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架空畳


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それは人間なのか、はたまた人には非ずか? それを分ける境界は――

社会に横たわる「倫理観」のボーダーラインを入口に紡ぎ上げた新作

劇作家の小野寺邦彦が主宰する「架空畳」は、彼がまだ多摩美術大学に在学中に俳優・岩松毅たちと共に旗揚げした演劇集団。公演の度にキャストを集めて「異常な情報量、台詞量、運動量を詰め込む」(ウエブサイトより)という作品群は関係者の注目を集め、日本劇作家協会新人戯曲賞や神奈川かもめ短編演劇祭などで高く評価されている。情報量が多いのは架空畳のウエブサイトも同様で、過去の作品に関しては舞台写真やダイジェスト映像だけでなく戯曲の一部まで掲載されている(劇場で台本を売る劇団は多いが、サイト上で赤裸々に公開してしまう劇団は少ないと思うのだ)。 そんな小野寺の次回作は「身体に欠損を抱えた13人と、異常な性欲を抱える一人の娘との話」だという。80年代小劇場をそのまま持ってきたような設定に胸を躍らせながら、作品に至るまでの経緯から話を聞いた。


インタビュー写真

――― 小野寺さんが書く物語を読み解く……といっても、まだ作品ができていないのだから“読み解く”はおかしいですね。なので、理解する下準備として、架空畳のウエブサイトにあるご挨拶とか、出演予定の役者さんのブログとかツイートとかを掘り起こしたのですが。今回の『インテグラルの踵は錆びない』。オーディションの時点では『シンギュラリティ・カリギュラム』というタイトルだったんですね。仮題だけど。

 「ええ。変わったんです。でも内容は変わっていないんですが。“シンギュラリティ”とは技術的特異点、つまりAIが今後進歩していき、ある程度になると今度は自学自習をするようになる時点の事ですね」

――― Wikipediaから引用すれば「高度化した技術や知能が、人類に代わって文明の進歩の主役」になる時点、という「未来学上の概念」ですね。

 「ええ、AIの進歩の中ではそう言われてきたんですが、最近ではそれがおこらないだろうという説も出てきています。なぜなら『倫理観』がないから。AIというのは人から与えられたデータを元に膨大な計算をして最適解を求めるわけですが、功利主義的に考えたら1番リターンが多いものが最適解になります。
 だけどそこに、“やっていいことと悪いこと”という倫理が働くと必ずしもそれは最適解にはならない。そしてこの『倫理観』は自学自習出来ないし、その基準は時代や場所で変わる、つまり基準が揺れるわけです。そして正解はないからAIは止まるわけです。そして「倫理」は教育により、しかも後天的にしか学べない。」

――― なるほど。

 「前作(『諧謔能楽集T〜カノン、頼むから静かにしてくれ』)は神話や古典など世界中の物語には類型があって、そのバリエーションはある程度決まっている。それらの物語を能楽をベースにマッシュアップしてみたのですが、やってみるとそこからはみ出るものを見つけたんです。それが『倫理観』だと思うんです。例えば“人を殺していいか悪いか”ということにしても。戦争で殺すと英雄で、個人が殺すと殺人犯というように、同じ『行為』なのに 社会状況で善し悪しが変わる、同じ行為に対する評価の『ひっくり返り』があるわけです。その部分について前回は目をつぶったので、今回はそこについて考えてみました。

――― ウエブサイトのご挨拶では『カリギュラ』を引き合いに出してますね。

 「考えるに当たって、例によって古典に当たってみることにしたのですが、そこでカミュの『カリギュラ』でした。ローマ帝国の第3代皇帝だったカリギュラは、名君であったのが妹の死をきっかけに暴君になってしまいます。不条理に与えられている『死』を、暴君と化してのカリギュラは、与える側に回るわけです。つまりカリギュラは神の側に立ったわけですね。でもそこで本来神が行う行為を人が行ってはいけない、という倫理が働く。ではそのラインはどこにあるのかという話になります」

インタビュー写真

――― あ、その境界が特異点=シンギュラリティに繋がっていくわけですね。

 「初期の段階ではシンギュラリティとカリギュラって語感が似ているなと思って(笑)」

――― え?(笑)

