劇団6番シード、バンタムクラスステージ、Bobjack theater、ENGの人気4団体が初のコラボ公演!脚本・演出だけでなく、総勢50人を超える役者が団体の垣根を越えて競演する光景は舞台ファンならずとも必見の試みだ。「あの演目をこの人が演出!?」「え!あの役者が揃うの?」と早くもSNS上で注目を集める一大プロジェクト。松本陽一、細川博司、扇田賢、佐藤修幸4氏を招いたインタビューは、ボクシング用語で『試合を通じて互いが互いを高めあう』という言葉通り、熱を帯びた言葉の応酬になった。
拳を通じて本気で会話をする感覚
――― 個性的な4団体が初の合同プロデュース公演に至った経緯とは?
扇田「発端は6番シードさんのトークショーで4人がゲストに呼ばれて、後日飲みに行ったんですよ。その時に折角なので皆で何かやりません?と僕がノリで言ったらその日のうちに是非是非!と動き出したというのが発端です。その1年後にお試しという感じで合同ワークショップを開いて、そこから公演に向けて始動していった感じです。なんだかんだで実現まで1年半ほどかかりましたけど」
細川「うち(バンタムクラスステージ)と6番シードさんは合同公演をやったことがあって、それが2団体から4団体に増えたという感じですね。僕は6番シードさんの役者さんと一通りお仕事させてもらって互いのテイストも分かっているつもりですが、作風は全然違うのでそこが面白いですよね。UDA☆MAPさんの最新作『KAIRO』も僕の本で松本さんが演出をしてもらっていて、個々にやったときとはまた違うテイストが出ている気がします」
松本「それがコラボ公演の面白いところですね。例えばボブジャックさんの守山カオリさんの脚本をやるのは初めてですが、それがどんな風に変化するのか。色んな演出家が互いの団体の作品を演出しあったり、キャストを入れ替えたり、という文化祭みたいな感覚で。絶対に面白いだろうという気しかしないです」
細川「今回は再演と書き下ろしが混じっていますが、僕個人はうっかり3本とも書き下ろしになってしまいました(笑)」
松本「基本皆さん、書き下ろしで再演は『バスケットダイアリーズ』ですよ。皆、ほぼ新作です」
佐藤「僕は今回プロデューサーとして参加しているので、うち(DMF)の福地慎太郎君を演出として入れています。福地君にとってもこの先輩方と一緒に出来るのはすごく刺激になるし良い機会だと思っています」
松本「4団体それぞれ色は違いますよね。うちはハイスピードコメディー、ボブジャックさんはどちらかというと人情物。バンタムさんはハードボイルド系。そしてENGさんはファンタジーという感じでしょうか」
扇田「ガールズ演劇の『アリスインプロジェクト』で我々も演出をしていて、そこから繋がった感じですよね。その生き残りというか(笑)僕的にはこのつながりのきっかけを作ったのは6番シードさんだと思いますけどね。元々、松本さんの脚本で僕が演出をするという企画があってから交流が始まったので。なんだかんだ6番シードさんが色んなところと交流をしていく上で最終的にこの形になったと思います。いわば盟主ですよ」
細川 「確かに。頭上がりませんものね(笑)僕も大阪から出てきて最初に交流したもの6番シードさんでしたが、それが超ラッキーでした」
松本 「僕は単純にお祭りみたいなのが好きなんですよ。今回の佐藤さんがつけたタイトルの『MIX UP!!』がすごく気に入っていて、ボクシング用語で試合を通じてお互いを高めあうという」
佐藤「そうです。脚本や演出家、キャストをシャッフルした4つのグループが、2〜3作品を上演するのですが、TEAMウェルター、ミドル、クルーザー、ヘビーとボクシングにちなんだ名称にしました」
松本「内輪ノリで仲良い同士がコラボするよりは、拳を通じて本気で会話するような感覚がいいですよね。脚本も演出も役者もガチンコで板の上でやりあうのをお客さんに観てもらうというのがカッコいいしい面白いなと」
細川「でも皆の内心はどの演目が一番人気あるか絶対気にしています!」(一同笑)
扇田「でもまあ、最終的な目的として演劇界が盛り上がればいいなというのが根本にあるので。それがうまく『MIX UP!!』すればいいかなと」
佐藤「色んな団体でやると、日本人っぽく譲り合うのが嫌いで、それぞれのいいところを本気で出し合ってもらいたいです。喧嘩まつりという感覚でぶつかり合ってくれたら、最終的には何かが起こるんじゃないかと思っています」
――― 6番シードさんの『天気と戦わない男』など、人気作のスピンオフも演目リストに入っています。
松本「これには面白いエピソードがあって、細川さんが驚異の雨男で、雨男が主人公の物語を作って欲しいとお願いされたんですよ」
細川「うちとの合同公演で6番シードさんの人気作『天気と戦う女』を演出したことがあって、その時に自分が演出した中でもかつてない反響を頂いたんです。自分の本でもこんな良い拍手もらったことないなというぐらい。もうそれが忘れられなくて、松本さんにスピンオフをお願いしますと(笑)」
松本「他にも僕が書いた『バスケットボールダイアリーズ』は絶対に扇田さんに演出してもらったら面白いと思ってお願いしました」
扇田「うわ! すげープレッシャーだ(笑)。うちの脚本家の守山があまり外部に脚本を出さないので、今回は『ビューティフルサンデー』を細川さん、『唯一度だけ』を松本さんがそれぞれ、どんな風に演出をしてくれるか今からとても楽しみです」
