2019年、演劇界の様々な才能とコラボレーションした作品を発表してきた神保町花月で、この12月に上演される『詠み人知らず』は、“短歌”をテーマにSUGAR BOY主宰・川尻恵太が作・演出を務める作品だ。出演者には、川尻と親交の深いなだぎ武、宮下雄也をはじめ多彩なメンバーが集結する。
31文字に収まりきらない背景を感じさせるのが短歌の面白さ
――― キャッチコピーは『三十一文字で君に贈る僕の全て』。どんな作品になりそうですか?
川尻「まだはっきり言えることが少ないんですけど、短歌でコメディができないかな?っていうところから始まっていて。短歌が中心にあるストレートなコメディ、短歌群像劇になると思います」
――― そもそも、なぜ“短歌”なのでしょう?
川尻「去年かな、テレビで見た番組で又吉さんが短歌の本を紹介してたんですけど、まず、31文字って制限されてるのが面白いと思ったんですよね。大喜利をフリップの中に収まるように回答するみたいに、ピタッと収まるってことが面白いなあと」
なだぎ「確かに。ただ今回のキャスト、枠からはみ出した、収める気もないような、濃いな〜!って奴ばっかりですけどね」
川尻「本当に(笑)。タイトルは『詠み人知らず』なんですけど、昔から残ってる短歌にも、誰が詠んだか全く分からない、でも人の心を動かすなっていうのが結構あって。31文字しか残ってないのに、その31文字に収まりきらないものがあるというか。どんな人なんだろう、どんな人生を送ったんだろうとか」
なだぎ「背景ね」
川尻「はい。それって面白いなあと思ってて」
宮下「川尻さんから色々な短歌を見せてもらったんですけど、現代短歌って本当に面白いんですよ。例えば『鉄道で自殺するにも改札を通る切符の代金は要る』(山田航)とか。現代のちょっと風刺効いたようなのが色々あって、初めて意識したけど、面白いなと思いましたね」
川尻「31文字って言ってますけど、現代短歌はもう文字数関係ないやつとかもあるんですよ。自由律みたいな感じで、短歌って言っちゃえば何でもありなんですよね」
――― 古典のイメージが強いけど、現代短歌はそんなことになっているんですね。
宮下「僕がいいなと思ったのは、例えば佐々木あららさん。結構エロい短歌を詠む方なんですけど、そうでもないのだと『風呂のフタをあけた途端に思い出す宿題だとか記念日だとか』。谷川電話さんの『「お客様おひとりですか?」「ひとりですこの先ずっとそうかもしれない」』。鈴木晴香さんの『自転車の後ろに乗ってこの街の右側だけを知っていた夏』」
なだぎ「余韻がありますよね」
――― 31文字の外側に何があるのか気になるし、こんな短い時間で教えていただいただけでも、いろんなタイプの短歌があって面白いです。こうなると、キャストの皆さんがどんな短歌を詠むか俄然気になります。
川尻「ですよね。今回はせっかくこういうメンバーでやらせていただくので、皆で稽古場で集まって短歌を詠むところから始められたらと思ってます」
なだぎ「あんまり使わない脳味噌使いそうですよね。大喜利とも違うし」
宮下「その人のセンスが出るんでしょうね。あと、こいつ格好つけたなとか、きっとバレますよね」
川尻「多分隠しきれない何かが出てくると思います。恋してます、とか?」
――― たった31文字が、実は多くを語るより雄弁だったり。
川尻「そういう意味で、タイトルでもある“詠み人知らず”な短歌が一個落ちてた時に、誰が何を考えてこれを詠んだのか? ストーリーが進んでいくうちに、あいつが書いたっぽいな、とか見えてきたりして」
なだぎ・宮下「それ面白い!」
川尻「段々分かってくる。毎回、台本にはない、ここはみんなマジで短歌を詠むっていうところがあったり」
宮下「日替わり短歌!?」
