メッセージ性の高いハートフル×ソウルフルエンターテイメントのオリジナル作品に拘り、パワフルに作品発表を続けているA´company(エーダッシュカンパニー)の新作オリジナルミュージカル『Craquelé ─クラクリュール─〜Nameless barricade〜』が、6月25日〜28日、中目黒キンケロ・シアターで上演される。
若者が自ら未来を勝ちとっていく、成長していく過程が描かれるという新作の、脚本・演出・振付を担う村山歩が、この新作の世界観はこの三人がいなくては創れない!と思ったというほど全幅の信頼を置く、田名部生来、栗田萌、宮本弘佑が揃い、新たな作品への熱い想いを語ってくれた。
一瞬で昨日も会っていたかのように話せる
――― 新作は『Craquelé ─クラクリュール─』という素敵なタイトルですが、こちらは美術用語の「クラクリュール」と考えて良いのですか?
村山「そうです。『モナリザ』等の油絵を思い浮かべて頂くとわかりやすいのですが、年月を経た絵画の表面に見られる特徴的なひび割れを表したフランス語です。それが劣化ではなく、美しく、絵画の更なる価値と考え評価されており、直接美術を描く作品ではないのですが、登場人物の生き様を照らし合わせてタイトルにしました」
――― そんな作品の、コンセプトやテーマを、今お伺いできる範囲でお話し頂けますか?
村山「バリケードが閉ざされて都市に閉じ込められた若者たち、という設定があって、“今、見えていない未来や、先の見えない状況に彼らがどう立ち向かい、未来を切り拓いていくのか?”というところがテーマです」
――― こう言って良いかわかりませんが、新型コロナウィルスの感染拡大という大問題に直面している現在と、リンクするものを感じるテーマですね。
村山「去年から準備してきたものなので、思いもかけず今の情勢と重なってきたことに、自分でも驚いているのですが、先が見えない不安を覚えたり、未来に希望を託すことができなくなってしまう時というのは、今回のことは勿論ですが日常生活の中でも誰しも経験することだと思っているので、あくまでもそういう普遍性のあるテーマを持ったひとつの作品として創ろうと思っています。
どうしても辛いことや、不安になることがあると、周りのせい、何かのせいにしたくなったりしますが、結局は自分自身の問題だということは多い。ですから自分たちで考え、自分たちで行動していくことでその不安も取り除いていけるし、自分も救われ、明るい未来が待っているんじゃないか。1番前を向ける方法を自分たちで探していく子たちの生き様をテーマにして書いています」
――― キャストの皆さんは、ちょうどビジュアル撮影を終えられたばかりということですが。
宮本「僕は歩さん(村山)にお会いするのが一年半ぶりだったんです。でも、一瞬で昨日も会っていたかのようにお話ができることに感動しました。もう感激の再会で! それで、できたら皆さんとお顔を合わせたいなと思って、自分は最初の方の撮影だったのですが、最後に撮影されるキャストさんまで、ほぼ残って皆さんとコミュニケーションをとらせて頂いたら、歩さんがキャスティングされる方々って、波長が合う。皆に共通するものがあって、バランスがすごく良かったのが嬉しかったです。
役柄としては、前回の作品に出演させてもらった時は、実は背負いこんでいるものはあるんだけれども、ずっと明るく振る舞って皆と仲良くしている感じの子だったんです。でも今回は逆で、静かでクールな役柄なんだそうです! 僕、今こうして話しをしている、この感じを見てもらえればわかるんですけど、クールってかけ離れていて(笑)。可愛い系の役柄がすごく多いので、今回はカッコいい系で行って欲しいと言ってもらったとき、嬉しいな、頑張りたいなと思いました。だからまず、静かに稽古場にいるところからスタートしたいなと思っています(笑)。」
