ひたむきに演劇に立ち向かう熱い演劇バカ集団「ゲキバカ」の最新作は、ゲキバカの名作『密八』に登場したキャラクター・ベンタローを主人公に、なぜかタイムスリップしてしまい闘いに巻き込まれていく姿を描く。果たしてベンタローは生き残って受験に合格することができるのか!? 作品を代表して脚本・演出の柿ノ木タケヲと団員の菊池祐太に話を聞いた。
共通項の言葉やイメージが10年の間にできている
――― ゲキバカとしての活動が始まってから約10年、どんな10年でしたか?
柿ノ木「個人でも活動している子が多かったり、公演のペースが一年に一回なのでマイペースにやってきたと思います。でも2020年については頑張って何回か活動ができたらなあと思っております」
菊池「転ぶんだったら前に転びましょうと、振り返るよりゲキバカとして動けることを増やしていこうと、色々な挑戦ができたらと思っております」
――― ゲキバカではいつもどのように稽古がはじまるのですか?
柿ノ木「その時によって違いますが、多いパターンが稽古初日におおよそのモノを渡しつつ、稽古中に徐々に台本が渡っていく感じですね。仮で書いて稽古場で俳優さんに読んでもらって完成していくので、どちらかというと俳優さんに忠実にやって欲しいというより、僕の方が後から稽古を見て書き直すパターンが多いですね」
菊池「まだ劇団員になる前、読み合わせの後にカッキーさんから『全員、好きな歌を唄ってくれ、その歌を使った芝居をしてくれ』 と言われて。僕はMONGOL800さんの『小さな恋の歌』が好きでそれを即興劇でやって、でもそれは反映されたのかな(笑)」
柿ノ木「僕はつかこうへいさんが好きで、演出家が口建てで芝居を作るのでその影響が大きいと思います」
※「口建て」完全な脚本がなく、おおよその筋だけ立てておき、俳優どうしが口頭の打ち合わせで芝居をまとめていくこと
――― その人に寄り添った役や作品作りですね。
菊池「そうでした。『ニトロ』(2012年作品)では一ページ目、全部ト書きだったんです」
柿ノ木「ト書きは多いですね(笑)それは劇団の良さかなって思っていまして。共通項の言葉やイメージが10年の間にできているので」
――― この10年で変わったこと、変わらないことは?
柿ノ木「ウチはあまり劇団メンバーが変わらなくて、もちろん若干の入れ替わりはありますが菊池くんは何年?」
菊池「僕は来年で7年目ですね」
柿ノ木「前の劇団も含めると20年以上やっているメンバーが4人いますね。この4人がいるから続けていける部分もあります。それこそ昔はもう辞めますとか色々ありましたが、でもそう言った奴の方が残っているんですよね、面白いものだなって思います」
みんながいろんな役を演じる
――― ベンタローは家族と暮らしている。高校受験に失敗した肩身の狭い浪人生。今年も嫌なシーズンが迫ってきた。ある日、苦手科目の歴史の勉強をしていたベンタローはなぜか時空を越えて過去の戦に巻き込まれる。果たして、ベンタローは生き残れるのか?受験に合格することが出来るのか? ゲキバカが送る戦記物語。
柿ノ木「2008年に源平合戦を題材にした芝居『密八』を上演したことがありまして、そこに出てくるキャラクターでベンタロウという浪人生がいまして、久しぶりですがその人に今回出てもらおうかなと」
――― どの時代が舞台になるのでしょうか?
柿ノ木「今回は色んな時代に行こうかと思っています。団員が6人で客演の女性が3人の出演者が9人になります。もともと6人で何が面白いだろうと思った時に、中国の小説で『水滸伝』があり登場人物が108人いまして、6人で108人を演じてみたらどうかと。それをきっかけに時代物でみんながいろんな役を演じるという部分を軸に考えているところです。演じる方は大変になると思います。そんなことから女性陣は体力のある方をお呼びしました。
初めは男性のみで書く予定でしたが、劇団員とミーティングをしていたら『女性がいた方が書きやすいですよね』と言われまして、確かにと。劇団員の方が僕のことを知っていて(笑)小さめの劇場ですけどだからこそゲキバカらしさが出せる作品になると思っています」
菊池「色んなところへ行って色んな経験をする異世界ものですね」
柿ノ木「ベンタローは鈴木ハルニが演じますが、色々考えているところです」
――― では菊池さんの役どころは?
柿ノ木「まだ確定はしていませんが、たくさんの役をやると思います(笑)」
――― 役どころなどリクエストはできるのですか?
