弟にぴったりですね。
椎木「そう、俺は結局、優しいんですよ(笑)。いや最近、先輩とか周りみんなが西田ちゃん西田ちゃんってなってて、すごい可愛がられてるんですよ。ピンで色々出たりして。なのでこの舞台で、横に俺がいるよっていうのを再確認してもらわないと、と思ってます」
――― 主演のプレッシャーはありますか?
西田「あります。しかも今回は共演がほとんど先輩なので特に感じます。ボーイフレンドさん、スパイクさん、竹若さんとか……」
梨澤「竹若さんはお父さん役なんですけど、どなたが良いかずっと悩んでいたら、うちの劇団員が『竹若さんは?』って。それ聞いて、ぴったりだと思って、神保町花月さんにお願いしました。出ていただけるって分かった時は嬉しかったですね。役にバッチリ合う感じなので、場を締めていただけるんじゃないかと思います」
西田「私たちもお仕事させてもらったことないので、一緒にやらせてもらえるのはすごくありがたいです」
演劇ファンにお笑いを、お笑いファンに演劇を好きになって欲しい
――― 梨澤さんは、フレッシュなお2人にどんなことを期待しますか?
梨澤「普段のお仕事との違いは色々あると思うけど、小劇場という場や演劇を楽しんでもらいたいですね。つまんないなとか辛いなとか思いながら本番を迎えて欲しくないし、お客さんの前にいて欲しくないから」
西田「はい! 普段はネタでも漫才が多くて、コントすらほとんどやらないので、こういうしっかりしたお芝居をやらせていただいたら、すごい経験になると思います。めちゃくちゃ楽しみです!」
梨澤「そう言ってもらえると嬉しいです」
椎木「僕らの笑いを好きな人と、芝居を好きな人の両方が劇場に来ることで、いつもと違う雰囲気が生まれると思うんです。張ち切れパンダや演劇を好きな人がお笑いを好きになってくれたら嬉しいし、お笑いファンが芝居を観に行くようになったら嬉しいし、どっちにとってもプラスじゃないですか。しかも、こういうリアルな芝居を肌で感じられるなんて、めちゃくちゃありがたいです」
西田「頑張ります! とにかく観に来てください!」
(取材・文:土屋美緒 撮影:友澤綾乃)