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杉原邦生


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混沌を極める現代に向けて、演劇だからできることを問いかける

柴幸男×杉原邦生。82世代の二人が切り取る“現在(いま)”のわたしたちの物語。

日本の古典芸能・歌舞伎に新たな息吹を吹き込む木ノ下歌舞伎の演出・美術でも知られる杉原邦生が、自らのベースキャンプであるプロデュースユニット・KUNIOで新境地を切り開く。最新作『TATAMI』でタッグを組むのは、劇団ままごとの柴幸男。これまで過去の名作戯曲に独自の解釈で挑んできたKUNIOがなぜ今ここで現代作家の新作に挑戦するのか。そこには、杉原の現代社会への警鐘があった。


インタビュー写真

思い描いた未来と全然違った方向に行った“現在”を描く。

「既存の戯曲を自分が演出することでその作品の新しい魅力や面白さを見せられたら、というのがKUNIOの始まり。それがいろいろとやっていくうちに、今自分がやりたいことを実現できる場であろうというふうに変わっていきました。特に去年、『ハムレット』をやったとき、京都大学でシェイクスピアの研究を行っている桑山智成さんと話し合いながら台本をつくっていったのもあって、僕自身、もうちょっと本を書く段階から関わってやってみたいと思うようになった。それが、新作をやるひとつの理由です」

――― 杉原は、企画の出発点を快活にそう語りはじめる。そのポップでカジュアルな空気感は、気鋭の若手演劇人というよりも、むしろ近所の気の良い好青年という印象が強い。だが、その内面にはアーティストとしての社会に対する鋭い洞察眼がある。

「『ハムレット』の前、2012年の9月に大学時代の恩師である太田省吾さんの『更地』をやって。『更地』は家を失くした初老の夫婦の物語。上演当時は、震災のあと。本来の太田さんの『更地』は過去を掘り起こしていくイメージがあるけど、当時の雰囲気もあって、僕は『更地』をゼロになったとしても未来は新しく何色にでもできるという希望につながる物語として描けたらって思ったんです」

――― そこで、舞台美術家としての顔も持つ杉原は、終盤、舞台全体を虹色の幕で覆った。そのカラフルな彩りは、明るい未来の象徴として観客に鮮烈な印象を与えた。あれから3年。あの頃描いた未来との隔たりが、『TATAMI』を生んだ。

「問題をひとつに限定しちゃうと話が小さくなるのでしたくないけど、あえてたとえるなら原発の問題ひとつとっても、僕らは前の世代がつくってしまったものとどうやって社会の中で共存していくかっていうことをもっと考えなきゃいけないし、故郷を失ってしまった人たちがこれからどうやって生きていくのかっていうことと社会全体で向き合わなきゃいけなかったはずなのに、経済とか集団自衛権とかいろんな問題にいつの間にかすり替わって、麻痺しちゃっているようなところがある。だからこそ、2012年の僕がこういうふうになればいいと思った未来とは全然違った方向に行った“現在(いま)”を、現代の言葉で描いた現代劇をつくってみたかった。それで新作をやろうと決めたんです」

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二人だからできる新しい面を見せたかった。

――― そう決意した杉原がオファーをかけたのが、柴だった。

「僕は、柴くんは太田省吾さんと遠くないものがあると思っていて。太田さんも柴くんも身近な関係性から始まって、そこから宇宙の果てまで飛ぶようなスケールを持った劇作家。ミクロとマクロを行き来しながら人の営みを捉えて劇にしているってところが共通していると思うんです。誰も共感してくれないかもしれないけど(笑)。今回の企画は『更地』を出発点にしているのもあって、だったら作家は柴くんがいいなって。あと、柴くんと僕は同い年なんです。2009年に『キレなかった14才♥りたーんず』という企画を一緒にやったこともあって、柴くんには戦友感のようなものがある。今回は本当に二人で話し合ってゼロの段階からつくっていきました」

――― 興味深いのはキャスティングだ。4人の役者はすべて男性。女の子の描き方に対して独特の感性が光る柴にとっては異色と言えそうだ。

「たとえば『わが星』にしても『あゆみ』にしても、女の子のノスタルジーとかセンチメンタリズムみたいなところに回収されることが批判の対象になることがあるけど、柴くんの描こうとしてることはもっと普遍的なことだと僕は思っていて。それで、そういうことに回収されない仕掛けがキャスティングの段階であった方が新しいものができるんじゃないかと、僕から男だけのキャストで、とお願いしました。僕にとっても自分からお願いして新作を書いてもらうのは初めてだし、柴くんも自分が演出しないで書き下ろすのは初めて。どうせ一緒にやるなら、今までの僕の作品とも違う、柴くんの作品とも違う、二人だからできた新しい面を見せたかったんです」