細川「僕は3本書き下ろすのですが、それぞれが連作になっています。変装の名人の殺し屋を皆で追いかけまわすというストーリーですが、1本ずつ見ても分かる展開にはなっています」
劇団の色が分かるキャスティング
―――4団体の個性的な役者さんが入り混じる光景はなかなか壮観ですね。
細川「現在だけでも52人が出演するようです。顔合わせの時の椅子は足りますかね?もう体育館でやるしかないね(笑)」
扇田「6番シードさんに椎名あのんさんという女優さんがいますが、毎回すれ違いがあったので、今回念願叶ってやっとご一緒できるのかなと思ったら、今回も別組という……(笑)。それでも初めましての方が沢山いらっしゃるので楽しみですよ。去年3度実施した合同ワークショップからも何人か出演することになっています。ワークショップはやるだけで終わることが多かったで、その先が作りたいというのがあったので、参加した役者さんがどんな風にスパークするか非常に楽しみですね」
松本「他にもUDA☆MAP最新作の『KAIRO』に出演した成長著しい栞菜さんや、佐藤大地改め、ポルトガル大地(細川さんにより改名)など、異色俳優も多くでるので見所も多いですね」
扇田「あとENGさんの俳優の方が沢山キャスティングされていますね。水崎綾さんは舞台で観てとても良い女優さんだなと思っていたので楽しみですよ」
松本「僕らもこの役者さんと一緒に出来るのが楽しみだなーと思っていたら、自分の作品に出ていないというオチは結構ありますけどね(笑)」
扇田「それ分かります! うちの劇団に民本しょうこというのがいるのですが、彼女とはもう死ぬほど芝居をやっているので、さすがに今回はいいかなと思っていたら、2作品とも僕の演出でした(一同爆笑)」
佐藤「6番シードさんは土屋兼久さん以外、みんな主役を演じますよね。一方で土屋さんだけが3作品に出られるという。52人の役者さんの中で3作品出演は土屋さんだけです」
扇田「そういうのって劇団ごとの色かも知れないよね。6番シードさんの役者さんは真ん中を張れる人が多いという感じがあるし。うちの劇団は真ん中よりも脇で爆発力を発揮するタイプが多い。だから日替わりキャストとかで良く呼ばれるんですよ。持久力よりも爆発力ですね(笑)」
佐藤「最初の打ち合わせで各演目の主演誰にする?と意見を出し合っていた中でたまたま上がってきたのが6番シードさんの役者さんでした。ほとんどてこ入れしていませんものね」
細川「でも不思議なぐらい、スムーズに進みましたね。我々もめないんですよ。」
扇田「それは恐らく理由があって、皆それぞれにやり方があって、それに自信を持って提言をされるので、説得力があるんですよ。なるほどこういうやり方があるんだみたいになる」
松本「知らない人からしたら、これだけのメンバーが集まるとぶつかりそうに見えますけどね」
扇田「あとは我々がもう年だからでしょう。度量は無駄にあるみたいな(一同笑)」
細川「6C×バンタム公演の時も、周りのスタッフから演出家が2人いたら、さすがに何かあるだろうと思われていましたが、全然揉めないねとなって」
松本「それって盗みあいもあると思う。例えば、扇田さんが作ったカッコいい照明を作品のキメで使うと言われて、俺も今度使おうみたいな感じになるよね」
扇田「競い合いながらもいい所は吸収していこうというのが今回の試みの副産物になると思いますよ」
豪華なビュッフェを楽しんで欲しい
――― このプロジェクトの終着点は?
佐藤 「それはもうお客さんが一杯入って、黒字になれば!」(一同激しくうなずく)
細川 「僕としてはお客さんには贅沢な時間を過ごしてもらいたいですね。すごい豪華なビュッフェみたいに感じてもらえたら嬉しいです」
扇田「作り手側としては最低限、チケット代の価値は提供しないといけないですからね。僕としては2倍の価値を提供したいです。贅沢だねーと言わしめたい」
細川「今回は作品の共通テーマはありませんが、出来上がったのを並べたら色みたいなものは出てくると思うんですよ。それが我々にも未知数なので、それを楽しみにしてもらいたいですね」
扇田「作品のつなぎは考える必要は出てきますね。前のラストはこうだったから、うちはこう変えようという工夫は必要かと。壮大なラストからいきなり日常劇へはちょっと気持ち悪い」
細川「作品間のつなぎにもさりげない演出が入るので、そういうところも見て欲しいですね。短編なので、1日10本は見られる日もありますし、色んな役者さんが一度に観られるので、演目も楽しいものばかり。舞台入門編としてはいいですよね。お芝居好きな人がそうでない方を誘いやすいと」
松本「いざ、稽古が始まったらカオスになりそうだけど(一同笑)」
――― 最後に読者にメッセージをお願いします。
細川「個人的には書き下ろしの新作3本を色んな方に演出してもらえるので、それがどんな風になるか楽しみですし、頑張るぞと覚悟も新たにしています。その覚悟を観に来て頂ければと思います」
扇田「短編とは言え、1時間とそこそこ尺はあるので、見応えもあると思います。個人的には細川さんの作品を無駄にハードボイルドにしてやろうかと思っていますので、是非お楽しみに」
(細川から突っ込み)「全然、そんなテイストの作品じゃないって!」
松本「とにかくこのコラボ感を楽しんでもらいたいですね。ここから出る熱量というか、どう変化するかわからないこの状況を一緒に体験していただきたいです」
(取材・文&撮影:小笠原大介)