栗田「私ももうすでに、全体にチーム感があるのが、すごく不思議で素敵だなと思いました。前回の公演で一緒だった子たちもいますが、はじめまして、の人も多い中で、一つの作品に向かって志高くできる方たちが揃っている印象を受けて。その中で自分の役については、最初に言われたワードが『高飛車』で! 強気な、上から目線の役柄?と思ったのですが、そうではなくて、詳しくお話を聞いたら“あ、私に似ているところがあるな”と、スッとイメージが湧きました。私も本当は自信がないのに、全く大丈夫!というように振る舞って、自分を守るというのか、ガードしてしまうところがあるので、こういう役柄が頂けたのはすごく楽しみだなと感じています」
田名部「私は歩さんが役者時代の5、6年前に共演させて頂き、お世話になって以来の再会だったのですが、さっき宮本さんがおっしゃったのと全く同じで、扉を開けたら“あれ?昨日もお会いしていましたよね?”みたいな感じで(笑)。歩さんが明るく迎えてくださったので、“あ、大丈夫だ”とまずひとつ思えたのと、衣装に袖を通した時に“これ自分の私服だっけ?”と思うぐらいマッチしていたのに、ものすごく感動しました。
それぞれ当て書きして下さっていてひとり一人何かしら通じるところを掘り下げて配役して下さっているのを感じるので、台本を読むのがとても楽しみです。歩さんが私に任せて下さったことにめちゃくちゃ気合が入っていますし、ずっとグループでやってきたこともあって、歌やダンスありきの舞台に、個人として出演する機会もなかなかなかったので、ひとつ殻を破って、違う一面を見て頂けたらと思っています。でも、歩さんが体力を心配して下さっていて、めちゃくちゃエネルギー使うからってすごくハッパかけられているので、まず鍛えないとなと!」
村山「どうやって自分で未来を変えていくかを模索して、使命感から立ち上がっていくという強い主人公なので、エネルギーがいると思います」
田名部「多かれ少なかれ誰しも闇を抱えている部分ってあると思います。もちろん私自身にもありますから、この役から頂けるものも多いでしょうし、それを十分に出していけるように臨みたいです。男っぽいっていうか、もう私はおじさんぽいので(笑)、強い役柄を表現できればと思います」
同じ役者に同じ役は書かない
――― 皆さんに当て書きされつつ、違う色も出してもらいたいという意識もおありですか?
村山「それはすごくありますね。例えば弘佑(宮本)だったら“こんな弘佑見たことないでしょ”と言うのをやりたいし、田名部は今回私の演出は初めてなのですが“こんな面があるよ”“こんな輝き方出来るよ”というものを見せたいんです。萌(栗田)は今回3回目なんですけど、前2回はヒロインを演じてくれましたが、でも全く違うキャラクターでしたし、今回は更に田名部の主人公との対比もある役で、同じ役を書かないっていうのが私の中にポリシーとしてあります。
お客様がご存知の彼、彼女たちと、自分が稽古で向き合い、見てきた皆とはやはり少なからず違うと思うんですね。その生の人間っぽい部分を作品で表現したいので、人間性を一番大事にキャスティングしています。ですから演出もすごく細かくて、経験者の二人はわかっていると思うんですが、こういう風にやってと言うことではなく、その子の感情を引き出すまで丁寧に時間をかけてやると言う方法で作っているので、本人の良さが出るように、新たな面をお客様に見せられるようにとは思っていますね」
――― 今、演出が細かいというお話でしたが。
栗田「はじめての時は衝撃的でした。それまでも一生懸命やっていたつもりでしたけれども、歩さんの作品への真剣な向き合い方を観ていたら、自分の一生懸命がどれほど足りなかったかを痛感して。だからこそ毎日成長していくきっかけをもらえる場所でしたし、お仕事に対してだけではなく、周りへの配慮ですとか細かい意識、大きく言えば私の生き方が変わったんです。
ですから最初の公演はただ必死でしたけれども、そのあと他のお仕事でも取り組み方が変わったこともあって、去年の公演では自分に少し余裕が出てきて、見え方が変わったんです。見える景色が違ってきたのを感じたので、歩さんの現場を経験したのとしていないのとでは本当に違うと思うんですよね。」
宮本「基盤ができますよね。だから稽古場が静かなんですよ。休憩中でも皆黙々とアプローチしていて」
