タンゴ界のトップアーティスト・冴木杏奈がプロデュースするチェリスト、舟木真菜がファーストミニアルバムの発売を記念したコンサートをおこなう。オリジナル曲『君にささげる曲(うた)』やアストル・ピアソラの楽曲を含めた珠玉の全5曲をチェロ、ギター、ピアノ、バンドネオンの編成で情感豊かに表現。音楽家としての新たな一歩を飾るにふさわしい仕上がりとなった。チェリストとして今後の活躍が期待される舟木にチェロと音楽について聞いた。
――― 自身初となるコンサートを前に現在の率直なお気持ちを聞かせてください。
「舟木真菜として初めて1から作らせて頂くコンサートなので、ワクワクと同時に緊張もしています。オリジナル曲が入っているのですが、私は小さい頃から曲を作って遊んできたので、それが大人になって形になったことが嬉しいです。
幼少期から尊敬する冴木杏奈さんが長年共に活動をされてきた作曲家で編曲家のアレハンドロ・シュワルツさんをはじめ、バンドメンバーの方々と初の海外レコーディングとなるパリで収録できたことは夢のような時間でした。
最初の音合わせの時はとても緊張をしていましたが、皆さんが私の力を引き出してくれて伸び伸びと演奏をすることができました。私自身がちょっとした音の揺れを気に掛けていても、『ここはそのままの方が音に野性味があっていいよ』と言ってくださり、新しい感覚を取り入れることができたのはとても勉強になりました」
自分の内面から溢れる感情をそのまま音にした
――― オリジナル曲『君にささげる曲(うた)』にはどんな思いが込められていますか?
「冴木杏奈さんが企画・主演の音楽劇『インナーワールドエボリューション』の劇中BGMの作曲を前回の舞台で私が担当させて頂いた中で、使われなかったけども私の中では一番お気に入りがこの曲でした。自分の内面から自然とあふれ出した感情をそのまま乗せることができ、次から次へと音が出てきて自然と出来上がったという感覚です。元々はチェロとアルパの2楽器編成で作っていたものを、ピアノとギターを加えた3編成向けに書き直したものをアレハンドロさんが編曲してくださり、さらに鮮やかな曲へと生まれ変わりました。
またアルバムの最後に収録されている『広島のためのタンゴ』も私にとっては特別な一曲ですね。アレハンドロさんが滞在した広島の街に魅了されて書き下ろしたメロディーを杏奈さんの力強く優雅な歌声が彩る。私が小さい頃から聞いてきた大好きな曲です。元々は今回のミニアルバムに入る予定ではなかったのですが、杏奈さんからの提案で急遽、入れることになりました。アレハンドロさんがギターとチェロのデュオ向けに再編曲してくださった曲はしっとりとしていて、また違った魅力を放っています」
――― 舟木さんは4歳でピアノ、10歳からチェロを始められたそうですね。音楽家になる夢はいつ頃持つようになったのでしょうか?
「物心ついたときから歌ったり踊ったりするのが大好きでした。その様子を見た祖父が、おもちゃのピアノを買ってきてくれてずっと夢中で弾いていたそうです。そこからピアノやフルートにのめり込んで、最終的にチェロと出会いました。私自身、音楽以外に自分がやりたいというものがなくて、音楽をしている時のみ自分を表現できる感覚がありました。
自分の内面の感情をぶつけて吐き出せる自由な世界が音楽にはあって、その間だけは偽りのない真っすぐな自分でいられるのが魅力なのかなと。小さい頃から人前で歌ったり弾いたりする姿を想像しながら練習をしていたので、そういう意味ではステージに立つ事を夢見ていたのかもしれません」
最も人の声に近い弦楽器
――― チェロの魅力は?
「元々はヴァイオリンをやりたかったのですが、地元のオーケストラに一台だけチェロが余っていて、じゃあチェロで良いかと始めたのがきっかけでした(笑)。サイズが大きく足も広げるので、実際は男性が多く担当する楽器でしたが、いざ始めてみると、全身に響く音の力と、カッコよさにどんどん引き込まれていきました。
その音色はヴァイオリンほど高くもなく、コントラバスほど低くもない人の耳に馴染みやすい中音域で、“最も人の声に近い弦楽器”と言われています。弾いていても自然と耳に入る居心地の良さを感じますね。コンクール前になると一日、4〜6時間ほど練習をするのですが、終わった後も気持ちよさしかないので、練習が辛いと思ったこともありませんでした」
――― 冴木さんとの出会いについて教えてください。
「幼少期にある尊敬する方との出会いを通じて、杏奈さんのコンサートを鑑賞したことが最初の出会いです。ちょうどチェロを始めた10歳のときです。小さいながらも杏奈さんのステージに圧倒されて感動して以来、憧れの存在でいつか一緒のステージに立てたらとずっと願っていたので、杏奈さんとステージに立てたことは泣きそうなほど嬉しかったです。杏奈さんと言えば、タンゴの第一人者ですし、今回のミニアルバムでもバンドネオンやギターなど、タンゴの世界観が入った仕上がりになっています。私自身初の共演ですが、小さい頃から聴いていたバンドネオンの音色を耳が覚えていてとても心地よく弾くことができました。これまでクラシックだけの世界で生きてきましたが、他ジャンルの楽器が入ることで可能性を広げる機会にもなっていると思います」
音を通して自分自身を語るチェリストに
――― 今後の目指す音楽像はありますか?
「今後はジャンルを超えて自分が良いと思うものをお客様にも届けたいですし、是非若い世代の方々にもチェロという楽器が作り出す音色の魅力を知ってもらいたい。その為にも作品を通して自分自身を語られるようなチェリストになれたらと思っています。また11月には初のフルアルバムもリリース予定ですので是非、ご期待ください」
――― 最後に読者の方にメッセージをお願いします。
「私自身、辛い時は何度も音楽に助けられてきました。世の中が大変な状況だからこそ、私は音楽による癒しの力を信じています。クラシックというとどこか敷居が高いイメージがありますが、型にとらわれず幅広い年代のお客様に伸び伸びと楽しんでもらえる空間にしていくつもりです。今回のコンサートには、ハーピストの井田結貴乃さん、ピアニストの西本咲希さんなど、才能溢れるアーティストも参加してくださっているので、是非、多くの方にお越し頂ければと思います」
(取材・文&撮影:小笠原大介)