羽仁修が脚本、演出を務める演劇集団イヌッコロで2014年に上演され、外部公演でも再演された人気作がステージに戻ってくる。とある大物アーティストが薬物使用疑惑をかけられ、周囲を巻き込んだ大騒動へと発展していく。嘘とすれ違いがさらなる混沌を生むワンシチュエーションコメディーは、前作に続き演出を手がける佐野瑞樹が「リアリズムを追求することで笑いが生まれる」と今回も大爆笑必至。主演の星乃勇太と共に本作への意気込みを聞いた。
リアリズムを追求することによって生まれる笑い>
――― ワンシチュエーションコメディーにこだわった作品作りをされてきました。本作でも色んなところに笑いの時限爆弾が仕掛けられています。
佐野「僕は三谷幸喜さんのワンシチュエーションコメディーに魅せられて、それからずっと広げたいと思ってきました。やるほうは難しいですが、それだけの魅力があります。コメディアンでも笑いは取れますが、役者が役をしっかり演じ、リアリズムを求めることによって生まれる笑いだと思っています。しっかり演じれば笑いは自然と取れるので、無理がなく、役者冥利につきる作品というところが、他団体からも支持を受けているのかなと思います。
僕は役者にどこが面白くなるかというポイントをしっかり提示するこが仕事だと思っています。星乃はすごく考えてくる役者なのですごくこの作品には合っていると思います。ワンシチュエーションコメディーは理解力が求められるので、彼の様に何が必要かを想像して、客観的に見られる役者が必要です」
星乃「とても嬉しいです。去年ご一緒させてもらって、佐野さんとお仕事をさせてもらうと、考え方や仕事に対する姿勢を再確認させて頂けるので、1回でも多く仕事をさせてもらいたいと思っています。コメディーはやらせてもらっていますが、毎回毎回、試行錯誤のしがいがありますね。決して1人ではできないので、みんなが共通認識を持っていないといけないのが難しさであり、やりがいでもありますね。全員でより良いものを舞台に出していこうと思っています」
――― こういうシチュエーションに巻き込まれる経験はありますか?
星乃「こういう仕事をしていると、実生活での失敗もいつか芝居に使えるという経験はありますね。ここまでの壮大な修羅場は無いですけども(笑)。今回は大物俳優に間違われてしまう役なので、その焦りをどう笑ってもらえるかが勝負になります。僕は性格的には臆病なので、そこは生かせると思います」
佐野「確かに雰囲気的にも巻き込まれそう感あるよね(笑)」
星乃「そうなんです。あーどうしよう!どうしよう!と焦る様子を素で出せると思うので敢えてこうしようとか、その辺はわりとナチュラルにできると思います」
稽古は集中して最短距離で
――― 笑いのアイデアは時間をかけて練られるのですか?
佐野「僕は結構、最短距離で行っちゃいます。だから稽古を止めちゃうことも嫌い。まずぱっと作ってみる。これが正解じゃないかを一旦作ってみます。それでお客さんが笑えば正解だし、そうでなければ不正解。そこに向かって真っ直ぐ向かいます。だから稽古時間も短い。だいたい1日、4時間〜5時間くらいです。結構、驚かれます。でも本気で皆が集中すれば4時間でもへとへとになりますよ。長くだらだらやって次の日に疲労が残っていると負の連鎖になってしまう。だから初日に向かって計画的に稽古していきたいです」
星乃「確かに稽古場では自分のことはできないですよね。次々とシーンはやってくるので。だから家に持ち帰ってちゃんと整理をする時間を頂けるのはありがたいです。演劇では泣かせるより笑わせるほうが難しいので、しっかり準備したいです」
佐野「僕は公演が始まると、ほとんど観にいくことはありませんし、手を入れることもありません。役者が客席の反応を持ち帰って、より良いものにブラッシュアップしていくことが大事なのかなと。それが役者が伸びていくことに必要な事だと思っています。僕としては初日にベストな体制に持っていきますから、あとはその上に役者がいかにプラスアルファをもたらすかだと思っています」
ハマる人はハマります!一度体験してもらいたい
――― 皆さんの笑いにかける熱意が伝わってきました。最後に読者にメッセージをお願いします。
佐野「ワンシチュエーションコメディーは単純にお客さんを笑わせるために、作られた作品です。場面転換もなく、これだけでどうやって話を広げていくのかが、こちらの腕の見せ所です。特別な人生哲学やメッセージは含まれていませんので、楽な気持ちで観に来てもらう作品です。90分間という上演時間はちょうどいいし、最近、この類の作品はすごく上演が少ないので是非体験してもらいたいですね。好きな人は絶対にはまります。演じる役者もはまるぐらいですから」
星乃「沢山笑って、日々のストレスを発散してリフレッシュして帰って頂けるような舞台にしますので、是非気軽に遊びに来てください!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)