クリエイター・桜庭未那が中心となり、新感覚のイマーシブシアター(観客没入体験型演劇作品)を手がけてきたオラクルナイツが、浅草花やしきを舞台に、代表的コンテンツを集めたスペシャルイベントを実施する。
出演者が人気パーティーゲーム「人狼」を用い、人間vs人狼の戦いを即興で繰り広げる舞台『人狼 ザ・ライブプレイングシアター(TLPT)』。今回はその人狼TLPTをイギリス、エディンバラのfringe演劇祭で上演された英語版と、ルールは同じく学園を舞台に派生させた『EXAM』を再演する。また観客が俳優と共に役割を演じ物語を紡いでいく新感覚の体験型アトラクション『WAR→P!to クトゥルフ神話TRPG 救世之宴』も同時上演。これまで参加したファンは勿論、初参加者にも門戸が開かれた特別な12日間の幕が上がる。
「是非、新しい形の観劇体験をして欲しい」と呼びかけるクリエイターの桜庭、そしてプレイヤー兼演出家として公演に関わる池永英介に意気込みを聞いた。
お客様と役者が同じ世界に生きられるような芝居をやりたい
――― 海外で人気を集めるイマーシブシアター(観客没入体験型演劇作品)を日本でやってみたいと思われたきっかけを教えてください。
桜庭「もともと、小学生の頃に文化祭や学芸会で学校中にヒントを巻いて、聞き込みしながら犯人を捜すというミステリー芝居を考案していました。自分はゲームオタクで、海外ドラマも好きだったので、よくドラマに登場する遊び方を調べていましたが、特にインスパイアされたことはありません。逆に何かに似ているとやりたくなくなるので、まったく日本にない形の、お客様と役者とが同じ世界に生きられるような、観るだけじゃない芝居をやりたくて、人狼のゲームを使って、ライブプレイングをする舞台『人狼TLPT(The Live Playing Theater)』を約7年前にスタートしました。
TLPTとは実際に役者が実際にカードゲームをしながら、それをドラマにするという演目で、人狼以外のゲームでも可能です。そこから派生したシリーズがいくつかあって、一番スタンダードな『Village』という村を舞台にした作品や学園モノだったり、時代劇、ドラクエだったりします。
今回、再演する『EXAM』では“もし学校を舞台にした人狼ゲームをやるならば”という設定です。難関校への裏口入学が設定になっています。やるべきゲームの本質はどれも一緒ですが、その外側が違ってくる感じですね。ですので、今回のイベントでは『EXAM』、『人狼TLPT(英語版)』、『WAR→P!』という今回は2種類、3演目になります。『WAR→P!』はロールプレイング型の公演で、お客さんが空間を自由に歩き回って、役者とコミュニケーションをとることによって、ストーリーが進むというRPGをリアルにやる感覚ですね。それを浅草花やしきを舞台におこないます」
オラクルナイツはこんな事をやっていると伝えたい
――― 今回、その3つの代表的なコンテンツを1つのイベントにしたのには、何か意図があるのでしょうか?
桜庭「広い意味では、『WAR→P!』も役者がリアルタイムでプレイングをしているのでTLPTの一部です。人狼をベースにしたTLPT作品は7年間、『WAR→P!』は5年間やってきて、どちらの世界にも共通する鍵を置いてきたので、いつでもコラボレーション、リンクできるようにしていましたし、いつかは一緒にやりたいねと思っていて、それが今回たまたま出来るタイミングになりました。最終的には『ルナパレス』という、授業型演劇とリンクさせようと思っています。
それぞれの作品のファンもいますが、世界観そのものを気に入っているお客さんもいるので、もしまだ観た事ない作品があれば、オラクルコンテンツとはこういう感じだよという入門編にもなるので、今回は良い機会だと思います」
――― イギリス、エディンバラのfringe映画祭で上演された人狼TLPTの英語版も再演されます。
桜庭「現地では私たちの広告宣伝が不十分だったので、あまり事前に呼び込みをかけることができなかったのですが、観に来てくれたお客さんが大熱狂してくださって、日本とはまた違う演劇の楽しみ方をされているなと実感しました。もしかしたら浅草なら海外からいらしゃる方がきてくれるかもしれないので楽しみですね。でも英語ができなくても、人狼ができれば展開は理解できるので、是非こちらも興味を持って頂けると嬉しいです」
お客様の芝居心にはいつも驚かされる
――― プレイヤー兼演出家の立場から見るTLPTの醍醐味はありますか?
