勝又悠のオリジナル脚本により、この春上演を迎えるものづくり計画の舞台『苺と泡沫と二人のスーベニア』。“メンヘラポップ”を作品のテーマに、20代女子の不毛な恋をリアルにキュートに描き出す。
本作の主要キャラクターを演じる花井円香、柳はる、スー・プリンシアと、脚本/演出を手がける勝又悠に、作品への想いと意気込みを聞いた。
――― 勝又悠さんのオリジナル脚本による舞台『苺と泡沫と二人のスーベニア』。作品のテーマをお聞かせください。
勝又「テーマは“メンヘラポップ”。20代の女の子たちの不毛な恋に焦点を当てた恋愛劇です。若い女の子たちの間では、不毛な恋って結構身近な話なんじゃないかと思っていて。不毛な恋をしている人って、当人は不毛だとは思っていないんですよね。端から見ると報われることがない恋でも、絶対に幸せになれると信じてる。そのギャップが面白いなと思って題材に選びました。」
花井「私自身ずっと片思いをしているので、不毛な恋って確かに身近かもしれません。片思いをしている間って、不毛だけど幸せなんですよね。“こうなるんじゃないかな”って淡い期待を抱いているときってすごく楽しいし、叶わないとどん底に落ちはするけど、それはそれで振り返るといい思い出になる気がします(笑)」
柳「私自身は経験がないけれど、周りに難しい恋をしている人はたくさんいます。彼女たちの話を聞いていると、大変そうだなって思うけど……」
スー・プリンシア「自分にとって不毛な恋はちょっと未知な世界です。だから今回のテーマはすごく難しいなって感じています」
――― 作品のテーマが“メンヘラポップ”ということで、キャストは“メンヘラ的であること”という基準で選ばれたそうですね。
勝又「メンヘラとポップって両極のようでありながら、実はそれほど遠くない気がしていて。メンヘラの子って、実際に会うとめちゃくちゃ明るかったりするんです。世間が病的なイメージを与えているだけで、実はすごく健全だし、そのギャップがまた面白いところですよね」
花井「メンヘラで選ばれたと聞いたときはちょっとショックでしたね(笑)。ビジュアル撮影のとき、カメラマンさんからしきりと“メンヘラっぽく”と言われて。どういうのがメンヘラっぽいのかよくわからなかったけど、とりあえずいろんな表情を作って撮影に臨みました」
柳「私はカメラマンさんに“メンヘラっぽいね。そのままでいいよ”と言われました(笑)。そう言われることは結構あります。自分ではメンヘラだとは考えていなかったけれど、あまりにも言われるので、最近は“そうなのかな”って思うようになりました(笑)」
スー・プリンシア「私は“真顔に闇を感じる。笑わないとよりメンヘラっぽい”と言われました(笑)。私自身、メンヘラなんだろうなって自覚はあります。というのも一日のうち三時間くらい必ず病む時間があって、“自分とは何なんだろう?”って毎日悩んでいるんです(笑)」
――― 20代女子の不毛な恋愛を描くにあたり、こだわった部分とは?
勝又「今回に限らず、脚本を書くときは徹底的に取材をします。例えば以前パパ活をしてる女子を題材にしたときは実際にそういう子たちに取材をしたし、パチンコ屋が舞台のときは実際にバイトをしたこともありました。だからすごく労力もいるし時間もかかります。今回の場合は昨年の秋から取材を始めて、とにかく恋愛中の女の子たちに会って恋の話を聞きまくりました。
あと、台本は基本的にあて書きです。今回は初めましてのキャストが多かったので、まず人となりを見極める時間が必要でした。そのために顔合わせのときみなさんの演技をひと通り見せてもらい、そこでそれぞれのキャラクターをつかんでいった感じです」
花井「台本を何パターンか渡されて、そこから好きなシチュエーションを選んで演じていきました。勝又さんは“やりたいようにやっていいよ”と言ってくれたりと、すごく寄り添ってくれた感覚があって、一気に信頼感が高まった気がします。
勝又さんの書く台詞は奥が深くて、その裏にある部分を自分自身で探していかないといけないし、考えることがすごく多くて。勝又さんが女の子たちをどう描いていくのかわくわくもあり、それを自分自身がどこまで表現できるのかという不安も少し感じています」
柳「私が演じたのは、友達に対するひがみなどネガティブな感情を爆発させる怒りのシーン。実際にそういう経験はないけれど、自分自身ネガティブなので共感できる気がしたし、そこでまた“私って人に対してこう思っているんだな”という新鮮な感覚がありました」
スー・プリンシア「私は男の人と一対一で演技をするシーンを演じました。だけど男性と一対一で話をするのは苦手なので、どういう感情で演じていいかわからず、どうしようという気持ちでいっぱいで……。そのとき勝又さんに“自分の演技だけではなくて相手の台詞もきちんと聞くようにするといいよ”と言われて、ちょっとヒントをもらえた気がしました。
男と女の感情ってあまりよくわからないけど、そういう部分を今回の舞台で磨いていけたらいいなって思っています」
――― 勝又さんから見た20代女子の印象とは?