栗田「再開後にこれをやらなくちゃいけないっていうことがたくさんあるので、しゃべっている暇がないの! ご飯を食べる時間もないもの!(笑)」
村山「休憩中も休むな! なんて勿論一言も言ったことはないんですけど(笑)、皆がやらなきゃと言う意識で集中してくれていて、すごくストイックですね。それだけ良いものを出したい、作りたいって言う意識が高くなってくれているのを感じます。」
宮本「僕は初めて歩さんの作品に出させて頂いた、前回の公演が自分にとっても初主演だったんです。歌もダンスも得意な方ではなくて、どちらかと言うとコンプレックスを持っていたくらいだったんですが、オーディションで主演に選んで頂いたプレッシャーに押しつぶされそうで。覚悟を持って臨んでいましたが、それでも全然足りなくて、めちゃくちゃ怒られました! でも、歩さんがすごく愛情もって接してくださるのがわかる。その怒りと言うのも愛なんですよ。『お前はもっとできるはずだから、殻に閉じこもってないで前に出せ』と言ってくれるので、僕は稽古で本当に色々大切なことを学びました。主演としての在り方も教えて頂きましたし、歩さんは決して切り捨てることをなさらないので、僕らが板に立っている時に、演出家がどう思っているのかがわからない、という不安がないんです。
そういう意味合いでもすごく後押しをしてもらったので、作品に出られたことが本当に嬉しかったですし、皆さんからもありがたいことに“良かった”というお声をたくさん頂けたので、今回どういうポジショニングで、どう稽古場に居られるかが新たな課題だなと思っています」
――― 言ってもらえるのはありがたいですよね。
宮本「何も言われなかった時の方が怖いです! だから演者みんなダメ出しを聞きに行くんですごく並ぶんですよ! 人気のラーメン屋みたいな感じ(笑)」
村山「稽古終わってからすごいんです。皆、我先にと台本を持って演出席の前に並ぶから……きついことも言うので、すいませんなんだけど(笑)」
田名部「怒って頂ける現場ってなかなかなくなりましたし、それぐらいの熱さを持って接してくださるっていうのはめちゃくちゃありがたい稽古場だなと思うし、本番でも上げていけるようなステップアップになる稽古場にしたいので、キツければきついほどありがたいです!」
村山「うちにぴったりだね! 良かった!」
劇場を突き抜けるほどのエネルギーを届けたい
――― 村山さんが、キャストのお三方に感じる魅力はいかがですか?
村山「あり過ぎて長くなりそうですが(笑)、田名部生来ちゃんから行くと、彼女を演出するのは初めてなんですけど、ずいぶん会っていなかったのに、一昨年位から突如として彼女が浮かんできて。実際にご一緒したのはまだAKB48の、現役アイドルだった時なんですけれど、多分すごく芝居がやりたい子なんだろうなという印象があって。芝居が真摯で、作っていく作業が好きな子に感じていて、“いつか出て欲しいなぁ”と思っていました。
私の作品は男の子が中心のものがずっと続いていたのですが、今回の作品の世界観の主人公は女性かなと思った時に、田名部生来ちゃんが浮かんできて。勿論萌もそうで、この二人が揃うならこの作品がいけるかなと思いました。ですから、主人公として何も心配もしていないですし、芝居に向かう姿勢、そこに入っていくスイッチが面白い子なので、この役を演じてその世界に入っていった時に、どれだけ生身が出せるかが楽しみです。私はそこが舞台の魅力だと思っている分、彼女の生っぽさと、パワーを前面に出せる舞台ができるんじゃないかと思っています。
萌に関しては、もう萌がいてくれることで、私の作品が出来上がると思っているので。すごくストイックですしね。さっきも役と自分が似ていると感じたと言っていましたけれども、最初はやっぱり私にも心を開いていなかったと思う(笑)。」
栗田「いえ! 何を聞いても怒られそうで怖かったんです(笑)」
