歴史上の英雄達が時代を超えて“魔界”に集結。魅力ある個性的なキャラクターとストーリーに加え、現役プロレスラーによる迫力のバトル、トップアーティストによる魅惑のステージは、「演劇」や「プロレス」の概念を越えて独自の異彩を放っている。第69回公演となる最新作はどのように観る者を魅了するのだろう。真田十勇士軍、霧隠才蔵役の朱里、冥界軍、俵藤太役の山田圭介に加え、M A K A Iプロジェクト代表の石井高博に意気込みを聞いた。
脱プロレス宣言がもたらしたもの
――― 2014年から月1回のペースで実施されている連続興行ですが、近年は大きなシフトチェンジを迎えたようですね。
石井「3年前に脱プロレス宣言をさせて頂きました。第1回公演からしばらくはリングを中央に据えた会場でプロレスアクションを取り入れていましたが、なかのZEROに移転後も同じクオリティーが保てるように手作りでクッション性のある床板を作りました。まだまだ改良の余地はありますが、関わる方の助言も頂きながら、従来のリングに縛られない理想的なものに近づいていると思います。
脱プロレス宣言後にはプロレス雑誌さんからの取材がこなくなったというマイナス面もありましたが、演劇分野の方々からのアプローチやご協力を頂けるようになったことが嬉しく、自分たちで新しいエンターテインメントを作っていこうという気持ちも大きくなったタイミングでした。
試験的に昨年11月に魔界の中の1つのグループである真田十勇士にフォーカスした公演をおこなったのですが、その時にリングを使用しないスタイルで実施して、ある程度この方向性で行けるとなって、本格的に舞台型の劇場に移行しました。
今までは魔界イコールプロレスと言われていた興行スタイルから、1つ脱却したといいましょうか、お客様にも安定してお越し頂けるようになり、時には満席で心苦しくもお断りをするような状況になったので、増席に加えてここで勝負という意味でも会場を変える決断をしました」
客席から観た光景に衝撃を受けた
――― 朱里さんは第17回公演から出演されていますが、魔界の魅力について教えてください。
朱里「魔界は1回1回新しいものが生まれてくる印象があります。成長というか、もっと上にもっと上にという感じで、お客さんの想像を上回る仕掛けを打ち出しているので、ステージに立っている方も楽しいですし、自分にとって魔界は大事な場所です。色んなジャンルのトップが集まっているからこそ、新しいものが生まれるのではないでしょうか。
元々は女優志望だったで、演技については難しいと思うよりも、自分のやりたかったものが出来ている喜びがありますね。
舞台仕様になった時に改めて照明や音がこんなに迫力があるんだと衝撃を受けました。特に客席から見る光景はそこにバトルの迫力も加わって滅茶苦茶カッコいいなと。
私が演じる霧隠才蔵はそれほど喋るキャラクターではありませんが、情に厚く、うちに秘めた思いを持つ一面があって、昨年11月の真田十勇士にフォーカスした公演では、十勇士の絆がさらに深まった気がします。元々歴史に興味はあったのですが、魔界への出演を機により歴史が好きになりました」
生きているキャラクターに会いに来て欲しい
――― 第1回から携わる山田さんとしては、魔界の発展をどの様に見つめてきましたか?
山田「僕としてはまだまだいけると思っています。会場を変えたことはものすごい転換点でした。新木場のステージでやっていた頃から、十分にカッコよく見えていましたが、今の中野のステージに移ってからはさらにカッコよさに磨きがかかりました。魔界の世界を知らなくても、とにかくカッコいいものが観られるから来て欲しいと言いたいですね。ファンになってくださったお客さんは、SNSで公演より先にストーリーの予想を立てて深読みしてくださるなど、こちらが驚くぐらいです。
歴史上の人物がどうだったという史実よりも、魔界にいるありのままの姿を楽しんでもらうことに重点を置いています。僕が演じる俵藤太も実際には豪傑な方だったと思いますが、演じる中で弱く繊細な一面が生まれた感覚があって、1人のキャラクターではなく、“現代の俵藤太”として本物になっていきたい思いがあります。来てくださったお客さんが、没頭できる感覚が今の中野のステージにはあるのが良いですよね。リハーサルの時、客席から見える光景が何倍にもスケールアップしていてとにかくすごい。本当に異空間。でもここでの伸び代もまだまだあるはずです。
今後、可能性として魔界が映画やテレビ、アニメ・ゲームなどに発展していったとしても、実際にその人物に会いにいくことが出来るのも魔界の魅力だと思います」
朱里「やりたいようにやらせてくれるので、もっとこうしたいと、自分たちの持っているアイデアも盛り込むことが出来るのも大きなやりがいにも繋がっていますよね」
中野に移転後はより一体感が増した
――― ステージから見えるお客さんの反応はいかがでしょう?
