笑いながら泣かされる、泣きながら笑わされる。そんな作風で幅広いファンを持つ劇団ふくふくやが、新作『こどものおばさん』を上演する。とある熟女バーの控室で巻き起こる悲喜劇を描いた本作は、座長・山野 海の幼馴染役で熊谷真実が客演するのも話題のひとつ。公演チラシで満面の笑みを見せる2人の姿、そして《おばさんは、恋心でできている/おばさんは、乙女心でできている/おばさんは、義理と人情でできている》というキャッチコピーにはもう期待しかない! 劇団員でプロデューサーも務める岩田和浩を加えた3人へのインタビューをお届けしよう。
海さん、どうしてこんなに私のことを知ってるんだろう!?
――― 前作『ウソのホント』は、いろいろな風俗店が入った雑居ビルの“掃除のおばちゃん”が主人公でした。そして、今回は熟女バーが舞台で。
山野「前作から始まる“おばさん三部作”の二作目です。まず、私の作品は割と昭和初期の話が多いんですけど、そこを現代ものにして。あと、今回のキャッチコピーに書いてあるようなことを、私もおばさんになっていろいろ感じるようになって、それを風俗業を通して描くのは面白いなと作家として思ったんです。風俗といっても私が書いていますから、薄〜い風俗の話なので女性のお客様もご安心ください(笑)」
――― そもそも、このチラシで熟女バーの話だなんて全然想像できませんね。
岩田「あははははは!(笑)」
山野「それでいいと思います(笑)。熊谷さんとやらせていただくことが決まったとき、熟女バーの控え室で熊谷さんと私が、“あの若い子がさあ〜”なんて愚痴を言い合ってるのがおかしくて面白いなと思って。若いといっても40歳くらいなんですけど(笑)」
熊谷「熟女バーといっても、メインはだいたい30歳から40歳くらいで、私たちの年齢になると、メガ熟女、ギガ熟女って呼ばれるらしいんです(笑)」
山野「超熟とかね(笑)」
熊谷「そんな私たちにも恋心はあるし、《おばさんは、義理と人情でできている》というのもその通りだなと思うし……それで、今回の『こどものおばさん』というタイトルをいただいたときも、私はいつも主人から“子供おばちゃん”と言われているので、本っっ当にびっくりして。“海さん、どうしてこんなに私のことを知ってるんだろう!?”って」
山野「あははははは!(笑)」
熊谷「そして、今回のチラシをFacebookに上げたら、50代・60代の女友達の食いつきがすごいんです。“これは私だ!”って」
岩田「素晴らしいですね」
熊谷「つまり、ほとんどの50代60代は、自分のことを“こどものおばさん”と思ってる。そこをついてくる海さんは本当に天才だなって思いました」
熊谷さんは女優として上手いだけでなく、太陽のような人
――― そもそも熊谷さんは、ふくふくやに小泉今日子さんが出演された2014年の『フタゴの女』をご覧になったことから山野さんとの交流が始まったそうですね。
熊谷「その前に小泉今日子さんと舞台でご一緒していて(こまつ座『頭痛肩こり樋口一葉』)、今度出るふくふくやという劇団にすごい女がいるのよって聞いて(笑)。それで観に行かせていただいたら、舞台に出てきた途端、バリバリバリってセットを壊して出てきたと思わせるくらいの存在感で。しかも、そこはかとない色気もある。なんなんだこの人は!って驚きました。最初は笑って観ていたんですけど、最後は大泣きして。終演後に小泉さんのところに駆け込んだのが忘れられなくて」
山野「それ覚えてる(笑)。熊谷真美さんが号泣してるって」
熊谷「しかも、まさかバリバリバリって音を立てて出てきた登場人物が脚本も書いていると知って、すっかり虜になりました」
――― 『世襲戦隊カゾクマン』では塚原大助さん(ふくふくや/ゴツプロ!)とも共演していますね。
熊谷「そうなんです。そこで仲良くなった塚原さんと海さんがつながっているのもご縁だったし、海さんと小泉さんが親しくしているというのもご縁だったし、なんだか必然的な流れがあって。でも、だからといってお芝居を一緒にって誘っていただくなんて思っていなかったので、本当に驚きました。もともと人懐っこいところがあって、すぐ友達になるタイプなので、ただの“いい人”になっちゃう可能性が高いんですけど、役者として認めてくれて、一緒に芝居をしたいと思ってくれたのがよけいに嬉しかったというか」