柿ノ木「候補を俳優さんに相談することはありますね。ガッチリ台本を書くことはありますが、ゲキバカをやっている時は頭の中でキャラクターがセリフを作ってくれて、また妄想していたり。だから稽古中にセリフをカットしちゃって台本を新しく書き直すこともザラにあります」
菊池「以前のことですが、ゴソッと本が変わって読んだら僕が主人公になっていたことがありました。ゲキバカは言葉でやるよりも演じてプレゼンしていくことが多いですね」
柿ノ木「そうですね、エチュードというか台本があっても彼らはこうありたいとかブッコんで来るんです。基本的にウチのメンバーはお客様を楽しませるってことに長けている人が多いので、ギャグシーンなどは任せているところはありますね。ト書きに“お客様が沸く”って書いていて、出演者の皆さんもそんな台本が面白いかなって(笑)」
菊池「『NBL大作戦』という作品があったんですけど、もともと2時間半くらいでしたが千秋楽ではト書きの部分が伸びに伸びて3時間超えたんです。舞台監督が袖でチラチラと(笑)大変でした」
柿ノ木「その時は珍しく僕も役者として舞台に出ていて面白くてしかたなくて楽しんじゃいました(笑)」
菊池「収拾がつかなくって修正しようとする役者と知らないふりをする役者がせめぎ合うという」
柿ノ木「でもどれだけ好き勝手やっても本筋は外れないからね。ウチは完全なアドリブはほぼ無くて、大袈裟に言うと色々稽古でやりつくしていて、その中から本番中にチョイスするんです」
――― 菊池さんは修正する方ですか?
菊池「はい、修正する方です。変な言い方ですが先輩方がお芝居の変態みたいな人たちばかりなので(笑)」
≪劇団の原点でもあり僕の原点にも戻れる作品になりそうです≫
――― 今回もみなさんが暴れそうですが、見どころは?
柿ノ木「今回は小さめの劇場で上演するにあたり、ゲキバカManiacsとタイトルをつけていまして、稽古場で時間を取って濃く作りこんでいこうかなと考えています。何度が男性だけの小人数で密度がある小さめの空間でやる芝居はありましたが、今回は男子にも負けない女性をお呼びしたので、僕としては化学反応といいますか、ウチの手練れたちと女性陣がどうバチバチ闘うのかが僕の楽しみであり、お客様も楽しんでいただけるのではないかなと思っています。おそらく熱いアクションシーンは見どころでゲキバカ史上、最高の汗量になると思います。あと新人の豆鞘俊平を是非観ていただきたいです、カッコイイです」
菊池「ゲキバカは年齢層が高いですが、去年フレッシュでカッコイイ新人が2人増えました」
柿ノ木「熟練の演技も観られますし、フレッシュな元気さもあり見どころはたくさんあると思います。僕自身がとても楽しみにしています」
菊池「プロデューサーをやるようになってから、作品をどう宣伝したらいいのか考えるようになりました。去年、ボンボンでやった時に地声をはらずに届く空間で芝居をすることの魅力とやる意味をすごく感じまして。広い劇場で整った作品もいいけどゲキバカの良さって名前の通りで、本当に芝居に対してバカな人達ばかりなので、そのエネルギーを誇張せずに届ける空間でやれるということはすごく意義のあることだと。今後のゲキバカの活動を踏まえて役者以外の目線でも楽しめる公演だと思っています」
柿ノ木「10年経ちターニングポイントではないですが制作面とか変えている部分もあります。ウチは面白い劇団で団員の意思がバラバラなんです。動員したいという人もいれば、マニアックにやりたい人もいて曖昧にしてきたんですが、去年くらいから彼(菊池)と主に話して、欲が無かったけどあらためて劇団を大きくしていきたいねと。
僕が初めて小劇場を観たのが二十歳の時で、つかさんの『熱海殺人事件』に友達が出ていたのでそれこそ冷やかしで最前列に座ったらすごく熱くてツバとか飛んでくるんですよね。人はこんなに何かができるんだとすごく感動して、その日のうちに誘われて劇団に入ったんですけど(笑)その時から汗は好きでして、劇団の原点でもあり僕の原点にも戻れる作品になりそうです」
――― 最後にメッセージをお願いします。
菊池「ゲキバカが初めての方も安心していらしてください、ぜひ手ぶらで何も考えずに観て楽しんでもらえたら」
柿ノ木「むしろ初めて舞台を観るという方にオススメしたいです。うちのお芝居はとても観やすいと思います。劇団のコンセプトは、観に来てくれた人を元気にすることを一番のテーマでやっています。次の日に元気いっぱいになれるようなお芝居を今回も作りたいと思っています」
菊池「何でも数値化できる時代に、わざわざ数値化できないものを10年かけてやっている意味を作りながら感じています。今後のゲキバカにぜひ注目していただきたいです。面白い作品になると胸を張って言えます!ご期待ください」
(取材・文&撮影:谷中理音)