「白狐丸」シリーズのなかでも初期の『白キ肌ノケモノ』は、2009年に初演され、2011年に再演された。相棒の外道丸(げどうまる)とともに夜な夜な野武士達と戦っていたアルビノの白狐丸(びゃっこまる)は、ある日、詩音(しおん)という美しい娘に出会う。2人の出会いで運命の歯車は動き出し、白狐丸の出生の秘密が明らかになっていく……。9年振りに松多自らの演出・脚本改訂により、『真・白キ肌ノケモノ』として新たに蘇った本作。4月10日(金)〜19日(日)に池袋シアターグリーンBIG TREE THEATERにて、白狐丸の生誕・真実の物語が活劇アクションエンターテイメントとして上演される。
自分の演出で、自分の劇団で、『白キ肌ノケモノ』を9年振りに上演する
――― 劇団で3度目の上演ですが、新たにタイトルについた“真”とはどういう意図なのでしょう?
松多「ね。どういうことなんでしょうね?」
小栗「僕に聞かないでくださいよ(笑)」
松多「ははは(笑)。いろんな思いが込められてはいるんですけど、まず初演の『白キ肌ノケモノ』を上演したのが、ASSHがエンタメ舞台を手がけはじめたくらいの頃だったんです。それまでずっと一生懸命地道にチケットを売ってきたのを、やっとプレイガイドも導入して、いろんな役者さんが出演してくれるようになってまだ1年も経ってない時期でした。それが2009年」
小栗「もう11年前! すごいですね」
松多「そうなんですよ。その前に『刻め、我ガ肌ニ君ノ息吹ヲ』という作品がすごく好評で、直後に別製作で上演をしてくださった方もいたんです。書いた時にはなにも考えていなかったんですが、「これは続編を書いた方がいいなぁ」と思ってできたのが『白キ肌ノケモノ』でした。『刻め、〜』が恋愛ものだったのに対して、もっとドロドロした部分を書いたんです。2011年にもリメイク上演しました。それから、白狐丸を主人公にしたシリーズがいくつかあり、去年上演した『月に吠えろ、夜ヲ焦ガセ君ヨ』を白狐丸最終章としてエピソード0を書き上げたんです。
区切りもついたし、僕自身も新作を書くばかりでこの『白キ〜』を10年近く演出をしていなかったので、今一度、自分の劇団で演出しようと思い、白狐丸の生誕の真実であることも重ね合わせて「真」と付けました」
――― 脚本も改訂されるんですよね?
松多「そうなんです。もっと白狐丸の生い立ちや生き方にフォーカスを当てたストーリーにしようかなと考えています。白狐丸シリーズはどれもストーリーのギミックがあって、構成や伏線回収を凝っていたんですが、今回はシンプルに、白狐丸を地軸とした活劇アクションエンターテイメントにしたいですね」
小林れい、6年ぶりの松多作品。「当時は高校生でした」
――― 小林さんは、今回ACTOR’S TRASH ASSH(以下、ASSH)作品に初出演ですね。小栗さんとも初対面だとか。
小林「今日初めてお会いしました……!」
小栗「そうなんですよ。はじめましてです」
松多「へえー! そうなんだね!」
――― 初共演の2人の組み合わせに期待していることは?
松多「2人はとても関係の深い役なんですよね。そんな2人が出会ってしまって、自分達の境遇を語りあっていくうちにお互いの背景が明らかになっていく。物語は、血や運命から抜け出す、というテーマなんです。白狐丸は白子(アルビノ)として生まれて、捨てられて、親や人間に対してすごく恨みを持っている。「物の怪」と言われて追いかけられる中、たまたま出生の地に足を踏み入れてしまう。一方で詩音は、家が没落していて、もう一度家を立てなおそうという親の言いなりになっている。敷かれたレールの上にいる詩音が白狐丸と出会ったことでレールを外れていく。
周りの人達もやっぱり血や運命に束縛されていて、白狐丸と戦うことによって運命の歯車を少しずつ変えていく、しかし白狐丸だけはその業を捨てきれず……という昼ドラも真っ青のドロドロの展開。だからタイトルも「白き肌の獣」と、「白き肌、除け者」というダブルミーニングなんです。それをちゃんと活劇としてやりたい」
小林「楽しみです!」
――― 小林さんは出演が決まってどんな思いですか?