勝又「向上心があってすごく仕事がしやすい反面、自分が歳を取るにつれ、感覚にズレが生じないようにしなければといつも気をつけています。ただ、彼女たちに対してギャップを感じることはあまりないですね。
結局のところ、人の心って年齢も性別もあまり変わらない。でもそこで“自分の方が年上なんだから”なんて勝手に壁を作ると失敗することになる。僕は女の子に対しては常に後輩のつもりでいます。絶対に敵わないと思ってるから、いつも白旗を上げてます(笑)」
花井「私は勝又さんと最初にお会いしたとき、すごく怖そうな方だなと思いましたけど(笑)。ただ顔合わせでお芝居を指導してくださったときから、実はそうじゃないんだなって思うようになりました」
柳「私も最初は怖かったです(笑)。でも勝又さんは演技の指導もすごくわかりやすくて、実は優しい方なんだなって思います」
――― 勝又さんから、主要キャラクターを演じる彼女たちに期待すること、伝えたいことはありますか?
勝又「みんなにはぜひ男の心理を知ってもらえたらと思います。百聞は一見にしかずで、男の心理を知るためには、話をするなり会って取材をするといい。男を手のひらで踊らせる魅力があれば、きっとなんでも上手くいくはず。
ただ、それを使うか使わないかは自分次第。男を手のひらで踊らせることが出来るのって女性の特権だから、羨ましいとも思います。踊らされている空虚な時間というのは僕の中で実はとても美しくて、やけに儚くて、あえて自ら飛び込んで“ああ踊らされてるな”って思ったりもする。そんな魅力溢れるキャラクターを一緒に仕上げていきたいですね。みなさんも僕が思わず手のひらで踊りたくなるような女性になってくれたらいいですよね」
柳「昨年までアイドルをしていて恋愛禁止だったので、ファン以外の男の人と喋ることってこれまであまり経験がなくて。恋愛に関してはわからないことが多いので、私も聞き込み調査をたくさんしなければいけないですね(笑)」
スー・プリンシア「私は現役アイドルなので恋愛は禁止なんです。だからファンとアイドルという関係ではない男の人というのがどういう感じかわからないし、今回は知らない分野へのチャレンジであり、すべてが初体験という感じです」
――― 最後に、メッセージを御願いします。
花井「登場人物それぞれの人生が詰まった作品になっているので、舞台を観た方がそれぞれ共感できるキャラクターを見つけてもらえると思います。ぜひ楽しみにしてもらえたら嬉しいです」
柳「アイドルを辞めて初めて挑戦する舞台で、私自身純粋に楽しみにしています。メンヘラな部分も含めて自分にとって身近なテーマであり、女の子のリアルな気持ちをお伝えできればと思っています」
スー・プリンシア「アイドルと恋愛って一番ダメな組み合わせで、すごく難しくはあるけれど、舞台だからこそ表現できることだとも思っています。アイドルのキレイな部分だけではなく、自分自身のダメな部分もさらけ出せるよう頑張りたいと思います」
勝又「恋愛を一生懸命やってる人って、第三者から見るとめちゃくちゃ滑稽だし面白いんですよね。僕が描きたいのは、その一生懸命と滑稽の紙一重感。お客さんの心をえぐって炙り、そして最後は楽しませる。そんな作品を目指したいと思います」
(取材・文:小野寺悦子 撮影:安藤史紘)