高校の演劇部で出会った現座長の大熊隆太郎と竹村晋太朗が中心となり2008年から大阪を拠点に活動を開始した劇団壱劇屋は、大熊が得意とするパントマイム、そして竹村が得意とする殺陣をメインに採り入れ、台詞が少ない、もしくは台詞を廃した “ノンバーバル”な舞台を創り上げるユニークな劇団だ。最近では東京にも拠点を置いて、更に活動の幅を広げようという彼らが、その第一弾として昨年“東阪二都市ツアー”を行った『Pickaroon!』を再演する。それまで続けてきた台詞を廃した「wordless × 殺陣芝居」から一歩進めて、台詞を採り入れた新機軸。リーダーであり作演出、そして殺陣を担当する竹村に話を聞いた。
――― 台詞がない、いわゆる“ノンバーバル”な作風が特徴の壱劇屋ですが、今回は台詞が入るんですね。
「僕は自分で作・演出を始めてから、ずっと台詞ががなく殺陣を中心にお芝居を組み立てていたんですが、この『Pickaroon!』では台詞を入れてみよう、となりました。旗揚げに関わったもう一人の大熊も、マイムを多用する舞台を創ります。彼は京都でロングランをしているノンバーバル舞台「ギア」のマイムパートをやっています。二人ともノンバーバルな作品に関わってます。
――― その大熊さんとは高校の演劇部で出会われたとか。
「大熊は高校の同級生です。やっていたのは普通の高校演劇でマイムやアクションはありませんでした。興味はあったのですが、採り入れるまでに行かなかったんです。それで全国大会に出られることになった時、劇団にしようと話したんです。それが壱劇屋です。最初の頃は座長兼作演出が別にいたんですが、彼が抜けてからマイム、アクション指向が加速した感じですね。大熊は劇団の運営をしながらマイムの勉強をしましたが、僕は理論的に教えてもらって理解をしたいタイプなので、しっかり学ばないと身につかないと思って、1年間劇団の活動を休んでJACに居りました。武者修行みたいなものですね(笑)」
――― そして竹村さんが作・演出する「wordless × 殺陣芝居」が生まれ、さらに台詞が加わる『Pickaroon!』へ繋がる訳ですね。もう一つ、東京進出というトピックスもありますね。
「これも昨年正式に発表しました。劇団員の数名は住まいも移しています。旗揚げの頃から宝塚歌劇団みたいになりたいねと話していたんです。つまり演出家が数人居て、幾つもチームがあり、それが各地方で公演するというような。まあとりあえずベースは大阪で、次に東京支部という段階です。この流れはお客さんの数も考えれば当然だと思いますし、東京に若干の憧れもあります。だんだん活動がおおきくなって、メンバーの中には「東京を目指す」という俗っぽい理由も出てきていると思います。でも「東京」出なくてはいけないとは思ってません。これまでも東名阪ツアーなどで東京公演はしていたのですが、やはり公演の頻度が少ないとなかなか憶えてもらえない。公演頻度を上げたいというのも東京支部を作った理由です」
――― 今回の作品『Pickaroon!』。このタイトルにはどんな意味があるんですか?
「もともと造語で「悪党め!」といった呼びかけ言葉なんです。響きの面白さもありますが、物語の中心となる7人が全て悪党ということでもあります。7人の中で誰かが主人公というわけでもないのですが、キーパーソンとなる女の子をを中心にした疑似家族のような繋がりも持ってます。それに悪党だとはいっても、そうなるまでの物語やポリシー、志を持っている。そんなキャラクターなんです」
――― もちろん殺陣は見どころの一つだと思いますが、壱劇屋ならではの「人間CG」というのがあるそうですね。
「僕は“人が演じる”という事そのものが好きなので、極力映像効果にはに頼りたくないないんです。爆発や炎、水の動きなど普通なら映像で処理してしまうところをアナログに人が表現するんです。ある意味では映画の対極にいたいですね。映画も大好きなんですが、劇団の作品では人間がその場で泥臭く演じるのが好きです。殺陣でも同じで、自分自身が中心で格好良く殺陣を決めるタイプではなく、周りで絡むタイプだと思うんです。だからこそしっかり理屈が解っていないとできないんですね。また後輩に教える時にも何となくではダメだと思うんです。素振り一つにしてもその理由が知りたいくらいです。だからなぜそこに居るのか、が大事だと思います。その結果として耽美な殺陣ではなく、泥臭い殺陣になっていきます」
――― そして今回は東京公演のみですね。大阪とは観客の反応もだいぶ違いますか?
「ツアーの東京公演では、初日が開いたところで集客に苦戦しました。ところがその後の口コミが回る速度がすごく速くて、当日券の売れ方が大阪とは違いました。それも作品への評価のお陰だと思います」
――― 劇場の規模も大きくなりますね。
「最近、劇団という形が減っているとよく思います。みんなプロデュース、ユニット、事務所公演になってますよね。だからこそ自分たちは劇団という単位で闘っていきたいです。ひとつの公演に全員で向かうというのが劇団だと思いますし、そうしてこれまで大阪でやってきたことの上乗せなので、劇場規模が大きくなっても怖くはないです。さらに僕達はスターがいる劇団ではなくて、全員が一気に攻め込んでいく。それを続けていきたいと思います」
――― そういった考えは何かに影響されていますか?
「僕は高校まで演劇を知らなかったんです。学校の鑑賞会で観てもピンとこなかった。それが劇団☆新感線を生で見た時に衝撃が走って、それで惹き込まれました。リアルタイムに観ることができる作品だけでなく「ヒデマロシリーズ」とか小劇場ブームといわれた時代まで映像で遡って観まくりました。惑星ピスタチオの末満(健一)さんから昔の話を聞いたり、そとばこまちの皆さんとか維新派は大熊の方が繋がりがあります。だからそういった先輩達の影響は大いに受けているでしょうね」
――― 大阪発の劇団は演劇シーンに一つの風を呼び込みましたからね。壱劇屋さんも更に新たな風を送り込んでくれると思って、楽しみにしています。
(取材・文&撮影:渡部晋也)