小林「これまでも、白狐丸シリーズのフライヤーをよく見かけていたので、出演できるとなってすごく嬉しかったです。歴史のあるシリーズなので、作品の良さも引き継ぎつつ、自分にしかできない役にできたらいいですね。ありがたくヒロインという大役をいただきますから。……この私が演じる「詩音」ちゃんって、これまでもいろんな方が演じられているんですよね?」
松多「3人いましたね。今回は4代目です」
小林「そんなにいたんですね! 必死にやるしかないですね…!」
松多「着物の芝居ってやったことある?」
小林「2〜3回あります。SETさんの作品で忍びの役をやって、着物で刀を振り回していました」
松多「じゃあ時代劇的な作法もやれそうだね。足さばきとか、見せ方とか、やっぱり現代劇と違うから」
小林「頑張ります」
――― 松多さんの舞台には出演されたことはありますね。
小林「松多さんとは『透明少女』(2014年)以来です。私、高校生だったんですよ」
松多「「舞台やりたい」って言ってたよね。頑張ってたね」
小林「あの時はまだ舞台が2本目で、どうしたらいいかわからなくて」
――― 小林さんは、共演者の方もほぼ初めてですよね?
松多「めっちゃ良い奴しかいないよ」
小栗「そうですね。いい座組みですよ」
小林「嬉しい。人見知りなので、最初の方は緊張すると思うんですけど、皆さんについて行きたい。慣れたらずっと喋っているんですけど」
松多「大丈夫だよ。外道丸役のお兄さん(丸山正吾)がすごくかまってくれるし、佐藤友咲がずっとしゃべっててうるさいし」
小栗「たしかに(笑)」
小林「友咲さんはご一緒したことがあるのでちょっと安心です」
松多「ナリさん(成松慶彦)もすごくいい人だし、みさきち(西村美咲)はずっと話しかけてくれるし、せきまゆ(関谷真由)も元気に笑ってる。すぐ仲良くなれると思うよ」
小林「よかったぁ」
ずっと演じたかった白狐丸を、自分にしかできない演じ方で
――― 小栗さんは何度か白狐丸を演じられていて思い入れがある役だと思いますが、今回の舞台にあたっての気持ちは?
小栗「前回、前々回は新作だったので、白狐丸という役を一番に演じさせてもらえました。でも今回の『白キ肌ノケモノ』は、再演なんですよね。今まで壱岱さんや、他の方が演出を手がけてきて、白狐丸を演じた人達が何人もいる。今回はそこからの、また新しいスタートなのかなというのもあります。そのなかで僕なりの白狐丸ができるとしたら、直近で上演した白狐丸シリーズに出演していたのは僕だから、その流れを引き継げる気がします。これまで僕が白狐丸として生きてきたものをもっともっと出していけたらいいですね。
もちろん、やってみないとわからないですけど……。あと、やっぱり白狐丸という役そのものに対しての思いいれもすごく強いんですよね。僕がASSHに入って最初にやりたいと言った役が白狐丸なんですよ。ずーっと「壱岱さんに白狐丸やりたい!」と言い続けていました」
松多「「まだちょっと君にはいろいろ早いのでは?」と思ってた。でも、僕自身が自分の劇団で白狐丸シリーズを立ち上げたいなと思った時に、「小栗君が言ってたな、じゃあやろうか」という気持ちになったんです」
小栗「最初は「できるわけないじゃん」みたいな顔をされていましたね。でも、今は白狐丸をやらせていただけるようになりました」
――― 念願かなって、何度も演じられるようになりましたね! 小栗さんからみて、白狐丸シリーズの楽しみ・面白さはなんでしょう?
小栗「まず、まとまりのある座組なのでお芝居がやりやすいです。上下関係がなくて、お互いを高め合える。だから、今回もそうなるんじゃないかな。役者は楽しいですよ」
小林「楽しみです!」
小栗「今まで積み上げてきたものがあるからこそ、僕も稽古場でみんなに提示していきたいものがあります。やっぱり思い入れが強い役なんですよね。去年の『月に吠えろ、夜ヲ焦ガセ君ヨ』で白狐丸を演じていた時も、毎公演、叫んだ後に酸素がなくなって過呼吸になって立てなくなっちゃった。アフタートークがあった日には、終演後に壱岱さんがドタドタ走ってきて「諒君、大丈夫?大丈夫?」って」
松多「あれは心配になった」
小栗「すごく心配してくださったんですよね。白狐丸シリーズは本当に毎回燃え尽きるくらい臨めている作品なので、次もそうなると思う。やりがいがあります」
松多「燃え尽きて無事に終わりましょう!!」
(取材・文&撮影:河野桃子)