山野「私は、もちろん熊谷さんのことは知っていましたし、『頭痛肩こり樋口一葉』を観たときも、私が言うのもおこがましいですけど、上手い女優さんだなと改めて思いました。でもお会いして話してみると、本当に太陽みたいな人で」
熊谷「そんなそんな……」
山野「それで、絶対一緒にやりたいと思ったんです。作家としての私の、筆を走らせてくれる女優さんだなと思って」
熊谷「私も、こういうお芝居がやりたいという漠然としたものが自分の中にあるとしたら、海さんの作るお芝居は、まさにそのストライクゾーンなんです。役者としてもすごいし、作家としてもすごい。今回は作家としての竹田 新さんと、役者としての山野 海さんと、2回ご一緒できるわけですから、その両方で遊ばれたいと思います」
山野「私も、遊びたいですね(笑)」
――― 岩田さんは、ふくふくやに途中から参加されて、今はプロデューサーという立場でもあるんですよね。
岩田「僕は、海さんの芝居を初めて観たときから本当にすごい人だと思っていて、それまでけっこうフラフラしていたところをふくふくやに呼んでもらったのが30歳くらいのときで、もう13年くらいになりますね。この場所が大好きだし、ふくふくやに育ててもらったようなものです。だから、海さんが座長ではありますけど、作家としての時間をちゃんと作ってあげたいということで、それ以外の部分を今は僕が担当しています」
山野「私は、いわゆる普通のことがまったくできないので(笑)。立ち上げの頃は、副座長の清水 伸がやってくれていました」
岩田「そうすることで自分も成長できると思っているし、大好きなふくふくやをもっと大きくしていきたいというモチベーションにもつながりますから」
何も考えずに楽しい気分で終わって、明日も頑張ろうと思える舞台
――― そんなふくふくやも今回、20公演目を迎えますね。
熊谷「すごい!」
山野「そうなんです、不思議ですよね。ありがたいことです。お客さんがいて仲間がいるから、こうやってできていることなので」
岩田「ふくふくやの代表作としては今まで《三本木麗子一座シリーズ》がありましたが、さらに何か新しいものがあればふくふくやの武器になるかなと思っていて、それが前作はすごくハマったと思います。お客様も喜んでくれましたし、興味を引くものになったという手応えがすごくあるので、今回、次回と三部作を盛り上げていきたいですね」
山野「私が演じる役を含めて、『ウソのホント』に登場したキャラクターが何人か出てきますが、まったく違う物語なので、初めて観る方も全然問題ないです。私の役はせっかちなおばさんで、熊谷さんはのんびり屋の、惚れやすいおばさん」
熊谷「なんでわかるの? なんで知ってるの?」
山野・岩田「あははははは!(笑)」
――― おばさん世代には特に響く作品になりそうですが、若い方が観ても大丈夫ですよね?
山野「もちろんです。実際、ふくふくやの舞台には若いお客様もたくさん来てくれています。とにかくうちは喜劇ですからね。ちゃんとしたプロの笑いは年代を問わないと思っているので、きっと楽しんでいただけるんじゃないかな」
岩田「僕は20代の頃からふくふくやを観ていますし、参加するようになってからもそうですけど、おじさんおばさんが一生懸命バカなことやってるのってすごく面白いんですよね(笑)。僕もいい年齢になってきたので若い子たちを呼ぶんですけど、やっぱりそういう姿を面白いと思ってくれています」
山野「私は最終的に、観終わった後においしいビールを飲んでくれたらいいなって、いつも思ってます」
――― 最後に、公演を楽しみにしている皆さんに一言ずつお願いします。
岩田「なんにも考えずに観に来ていただいて大丈夫ですし、笑って帰れます。楽しい気分、明日も頑張ろうっていう気分になれると思いますので、ぜひいらしてください」
熊谷「『こどものおばさん』というタイトルですけど、“こども”と“おばさん”のどちらかといったら、“こども”の方が大きいかもしれません。年齢のことはあんまり気にせず、おばさんというところを意識せず観に来てくださると、きっと楽しめるんじゃないかなと思います」
山野「ふくふくやでは、笑うことだったり悲しむことだったり、年齢に関係なく人間の普遍的な思いを描いていきたいと思っています。ぜひいろんな層の方に観に来ていただけたらと思いますので、どうぞよろしくお願いします!」
(取材・文&撮影:西本 勲)