普段私たちが楽しんでいるのは劇場の舞台上だが、その裏側のことを考えたことはないだろうか。そんな舞台裏、スタッフルームを表に引きずり出したのが舞台『バクステ』だ。一昨年から注目の演出家・川本成の演出で2ヴァージョンが上演されてきたこの作品。今回は企画から携わっている南鳩史之の演出で『バクステ3rd stage.』として生まれ変わる。
南鳩「もともとはプラチナペーパーズの堤泰之さんがご自分のユニットで『バクステ』をスタートされ、それを川本成初演出作品として脚色を加え、2018年に上演しました。さらに昨年の再演は2.5次元舞台のスタッフルームという設定を追加。川本ワールドがさく裂し、とてもファンキーな作品となり大評判となりました。
今回、南鳩演出としてあえて“3rd stage. ”と付けたのはシリーズ3作目という事もありますが、ボクは劇場には役者が立つ『舞台』と裏にある『スタッフルーム』、そして、『客席』という3つのステージ(場所)があるという想いからつけました」
―――主役となるのは舞台の制作スタッフ。不案内な方のために説明すると、演劇やコンサートなどを行う時に、全体のスケジュールから楽屋の管理、果てには弁当の用意から打ち上げの手配まであらゆる業務を引き受けるスタッフであり、何より興行を背負うお金の収支管理が一番の仕事となる。
南鳩「稽古から本番に向かって何事もなく普通に進んでいる時って、制作は何も評価されないんです。その“普通に進める”ために裏で七転八倒していても誰も気付いてくれない。“普通”が当たり前なもんですから。ところが何かトラブルが起こった瞬間、『制作は何やってるんだ!』ってなるんです(笑)。
それと、実際のスタッフって役者よりもよっぽど変態が多い気がします(笑)。ものすごい人が一杯います。舞台スタッフは上下黒い服を着ているというイメージがありますが、プライベートは突拍子もない服を着てたりするし、飲みに行くともっとすごい。普段黙っているけど役者よりも自意識が強く個性的な人が多い。そんな辺りも表現できたら面白いと思います」
―――そんな制作助手の役に選ばれたのは2.5次元舞台を始め、活動の幅を広げている納谷健だ。
南鳩「以前の2回と違うのは、納谷くん演じる上坂という制作スタッフを中心に、彼の目線からスタッフたちを描こうとしているところです。“人間を描く”という脚本の堤ワールドをできるだけお伝えできればと思います。なので上坂役に納谷くんが決定した時はとても嬉しかったです。素晴らしい“変態役者”が来たぞ、と(笑)。真ん中の“ヤバい奴”が決まらないと周りも決まらないので」
納谷「変態の自覚はあまりないんですけれど(笑)、でもそう評価されるのは有り難いことですし、それに見合う頑張りをみせたいです。南鳩さんには面談の時に演劇や仕事に向かう姿勢についてシンパシーも感じました。以前の『バクステ』とはまた変わっているようですし、今回がどうなるかが楽しみですね」
南鳩「この前『十二夜』という作品で彼の芝居を観ました。やはりヤバい……大好きな“変態役者”だなと確信しました(笑)。いい役者はどこかおかしい。そこに尽きます。今、ヤンチャな役者さんになかなか出会えない感じがあって、その点で納谷くんは素直に、自分の普段見せたくない部分も隠さず、ありのままを芝居に刺し込んでくる感じがすごく魅力的です」
―――これまで活躍を見せてきた2.5次元舞台では見られない、新たな納谷の姿が期待出来そうだ。
納谷「他のメンバーも皆さん初めましての方ばかりなんですね。こうなったら早めに自分の居場所を見つけようかと思います(笑)。最近僕もだいぶストレートプレイや朗読劇などもやるようになってますが、応援してくれる皆さんもそういった活動を歓迎してくれています。きっと今回も期待は高いでしょうし、今は自粛ムードの中ですからさらに高まるでしょう。それがボクにとっての応援になってます。できるだけ多くの人に届けられるよう、皆で考えたいです」
南鳩「今回は演劇のスタッフたちが初日の幕を開けるまでの劇場での3日間を描きます。世間の方々から見ればとてもくだらないことに必死になっている人たちだらけです。そのくだらないことにプライドを持って立ち向かっている人たちを見ていると自然に笑い、自然に泣いてしまいます。そんな演劇人の日常を描いた堤作品がお客様の心を揺り動かすプレゼントになるよう、全力で取り組みます!」
――― スタッフルームに集まる個性豊かな面々が織りなす群像劇。それを表現できるメンバーが集まったと、南鳩は自信をのぞかせる。納谷を筆頭とする俳優陣の怪演を大いに期待したい。
(取材・文:渡部晋也 撮影:友澤綾乃)