2006年に脚本・演出家の矢島弘一が旗揚げし、各分野から一癖も二癖もあるキャストを揃え、身近な社会問題に鋭く切り込むだけでなく、繊細な人間ドラマを描いてきた東京マハロ。
第23回公演は稀代の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチを題材に、代表作「最後の晩餐」をテーマにしたコメディー『あるいは真ん中に座るのが俺』の再演と、ダ・ヴィンチの生涯に迫った新作『彼の名はレオナルド』の2本立てとなる。インタビューでは新作を中心に、東京マハロには欠かせないキャストとなっている彩木りさ子、福田ユミと共に矢島に本公演への意気込みを語ってもらった。
“16世紀の四畳半芝居”を描きたかった
――― 2017年5月の第17回公演で大喝采を浴びた『あるいは真ん中に座るのが俺』(以下、『あるいは〜』)ですが、今回の再演に加えて、書き下ろしのしかも同じレオナルド・ダ・ヴィンチをテーマにした新作を加えたのはなぜでしょう?
矢島「レオナルド・ダ・ヴィンチは世の中にもたらした発明や美術、功績などは広く知られたところですが、どういう出自でどんな生涯を送ったかというのはあまり知られておりません。そこを掘り下げる意味で今回、筆を取りました。モナリザをどう書いたかというよりも、家族や彼の周囲にいる人達を中心とした話にしています。
今回、同時上演になる『あるいは真ん中に座るのが俺』では男性が多いですが、本作のキャスティングは女性が中心となります。メインというよりも、女性が活躍する作品で、目指すところは“16世紀の四畳半芝居”。16世紀の向田邦子の様なテイストにできればと思っています。僕にとってもチャレンジングな作品になると思います」
女性の心理が上手に描かれている
――― 『あるいは〜』でWキャストとして出演した彩木さん、福田さんは新作への出演となりますが、台本を読んだ印象を聞かせてもらえますか?
福田「海外の偉人をテーマにした作品で、やや芝居が大きくなりがちですが、矢島さんから四畳半の向田邦子さんの芝居みたいにしたいと言われた時に、そういう描き方が出来たら素敵だなと直感的に思いました。私が演じるのは2番目の妻で、時間経過としてはデフォルメ化されていますが、いることでストーリーが面白い方向に進んでいきます。2番目ならではのモヤモヤや、日頃胸に秘めた気持ちとかあると思うので、そういうところは表現できたらなと思っています」
彩木「私も福田さんも前回の『あるいは〜』でWキャスト出演させてもらった時に、ダ・ヴィンチが描いた『最後の晩餐』というテーマから少し固い作品なのかなという想像とは逆に、巻き起こる人間ドラマがすごく面白くて、コミカルでありながらすごくドラマチックに描かれていて、いつか再演をという声を沢山頂いていた中で、今回再演が実現し、さらに新作に出演させて頂けるのは嬉しい限りです。
演劇でも絵画をテーマにした作品はなかなか無いと思いますし、1つは絵をテーマにした作品で、もう1つはダ・ヴィンチの生涯を描くというのは、リンクする部分も多いと思います。一見すると肩肘張っている印象を持たれるかも知れませんが、台本を読んでみると、16世紀の話だけども現代にも共通する部分が多いと感じました。女性の心理を上手に描く東京マハロの特徴が今回にも反映されている印象です。
私は最後の晩餐が置いてある修道院の院長を演じます。唯一、架空の役ですが、ダ・ヴィンチの才能を買っていたり、ミケランジェロの彫刻のファンだったりと演じるのが今から楽しみな役です」
ダ・ヴィンチでも日々の葛藤はあった
――― クセは強いけども、どこか親近感を覚えずにはいられない登場人物など、東京マハロならではの独特の魅力にはまるファンも多いと思いますが、歴史上の偉人をテーマにした本作でも矢島さんならではの“視点”は貫かれていますか?