 「たわいもない言葉の相似から始まってます(笑)。まあともかくそういったことから、人が持つ善悪の基準としての『倫理観』を入口に物語を編んでいこうと思います。

――― そこにタイトルにある「インテグラル」云々がどう関わってくるのでしょう。

 「インテグラルというのは数学でいうところの積分やその数式にでてくる記号ですが、パラスポーツで活躍するランナーの義足の形もインテグラル形ですね。この義足ですが、どんどん進化すると人の脚を越える可能性がありますから記録のために自らを改造するなんて考えも出かねない。一時期話題になったドーピングは一種の改造をしてしまった例ですから。でもそれをしないのが倫理の線引きなわけです。そして義足については踵を落とすことでその線引きをしているというんですね」

――― 技術が倫理を越える時に使った線引き、それが踵を落とすことだった訳ですね。なるほど。今作には欠損を補うために機械に置き換えた13人がでてきますね。彼らは一部を置き換えた時点で「出国」から「出荷」とあらすじにあったのが衝撃的だったのですが。

 「技術が欠損を補う時、あるところまで行くとそれは人間なのか?という問いが生まれます。例えば僕は眼鏡をかけていますが、これがなければほとんど見えない。つまり外部デバイスのお陰で僕は見えているし、それに依存しているわけですが、だからといって機械化しているとはいわれませんね。歯も同様です。インプラント入れたらロボットか? じゃあ基準はどこにあるのか?となります。だからその境界線の位置だけでなく太さも重要になってきます。物語の13人はそれぞれ段階的な欠損を抱え、それを補っていますが、どこまでが人といえるのかどうかという話になります」

――― 副題に「13人姉妹」とあります。ということは出演者は全員女優ですか?

 「オーディションをしたら、たまたま女性が殆どになりました。行き当たりばったりというか(笑)特に意図はしていません。チェーホフの『3人姉妹』ならぬ、13人姉妹ですかね。でも『3人姉妹』の3人もやはり類型を象徴しているんですが、それが13人まで増えると類型が崩れるんじゃないかと思っています(笑)」

――― もう一方の重要人物として、13人を手術した執刀医の一人娘がいます。これがすごく性欲が強いうという設定だと。

 「先ほどの13人は改造によって肉体的に特異な部分を持つわけですが、それを精神の側に持って行ってみたんです。子どもの頃に教会のようなところに通ったことがあって、そこに居たシスターを見ていました。彼女たちは神に近づく為に世俗を断つ訳ですが、そこに性欲があるわけです。つまり神に仕え神様サイドになる、というのは性欲=生殖から離されることになるわけで、精神的にはそこに境界線があると思いました。今回は肉体的と精神的2本立ての話にしようと思います」

――― 以前、劇作家で小劇場ブームの一端を牽引した川村毅さんに「アングラの先祖返り」と言われた話をされてましたが、この設定もまた、第三エロチカとか状況劇場を彷彿とさせるものがあります。

 「川村さんとか唐さんの時代を体験しているわけでもないし、具体的に誰かの影響で書いている訳でもないんです。そもそも皆さんいろいろなご指摘をくださいますが、それぞれ違ったところを指摘してきますから(笑)」

――― 架空畳にどんなドラマを見せてもらえるのか、楽しみにしています。

(取材・文&撮影:渡部晋也)

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PROFILE

小野寺邦彦(おのでら・くにひこ)のプロフィール画像

● 小野寺邦彦(おのでら・くにひこ)
東京生まれ。2006年、多摩美術大学在学中に架空畳を旗揚げ。2012年『薔薇とダイヤモンド』、2016年『かけみちるカデンツァ』が日本劇作家協会新人戯曲賞の候補となる。2018年の『彗星たちのスケルツォ』は第3回神奈川かもめ短編演劇祭に選出。2018年の『モダン・ラヴァーズ・アドベンチャー』は神奈川かもめ短編演劇フェスティバル・戯曲コンペティション最優秀作品賞を受賞し、2019年に同フェスティバルにて劇団柿食う客によって上演された。今作は神奈川県主催のプログラム公演として 県立青少年センターHIKARIにて上演される。自粛期間中に健康的な生活を送ったら痩せてしまったとのこと。

公演情報

「インテグラルの踵は錆びない ‐13人姉妹のモスクワ‐」のチラシ画像

架空畳
インテグラルの踵は錆びない ‐13人姉妹のモスクワ‐


2020年10月15日 (木) 〜2020年10月18日 (日)
スタジオHIKARI
HP:公演ホームページ

※カンフェティでのチケット取扱はございません

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