村山「別に威圧してるつもりはないんだけど(笑)、もうこの人にはどんな姿を見せてもいいやとなるまでに、少しかかったよね。器用な方ではないと思うし、時間はかかるんですけど、でもやるんですよ、絶対にやり遂げる。そこには2回やって絶大な信頼を置いているし、別にお互いに何も言葉にはしていないですけれども、彼女の行動を見ていれば、この作品を良くしなきゃとの思いと、責任を感じて板の上に立っているのが全部わかるので、“今回もやってくれよ”と期待しています。
弘佑は前々回の作品で主演だったんですが、オーディションにたくさんの人が来てくれた中で、入ってきた瞬間に“あ、いた”と思いました。この作品は彼が主演だなと。自分でも言っていましたけれど歌もダンスも得意ではなかった。でもそれ以上の素直さと吸収力もあったので、弘佑しかいないなと思ったし、実際それは間違っていなかった。それ以来の再会ですが、たくさん成長していながら、良い意味で変わっていない。素直さがやっぱり弘佑の魅力だと思うので、人間的に成長した弘佑が今回どういうものを見せてくれるのかが、すごく楽しみですね。」
宮本「こういう話を初めて聞けたので嬉しいです。」
村山「基本、キャストとはこういう話はしないからね(笑)」
――― どんな作品が生まれるのか、楽しみは尽きませんが、では改めて意気込みとメッセージをお願いします。
宮本「6月の公演なので、諸々落ち着いてくれていて欲しいという願いが一番あるんですけど、その中で“舞台公演が打てるのは当たり前じゃない”と、僕はこの情勢だからこそ強く感じていて。お客様も絶対に舞台を観に行ってはいけない位の状況下に陥ってしまった時期を経たからこそ、6月に公演をするということには、演者もすごい覚悟を持っているし、色々な意味で向き合い方も違うと思います。
6月公演が、お客様にとっても僕にとっても座組にとっても、乗り越えてきてこの公演を打てて本当によかったなと思えるような、お客様にも頑張って乗り切ってきてよかったなと思ってもらえるような作品にできれば万々歳だと思っていますので、状況が落ち着いて、みんなで一緒に良かったねと言い合えるように、観に来て良かったと言って頂けるように頑張りたいと思います。」
栗田「私自身が歩さんの作品のファンなので、新作が創られる、どんな作品なんだろうとワクワクしています。同じように歩さんの作品を好きな方も大勢いらっしゃると思いますので、その方達にはもちろん、これまで観たことがなかったという方にも足を運んで頂けたら。
歩さんの作品はすごく心が温まる、ハートフルな作品が多くて確実に何かが届く。主人公が成長していく過程ももちろん見えるんですけど、それ以外のキャラクターたち全員にストーリー性があって、過去の背景がある、ひとり一人がすごく濃いんですね。しかも稽古場で作られてきた完成度の高いダンスや歌に、劇場を突き抜ける位のエネルギーがありますから、必ず心に響くと思うので、是非というか絶対観て頂きたいと思います。皆で一丸となって良いものを出して行けたらなと思っています。」
田名部「今、とにかく自粛することが大切だという中、自分たちの好きなことができないもどかしさ、伝えられない辛さがあります。でもこういう時期だからこそエンターテイメントをお届けして、お客様に喜んで頂きたい、希望を持ってもらいたいという思いでいっぱいなので、6月には全部終息して、皆さんにご覧頂ける環境であることを願っています。私としても久しぶりの主演なので、観終わった時に外の世界が明るく見えるような、そんな作品をお届けしたいなと思っています。皆さんに楽しんでもらえるよう、私も体を鍛えて頑張ります!」
村山「常に、衝撃を与えられる作品作りをしなければいけない、プロデューサーとしても代表としても演出家としても、そこが使命であり勝負だし、楽しみだと思っています。キャストやスタッフと向き合っていく段階から、たくさんの衝撃を渡し、みんながその感動を分かち合っていった先に、お客様にようやく感動して頂ける。そう思っているので、一瞬一瞬の衝撃と感動を大切にして、お客様に本当に良いものをお届けしたいです。パワー溢れる作品というのがうちの良いところなので、日常の煩わしさや疲れが吹っ飛ぶ作品にしたいと思いますので是非いらして頂きたいと思います。」
(取材・文&撮影:橘 涼香)