東京シティ・バレエ団は創立以来、古典バレエと新しい時代の作品を上演し、様々な芸術の可能性を提示してきた。そんな同バレエ団の中でも特に注目されているのが、ウヴェ・ショルツの作品上演だ。日本初演となる『Air!』(バッハの「管弦楽組曲第3番」による)を含むプログラムは更に注目を集めることだろう。今回は芸術監督の安達悦子、さらにメインダンサーの佐合萌香、中森理恵、清水愛恵の4名にお話を伺った。
“音楽的なバレエ団”にとの想いから始まったショルツ作品の上演
安達「私が東京シティ・バレエ団の芸術監督になるにあたって、このバレエ団を “音楽的なバレエ団にしたい”という強い想いがありました。世界に目を向けると、音楽と踊りが本当に一体になっていて、ダンサーの音の感じ方のセンスに驚かされることが多いのです。美しく踊る、演じることができるというだけではなく、音楽を踊りによって鮮やかに表現できるダンサーを育てたかったのです。そんなときにちょうどウヴェ・ショルツの作品に出会い、彼の作品を通して音楽を身体でどう表現するか、ということをダンサーたちが体現してくれるようになりました」
――― 東京シティ・バレエ団の代表作となったショルツ作品はなぜここまで多くの人を魅了するのだろう。
安達「ショルツは音楽を踊りへと翻訳することに非常に長けた人です。実際、音楽家の方が彼の作品を見ると音符が見えるようだと仰いますね。その調和の素晴らしさが多くの人の心を掴むのではないでしょうか」
清水「例えば、私たちが初めて踊った『交響曲第7番』は、メインダンサーが主旋律、その他のダンサーが伴奏音型やハーモニーを担当するものでした。オーケストラの音そのものがダンサーたちによって視覚的に明確に表現されているのです」
ショルツ作品によって進化し続ける東京シティ・バレエ団
――― ショルツ作品を上演したのは2013年のこと。その時の作品はベートーヴェンの『交響曲第7番』だ。規模が大きく、音楽的にも様々な要素が詰め込まれたこの楽曲は、ダンサーたちに様々な課題と発見を与えたという。
中森「振付をしてくださったジョヴァンニ・ディ・パルマさんからは音楽の大切さを教わり、踊りに対する考え方が変わりました。それまでは “足をもっと高く”などカウントに合わせてどう身体を動かすか……ということに意識がいっていたのですが、音楽に身を委ねることで、自然と理想的な身体の動きになることに気が付きました。」
佐合「ショルツ作品はもちろんですが、彼の作品での経験は、古典や他の作品を踊る上でも活かせるようになりました。“作者はこの音で何を表現しているのだろう”と常に考えるようになりました。踊りに音楽がインスピレーションを与えてくれるような感覚ですね」
安達「実際にショルツ作品を踊るようになってから、ダンサーたちの踊りから音楽との一体感が強く感じられるようになりました。音楽と振付が非常に密接なぶん、非常に踊るのが難しい部分もたくさんありますが、ダンサーたちは常に作品と向き合い成長し続けています。そして同時にショルツの作品は、私たちにとってかけがえのない作品になっているのです」
今回上演される3つの作品の魅力と意気込み
――― 今回上演される中で唯一の再演となる『Octet』(メンデルスゾーンの「弦楽八重奏曲」による)は、愛情や友情が描き出された喜びに溢れる作品である。
安達「チューリッヒのバレエダンサー、ウラジミール・デレビヤンコのために振り付けられたものです。明確な筋はありませんが、人間同士の関わり合いの中で生まれる感情が丁寧に描き出されており、ダンサーの感情が出しやすい作品ですね」
――― 日本初演となる『Air!』はショルツ作品で一番早く初演されたもの(1982年)で、『第7番』や『Octet』よりもさらに音を忠実に踊りで表現しようとする、実験的な意図が見られる作品である。
安達「ベートーヴェンやメンデルスゾーンとはまた違う美しさがあり、ピュアな魅力があります。これまでとはまた違う作品を演じることで、また彼に近づけるのではないかなと思っています」
――― バレエ団にとっての初演となる『天地創造』は、ハイドンの同名のオラトリオ全曲に振付された作品。今回はその中から『パ・ド・ドゥ』を抜粋して上演する。
佐合「これまでのショルツの作品では、純粋に音楽と向き合い踊ってきましたが、今回の『パ・ド・ドゥ』は物語性のあるものを演じることになるので、とても新鮮です。アダムとイヴの夫婦になった喜びをどのように表現していけるか、今からとても楽しみですね」
――― 東京シティ・バレエ団にとっては久しぶりの主催公演となる『ウヴェ・ショルツ・セレクションII』。音楽と舞踊の一体化した華麗なる芸術世界を存分に味わってほしい。
(取材・文:長井進之介 撮影:友澤綾乃)