「誰がために、もしくは何故悪の道、独りジゴマは進むのか。それを追うのは探偵三笠。善悪表裏のこの二人、対決やいかに!」どこからかこんな口上が聞こえてきそうな雰囲気を纏う『帝都探偵奇譚ジゴマ』は、昨年10月に演出家・松多壱岱が主宰するASSHにより上演され、なんと全公演ソールドアウトというある種の“事件”を引き起こした作品でもある。そんな熱気が冷めないうちにということか、早速続編が制作され、令和元年の締めくくりとして上演されることとなった。前作から数年後の昭和初期、舞台は上海。怪盗ジゴマにはASSHの小栗諒。それを追う探偵三笠夢之介を前作に引き続いて服部武雄が演じて、更なる物語を進めていく。
――― 昨年の前作は凄い評判になりました。元々はフランスの怪盗小説なんですね。
松多「大正時代に輸入された活弁映画で大ヒットして、その後国産映画も作られてものすごく流行ったそうです。それを原案にして創作したのが『帝都探偵奇譚ジゴマ』です。もともと流行した『ジゴマ』は内容が過激すぎて、犯罪行為を真似する子供も居るなどの理由で映画の上映は中止されあっというまにブームが去り、消えてしまいました。そんなところにロマンを凄く感じました。そこでブームが去った後にジゴマを名乗る怪盗が現れたという流れで物語が始まります。
帝都で大暴れするジゴマと、それを追いかけている探偵・三笠がいて、更にそれを調べる新聞記者がいる。江戸川乱歩も実際に「ジゴマ」を観て影響されて作品を書いたという説もありますが、観ていたことは間違いないでしょう。そこにさらに関東大震災を絡めたのが前作です。小さい劇場だったこともあったけれど、おかげさまで一杯になって。なかなかエキサイティングな公演でした」
――― そんな好評を受けての第2弾ということですが、今度は舞台が海を越えた上海に飛びます。
松多「ジゴマは悪の中の悪なんですが、それに探偵三笠が心動かされそうになる、というところで前作は終わっています。ジゴマの闇を三笠が見て惹かれてしまうわけです。ジゴマというのは怪盗で悪人なんですが、不景気な大正期に戦争成金だけが潤う社会でジゴマは成金を殺していくものだから民衆からは支持を得ます。でも三笠探偵だけは「ジゴマは正義のために殺しを働く訳では無い、殺しが楽しいから殺しているんだ」ということを見抜くわけです。
ここで一歩闇の世界に足を踏み入れます。そしてジゴマは姿を消す。ここからが今回のストーリーです。ジゴマが消えて数年後、三笠は探偵として評判を上げていきますが、どうしてもジゴマに会いたいと思い続けている。するとジゴマが上海に居るということを聞きつけ追いかけていきます。さらに新しい探偵も登場して物語が更に転がっていきます」
――― 正義の代表でありながら悪に取り込まれそうになる探偵・三笠は服部さんが続投されますね。
服部「すでに前作でやっているので、ある程度の役作りはできていますが、物語の舞台も違うし、そこでどんな事件が起きのかるかも解りません。まあむしろそこも楽しみなところなんですけれど。相手役も小栗君に変わるので、どんな舞台になることか」
――― そうですね。ジゴマにはASSHのメンバーでもある小栗諒さんとなりましたが、どんなジゴマになりそうですか?
小栗「細かいイメージはできていませんが、前作を拝見しているし、自分が所属する団体だから稽古場にも度々遊びに行っていたので、インパクトのあるシーンは記憶しています。ジゴマを僕が演じる事で前回とは違う部分も作っていきたいですし、レベルアップを服部君と二人で見せていきたいと思います。実は彼とW主演は初めてなんですね。そういった部分も楽しみです」
服部「プライベートでも仲がいいですよ。でもこの舞台では敵対関係なので、どんな喧嘩をしようか考えてます」
――― そもそも続編の構想は最初からあったんですか?
松多「前作を書くのが凄く大変でした。時代物やアクションはいいけど、ミステリーだし大正時代はよく知らなかったので。でも納得いくモノにはなりました。そして終わった後の打ち上げで、服部君から「次回作を待ってますから」って言われたという(笑)」
服部「続きそうな終わり方だったし、なによりお客さんの評価が高かった。これを今回で終わらせるのは勿体ないし。せっかく続けられそうなエンディングでしたから、続けば良いなと思いました。でも1回目が好評な作品は2回目が凄くプレッシャーかかりますよね。それを乗り越えたいです。
小栗「僕の中でも前作を見て、続きがあるなら自分も出てみたいと思ってました。主役のジゴマもやりたいと思いましたし。前作とは違う新たな考えを持ったジゴマを作るためにあがきたいと思います」
――― なにより今回は劇場がスケールアップしてますね。
松多「前作でシアターKASSAIをパンパンに埋めたので、劇場をグレードアップしないといけないでしょう。本当はもっと大きくしたかったくらいです。もちろん劇場なりの仕掛は考えています」
服部「ワクワクしますよね」
――― 観客はさらにこの後も期待すると思います。
松多「三部作はやらなくてはいけないと思ってます。もう結末も決まっていますが、ともかく今は次の作品を頑張ります。もちろん前作を観ていなくても十分楽しめますから、安心してお越しください」
(取材・文&撮影:渡部晋也)