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その場に集まって共有する、それが演劇の魅力。

――― 杉原は、1982年に生まれた。いわゆる“キレる14歳世代”だ。しかし、杉原はそんな殺伐とした世の空気など素知らぬ顔で、高校時代は体育祭や文化祭に燃え、“行事王”の異名をとった。根っからのお祭り男はその情熱を捧げる場所を求め、京都造形大学に進学。そこで初めて演劇にふれた。

「もう入学当時は間違ったなって思いました(笑)。太田省吾さんの言っていることが全然わからなくて。授業でゆっくり歩かされるっていうのがあったんだけど、“何でゆっくり歩くことが演劇って言えるんだろう!?”って(笑)。もう演劇をはじめようと思った瞬間に演劇の概念を崩された。でも、それが良かったんです。最初にぶっ壊されたから何でもありなんだって思えた。発想が柔軟になれたし、縛られなくなった。歌舞伎を見ても狂言を見てもピナ・バウシュを見てもオペラを見てもミュージカルを見ても全部面白かったし、全部受け入れられた。それが自分としては良かったし、今のいろんな仕事につながっているのかなって」

――― KUNIOの旗揚げは2004年。気づけば、11年が過ぎた。演劇のことを何もわからなかった青年・杉原邦生は大人になり、今改めて演劇の魅力は何かと問われれば、果たして何と答えるか。

「その場に集まって共有できること、それが“LIVE=生”だってこと。その場にいる俳優とスタッフがその場にいるお客さんに向かって表現する芸術だってことが僕にとってはいちばん楽しいし、それが祝祭だって思うから。やっぱりお祭りが好きなんですよ。人が集まって何かを楽しんだり、あるいは怒ったり悲しんだり。人が集まって感動する場が僕は好き。それをアーティストとしてつくれるのが演劇。だから好きだし、そこがいちばん楽しいですね」

――― だからこそ、願う。もっと演劇が身近なものになればいい、と。

「もっと劇場に行くことがファッションになればいいと思いますね。クラブに行く、買い物に行く、ディズニーランドに行く、劇場に行くっていうのが全部一緒になったら超いい。日本の芸術を捉える感覚って何でもお勉強になっちゃう。劇場に行くことも美術館に行くこともレジャーにならない。日本にはレジャーとアートに断絶がある。そこがなくなったらいいなって思います」

――― だが、その断絶は見下ろしても底が見えないほどに深い。断絶を超え、演劇がファッションとなるためには何が重要か。杉原は「自分が生きている間には無理かもしれないけど」と前置きした上で希望をこめる。

「再演というのが大きいんじゃないかなとは思います。新作をつくり続けるばかりじゃなく、再演を繰り返すことをもっといろんな劇団がしてもいいんじゃないかなって。『わが星』だって俄然動員が上がっている理由の一つは、作品のファンが他の人たちに広めることで新しいお客さんが増えているから。再演って誘いやすいし、勧めやすいじゃないですか。今年2・3月に演出した木ノ下歌舞伎の『黒塚』も再演はすごく動員が増えた。そういう可能性が演劇にはあるし、そのポテンシャルはもっと引き延ばせる気がするんです。そうやって再演が定着して、アーティスト側も劇場側もお客さん側も再演に対する意識が変わっていくと、全体で作品を育てていこうという動きがもっと出てくるはず。それは絶対にいいことだと思うんです」

――― 時代を経ても色褪せない。むしろ輝きを増していくようなマスターピース。この『TATAMI』もそのひとつにするつもりだ。ならば、とくと見届けよう。82世代の二人による祝祭の幕開けの瞬間を。


(取材・文&撮影:横川良明)

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PROFILE

杉原邦生(すぎはら・くにお)のプロフィール画像

● 杉原邦生(すぎはら・くにお)
1982年東京生まれ、神奈川県茅ケ崎育ち。04年、自身が様々な作品を演出する場として、プロデュース公演カンパニー・KUNIOを立ち上げる。06年、『yotsuya-kaidan』の演出をきっかけに、歌舞伎演目上演の新たなカタチを模索するカンパニー・木ノ下歌舞伎に参加。08年より、こまばアゴラ劇場が主催する舞台芸術フェスティバル<サミット>ディレクターに2年間就任。10年からはKYOTO EXPERIMENTフリンジ企画のコンセプトを務めるなど多彩な活動を展開。新世代の旗手のひとりとして演劇界から注目を集め続けている。

● KUNIO(くにお)
杉原邦生が既存の戯曲を中心に様々な演劇作品を演出する場として、2004年に立ち上げる。俳優・スタッフ共に固定メンバーを持たない、プロデュース公演形式のスタイルで活動。上演時間が約8時間半にも及ぶ超大作『エンジェルス・イン・アメリカ』や、日本ではたった一度しか上演されたことがない最古のテキスト“Q1”バージョンを新訳で上演した『ハムレット』など、話題作を発表し続けている。

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