アレクサンドル・デュマの『三銃士』は大概の人がどこかですれ違っている物語だろう。そのほとんどが小学校の教室にあった少年少女文学全集や、アニメや人形劇による接点だとしても、これがダルタニアンとその仲間になった三銃士の物語であることや、今ではラグビー用語でもある「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」という有名なフレーズが出てくることはよく知られている。その三銃士が実はフランケンシュタイン、狼男、ドラキュラの3人だった、というのがアクションや殺陣を盛り込んだ舞台で人気のX-QUEST(エクスクエスト)の三“獣”士だ。
――― 三銃士のメンバーをモンスター界のトップ3に置き換えるとは、なかなか面白いことを思いついたものだ。その発想はどこから出て来たのだろう。主宰であり、全作品の作演出を担うトクナガヒデカツに聞いた。
トクナガ「この3人はここ数年それぞれが主役を張ってもらっているメンバーですが、数作品前にイギリスの暗黒な話をした時にこの(モンスター)役をやってもらったんです。今回はその時書き切れなかったことも含めて、もう少しクローズアップしてみようと思って書いたのがこの作品です。もっともフランケン、狼男、ドラキュラを一度に揃えるのは「怪物くん」と同じなので(笑)皆さんにも馴染み深いと思います」
――― この3人というのはX-QUESTの看板ともいえる高田淳、清水宗史、大野清志のこと。いったい誰がどのモンスターを、そして中心となるダルタニアンは誰が演じるのか。
トクナガ「高田がフランケンシュタイン。清水が狼男。大野がドラキュラを演じます。ダルタニアンは客演の楠世蓮さんに演ってもらいます。設定はデュマの三銃士から拝借していますが、物語はほぼオリジナルですね。田舎から出てきたダルタニアンが都会でいじめられる訳ですが、同じようにつまはじきにされている者達、つまりモンスターと出会うわけですね。でもフランケンシュタインはAIを搭載したアンドロイドであるとか、いろいろな設定を考えています。エンターテインメント作品なのですが、さりげなく少し社会派の要素も組み込んでいます。でもお客さんにスルーされることが多いですが(笑)」
――― それでは高田、清水、大野の3人はこの設定についてどう思っているのだろう。
高田「まあ以前やっている役ですからまったくゼロからのスタートではないし、もちろんトクナガさんも僕達向けにあて書きをしてきますから、どんなものかはある程度予測しています。だから与えられたものを自分なりに料理して出すといういつもの作業をするだけです(フランケンシュタインにAIが搭載されているという話を聞いて)まあ僕がAIっぽいので(笑)、それほど突飛な話では無いと思います」
清水「前回の狼男は実は犬だった、という落ちがつく役で……それ今回もいきるんですかね(笑)今回はとりあえず狼だと信じてやります」
大野「前回は人間とドラキュラの混血、ダンピールでしたが、今回は純血種らしいです。前半はコント風なミスリードが結構盛り込まれていて、後半に真剣な話になっていくらしいです。だから不老不死とか死にたいけど死ねないジレンマとか、おそらくそういった重めのテーマが盛り込まれると思います……多分ね(笑)」
トクナガ「死生観を達観しているドラキュラ、人類に代わって文明の進歩の主役になる、シンギュラリテイ的な予感を持ったフランケンシュタイン、そして獣としての狼男という人間を見つめる3つの視点を作りたかったんですね」
――― なるほど。人に非ざるものがそれぞれ違う視点から人間を見つめているというわけか。ところでその3つの視点との対抗軸としてダルタニアンが居る。今回は女性がその役に就くわけだが、モンスター達とダルタニアンとの恋模様も盛り込まれるのだろうか。
トクナガ「それがうちは恋愛ものって全く無いんです。以前恋愛の要素を盛り込んだ『愛だ』(2017)という『アイーダ』をモチーフにした作品はやりましたけど、それ以外は無いですね」
高田「無いですね。やらない方がいい(笑)」
大野「BL的なものはありましたけどね(笑)」
トクナガ「友情とか、人間的な繋がりを大事にしたいんです。三銃士には「ワン・フォー・オール、オール・フォー・ワン」というよく知られたフレーズがありますから、なにかしらのまとまりは欲しいですし、まとまるためにはその前に対立があることも必要かと思います。他の作品で主役を張る3人ですから、誰かが主役を張る時には他はサブに回る。それを順番にやっているんですが、今回は主役を別に立てて、3人がサブに回るわけです。これは作品の裏テーマですが、この3人がなんかわちゃわちゃやっているところを見てみたいんです(笑)。だから3人がコント的に立ち回る部分も出てくるでしょう。伝説の怪物コントを作ろうと思います」
高田「それは初耳ですね(笑)。トクナガさんの傾向として真面目なことや社会派なシーンほどコントっぽくなるんです。ストレートに叫ぶわけでは無く、笑いは盛り込んであるけど実は真剣な話をしているような。僕等も楽しいですから、そういったシーンは楽しみですね」
――― コントという意外な計画には驚かされるが、もちろん今回もキレのいい殺陣やアクションも期待していいようだ。
トクナガ「そこはいつも通り盛り込みますが、ウチの殺陣は数年前から竹光や木刀を使わず黒と銀のテープを貼った90センチの木の棒を使うんです。便利棒と呼んでいるんですが、この棒が剣になったりナイフになったりする。所作は日本刀なんですが、使っているのはただの棒。そういったところは非常に演劇的だと思います。やっていることはエンタテインメントなんですけどね」
――― これから稽古を通して徐々に立体化して行くであろうモンスター達。その肉付けをするこの3人とトクナガの意気込みを最後に聞いてみよう。
高田「おそらく前回とも違いますから、皆さんが未だ観たことがないフランケンシュタインを見てもらいたいですね」
清水「この3人にしかできない三獣士になりますから、そこを楽しみにして欲しいですね」
大野「観るというより体感してほしい。そんな作品に成るでしょう」
――― それを聞いていて気が付いたのだけど、今回この3人の役をシャッフルすることは考えなかったのだろうか。トクナガに聞いてみた。
トクナガ「考えなかったですね。なんでかな。きっと前回みんなが似合ってたというのがあるんじゃないですかね」
高田「しっくり来ていたんですよ。それは(笑)」
トクナガ「彼ら以外にも知っている人は知っているキャラクターがたくさん出てきます。その中でこの3人が繰り広げるわちゃわちゃを観てほしいですね。「わちゃわちゃ」っていい言葉でいうと何?」
清水「いい言葉じゃないですか」
トクナガ「ともかく思う存分に絡むこの3人をお楽しみに」