池永「舞台演劇ってお客さんが入って完成と言われるじゃないですか。オラクルのコンテンツこそ、お客様が入らなければ本当に完成型が見られません。今回の『WAR→P!』がまさにその最たるもので、主役となるお客様がいなければ、ストーリーが分岐しないことになります。
いくつものエンディングが用意されていますが、どのエンディングになるかは、お客様の行動次第になるので、お客様が入らないと成立しないんですよね。僕はそこに演劇の本質みたいなものを感じますし、何よりお客様ご自身が、役や世界観を深めたいという芝居心に何度も驚かされる経験をしています。『WAR→P!』はそこがメインなので、僕らが想像しないような設定を考えてくるお客様も結構いましたね。それがまた面白い。僕らもそういったアクションに即興で対応しないといけないので、鍛えられますし、何よりも現実とお芝居の世界の境界線が崩れていく瞬間をゼロ距離で体験できるのは、お客様にとっても僕らにとっても非常にスペシャルな時間です。そういう意味では、『WAR→P!』は“大人の『本気のごっこ遊び』”だと思っています」
桜庭「この前はお客さんが私達の衣装をずっと観察して、次回に完成度の高い手縫いで登場したことがありますからね。これは私たちもウカウカしていられませんよ。役者がお客さんに負けるわけにはいかないですからね(笑)」
池永「でもそうじゃない、カジュアルな感覚で来る方もいますので、そこは気軽な気持ちで参加をして欲しいです。仕事帰りにスーツ姿で参加される方もいるので。ただその世界を観に来る楽しみ方でもOKです! 私たちも初めて参加した方が分かるようにケアもしていますので、安心して参加してもらいたいです。公演時間は作品ごとに異なりますが、およそ100分〜2時間を予定しています」
心のハードルを下げてお越しください
――― これを心がけると楽しめるよというヒントはありますか?
池永「この記事を読んで頂いても、具体的に公演内容が掴めないと思います。一歩を踏み出すのはすごい勇気がいると思いますが、一回入ってみると、ハードルは全く設けられていないことはお分かり頂けると思うので、是非一回、気楽に体験しにいらして頂くのが一番良い方法だと思います。人狼TLPTでも、人狼ゲームを分かっていないと全然面白くないんじゃないかと思われますが、即興芝居としても楽しめる内容になっていますので、是非、心のハードルを下げてお越しください。
あとは是非、歩きやすい靴でお越しください」
桜庭「お芝居が好きな方なら、新しい形としての観劇体験になると思いますし、逆にお芝居って少し敷居が高いな、と思っている方には入りやすい内容になっています。観劇を機に、人狼ゲームをやってみようという方もいるので、より世界が広がると思います」
――― 最後に読者にメッセージをお願いします。
池永「今回はEXAMの出演とワープの脚本、演出を関わっています。どちらも再演ということが僕にとっては新しい体験です。特に以前熱海で上演した『WAR→P!』を東京に持ってくるというのは1つの目標でもありました。熱海で好評を得たものを東京のお客さんにどうやって受け入れてもらえるかは挑戦です。たくさん試行錯誤して挑むので、熱海に参加した方も、そうでない方も是非遊びにきてください」
桜庭「今までご覧になったかたもさらにいいものを届けたいですし、まだ私たちの様な少し変わった演劇に触れたことのない方に、おもった以上に演劇だというのを伝えたいです。お芝居好きな方にこそ一度はチャレンジして欲しい演目です。お芝居のもっと深い距離をゼロ距離で観ていただける時間になると思います。是非一度ご体験ください」
(取材・文&撮影:小笠原大介)