なだぎ「岡田あがさがどんな短歌詠むのか全く想像がつかないよね(笑)」
一緒にやりたい人ばかりを集めた、個性派メンバー
――― 岡田さんもですが、なかなかバラエティに富んだ顔ぶれです。
川尻「メンバーは、僕ら3人がこの人呼びたいとか一緒にやりたいとかを出し合ってお願いしました」
宮下「僕はあがさちゃんと佐奈(宏紀)、あと(茜屋)日海夏ちゃんですね」
川尻「岡田あがささんはご結婚されましたからね」
なだぎ「いやー、まさかあいつが結婚するとはね。もう毎日酔っ払って高円寺フラフラしてるような女でしたから(笑)。SNS でも料理の写真とかをアップし出して、あれおかしいなっていうのはあったんですけど、そこに繋がったかっていう」
川尻「ビールがご飯って言ってましたからね」
なだぎ「あきちゃん(小野川晶)は、一度がっつりコメディーをやってみたいって前から言ってくれてたので、この機会にどうかなと。色々出来る子なんで」
宮下「僕は田上(真里奈)さんと一度やってみたかったので嬉しいですね。お芝居では何度も拝見してとても素敵な女優さんだなと思ってたので」
川尻「エネルギッシュな子ですよね、真面目で。道井(良樹)さんは、以前コントライブに作品を提供した時に参加されてて、居様がとにかく面白かったんですよね。ずっとふざけてる人っていう印象で、それが嫌味じゃない。大野(未来)さんは、この前『脳漿炸裂ガール』っていう脚本書いた時に出てらして、原作っていうかキャラクターだけがあるような感じだったんだけど、そこへのアジャストの仕方がめちゃめちゃハマってて、あー面白い人だなあって」
宮下「日海夏ちゃんはこの前、僕とフットボールアワー岩尾さんでコントライブをやった時に出てもらったら、率先してというかノリノリで、ラブホテルを舞台にした変態的なコントとかもバンバン笑い取ってて。俺が言うことじゃないけどコントセンスがあってすごいなと思いましたね。それに現役青学生ですから、頭もいいので短歌も楽しみだし」
なだぎ「佐奈くんは実家が金持ち。免許とった日にすぐ親にすごい車買ってもらったっていう」
宮下「BMWですね」
川尻「顔合わせの挨拶でも、お金はありますって毎回言ってますから」
なだぎ「嫌味のない、明るい憎めないやつなんで面白いですよね」
川尻「お芝居見にきても大体グッズ全部買ってってくれますからね、今回も安心して作れます」
なだぎ「多分、金の臭いのする短歌を詠むと思います(笑)」
――― 皆さんの短歌も舞台も楽しみです。
なだぎ「以前から川尻さんとは、がっつりコメディをやりたいね、と話していたし、それをこのメンバーでできるのが嬉しいですね。コメディうまい人ばっかりだと思うんで」
宮下「本当に楽しみですよね。俺は神保町花月で今年3本目になるんですけど、見やすいし、やりやすいし、ちょうどいいし、本当にいい劇場。ただ椅子がすごいご機嫌な色で、空いてる席がすぐ分かっちゃうので、空席がないくらい沢山の人に来て欲しいですね。あとはもう、楽しく舞台に立ちたいなと思います」
なだぎ「豪華なキャストと一緒に短歌という初めて挑戦するテーマのお芝居やらせていただくのは感慨深い感じです。一公演一公演楽しみたいなと思っております」
川尻「神保町は本の街でもありますから、そういう所である種こういう文学というか短歌を題材にやるってのは結構なチャレンジだとは思います。短歌好きな人はそんなの短歌じゃないとか、いろんな思い入れがある中で、この登場人物たちが短歌に対していろんな考え方があったりとか、思いを伝えようとしてたりとか、もしくは何か隠し事がばれちゃったりとか、何かそういういろんなことが31文字っていうこの限られた文字でもできるんだよ、っていうことが、何とか皆で表現できたらなと思います」
(取材・文:土屋美緒 撮影:友澤綾乃)