矢島「作家は人生の切り売りみたいなところがあって、恥部をさらけ出すのも仕事だと思っています。その中でダ・ヴィンチと自分を少し比較しているというか、複雑な家庭環境で育った彼の生い立ちが自分と重なるところもあって、生みの親、育ての親を巡る、血とは何なのか?というところも描けたらいいなと思っています。天才のイメージが強いダ・ヴィンチですが、僕らと同じように生活の中での葛藤はあったわけです。史実には彼の功績が多く記されていますが、一方で彼がどんな気持ちだったかはあまり触れられていない。そこが新作の引き金にもなったと思います」
――― 取材はどの様にされました?
矢島「まぁ、主にはウィキペディアですね(一同笑)。それは冗談で、色々なものを漁って調べました。ダ・ヴィンチの人生については、主に幼少期から60代ぐらいまで色んな文献で語られていますが、これを1本の舞台作品で描こうとするのは厳しいので、そこは多少のデフォルメと時代背景を動かすことでギュッと絞りました。
今回肝になるのが、場面のつなぎですね。どんどんシーンが飛びますし、場所も変わります。その変わるシーンを暗転は極力少なくした上で、場面の心情を表す意味も込めて色を使いました。大事な演出ですし、お客さんにしっかりと伝えられるように工夫を重ねていきたいと思っています」
台本に描かれている世界の裏側を想像してもらう
――― これまで多くの東京マハロ作品に出演されてきたお二人ですが、演じる上で心がけていることはありますか?
福田「人間関係をとても大事にされているなと思っていて、自分の生きてきた経験を総動員させないと上辺だけになってしまうなと強い気持ちを持って臨んでいます。稽古始めにも役者同士でディスカッションをして本で描かれていない部分も話し合って丁寧に作っているところは東京マハロならではだなと思います」
彩木「2009年に初めて出させてもらった時はもう少し笑って泣けるハートフルな作品という印象でしたが、そこから矢島さんの描き方も進化してきて、台本に描かれている世界の裏側をいかにお客さんに想像してもらうかという視点が強くなった気がします。第22回公演の『余白を埋める』では、1分間無言というシーンがありました。静寂の1分間、役者のちょっとした表情のゆらぎやため息、目線などで登場人物の心情を想像してもらう目的なのですが、演じる私たちも稽古の段階でどう伝えられるかと試行錯誤するのですが、その深めていく時間が難しくもあり、楽しくもありました。
東京マハロの魅力は答えをすべて見せずに、あなたならどう思いますか?と投げかける姿勢が貫かれているところだと思います」
こちらもパワーアップしています
――― 約3年ぶりの再演となる『あるいは〜』も楽しみですね。
矢島「もう出来上がっている作品で、自信作と言ってはなんですが、僕の中では正直もっと大きいところでやりたかったなという気持ちもあります。改めて自分の才能に惚れていますね(笑)
福音書に書かれてある実在するキャラクターをそのまま使って、僕の中でこういう奴だったんじゃないか?と想像を膨らませて書いたこてこてのコメディーです。脚本もボリュームアップしているので、初見の方は勿論、前回観た方でも楽しんで頂けると思っております」
――― 最後に読者にメッセージをお願いします。
彩木「この作品を通じて演劇界に新しい風を吹かせたいという気持ちがあります。2作品を観ることでさらに世界観が膨らみますので、是非両方とも観て楽しんでもらえたらと思います」
福田「新作も再演に負けず頑張ります!『彼の名はレオナルド』を見て、『あるいは真ん中に座るのが俺』を観たくなるような作品にしますので、是非劇場にお越しください」
矢島「色んな作品が一度に観られる映画館への嫉妬と言いましょうか。舞台でもせめて1日に2作品を楽しめたらなという思いからチャレンジしました。両方観てもらえたら嬉しいですが、どちらか1本でも楽しんでもらえたらなと思います。是非劇場にお越しください」
(取材・文&撮影:小笠原大介)