山田「我々が見せているのはあくまでもストーリーの中で生まれる戦いのシーンであり、プロレスではないという感覚があるのですが、肌感覚として、お客さんには僕らが期待する反応を頂いています。無言の場面があっても、1つのシーンとして受け止めてくれるのが有難いですよね。草創期の頃はプロレス感覚で見に来たお客さんから『おい、どうしたー?』と野次を入れられることもありました(笑)その時代を考えると、今のファンの方がお芝居を観る感覚で観に来てくださるのが何より嬉しいです」
朱里「中野に移ってからはさらに会場の一体感が生まれた感じがします。魔界は一緒になって声を出したり、手を上げたり、お客さんと一緒になって作り上げる感覚が大きいので、改めてすごい場所だなと思います。とにかくお客さんの没頭ぶりがすごい!」
観劇ではなく“参加に近い”
――― 2月からはすべて自由席となり、推しの軍団に分かれて座ることでストーリーが変化する仕掛けも施されています。
石井「例えばプロ野球では、スタンドに分かれて応援しますよね? チームが勝つ瞬間を見るために、スタジアムに行って応援する楽しみがそこにはあります。魔界はお芝居ではありますが、お客さんに帰属意識みたいなものを持ってもらいたくて、アクションによってストーリーが変わっていくスタイルは感情移入がしやすい。一歩引いたところから傍観するよりも、より入り込める状況を作りたいと思いました。
11月の公演では公演前にお客さんが所属する軍を強制的に決めていましたが、『本当はこっちを応援したかった』というお客様の声があったので、すべて自由席にして、その日に座りたい席に座ったもらうことにしました。推しの軍団を選べなければ、中立地帯も用意しています。私たちはお客様にとっての仕事場でも家庭でもなく、そこに行くと居心地が良い場所、『サードプレイス』みたいな場所を共に作っていきたいと思っています。公演がない期間でも、SNS上では、各軍団のキャラクターがあたかも実在の人物のように投稿していて、公演に向かうまでの情報のやりとりをおこなっています。これは公演がないときでもお客様にキャラクターの存在を意識してもらうことが目的です。
中野では出番のないキャラクターが客席にいて、お客様を自分たちの兵とみなして、煽って自軍を応援させる行動をしています。お客様が観劇でなく、“参加”するスタイルを目指しました。
また魔界は写真も動画撮影もOKなので、落ち着いて公演を見たい方には中立地帯をお勧めしています。これまで60作以上連綿と続くストーリーですが、全てを網羅する必要は一切ありません。声や衣装、アクション、きっかけは何でも良いです。誰か好きなキャラクターを1人作ってもらえたらすぐに没頭できます。トップアーティストによる魔界の為だけに作られた音楽も素晴らしいので、それだけを楽しんで頂いても結構です。構えずにまずは体験してもらいたいですね」
――― 最後に読者にメッセージをお願いします。
朱里「とにかくカッコいい!の一言です! 一度観たら世界観も伝わるので、まずは1回来い!と言いたいです」
山田「日本にも世界にも無かった新しいエンターテインメントを作ろうと思っています。
参加型でライブを楽しみながら、時には自分も応援する軍団に混じって戦う。お客さんの声のボリュームによって勝敗が決まります。その声の貢献度によってはそのキャラクターから功績が認められてレアな一品をもらえることもあります。ファンになれば垂涎の一品です。日頃ではできない大騒ぎできる究極のストレス解消であり、アミューズメントを体感する気持ちで来てもらいたいですね。皆さんを魔界でお待ちしています!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)