「水川啓人」という青年の20歳、25歳、30歳を描いた『5 years after』は、それぞれを3人の役者が演じる朗読劇。ただしこの作品には、主人公以外に60もある役を他の2人の役者が演じ、しかもそれが毎回違う組み合わせになるという、聞いているだけで頭が混乱しそうな仕掛けがある。さらにアフタートークとして、素顔の3人が語る時間も加え、既に今年2回の公演が終了。コロナ禍の中で高い評判を獲得した。それに応える第3シーズンが若手実力派の陳内将、武子直輝、長江崚行の三人によって上演される。前回に続いて2度目の登板となる長江と初参加の陳内、武子。役者にとってはなかなか大変なこの作品について陳内と長江に話を聞いた。
――― 三人だけの舞台で、しかも主人公以外の役を、残りの二人が受け持つわけですが、その数が1公演でなんと60役あるそうですね。まるで修行のような作品ですね(笑)。長江さんは昨年の公演に参加していますが、演じてみてどんな印象でしたか?
長江「60役あるので、引き出しが多いことや役者としての経験値が求められる舞台だと思いました。こんな役が巡ってくる機会は今後そうは無いだろうと思って挑戦したのですが、まさかこんなに短いインターバルで僕に回ってくるとは思ってもいませんでした(笑)。今回は他のキャストも変わりますが、そのメンバーでの新しい作品作りに関わる事が出来るのはありがたいと思います。誠心誠意頑張ります」
――― そして陳内さんは前回の舞台を観ていたそうですね。客席からの印象はどうでしたか?
陳内「前回客席で観ていて、役者としての引き出しを発揮する作品だと思ったし、細かい演じ分けについては、自分ならこうするだろうという気持ちが湧いてきました。このときは杉江(大志)君が参加していたんですが、凄く活き活きとして楽しそうに演じていたんです。だから良い舞台なんだろうなという印象がありました。そんなこともあってすぐに、自分がやりたいと意思を伝えたら、すぐにプロデューサーさんから連絡をいただきました」
――― お二人は共演した経験はあるんですか?少し年齢は離れているようですが……
長江「実は初めてなんです」
陳内「年齢は僕の方が10歳上ですけれどね。長江君は子どもの頃からのキャリアがあるから、もしかしたら“長江さん”って呼ばないといけない?(笑)」
長江「いえいえ。リョウキ、って呼んでください(笑)」
――― 朗読劇とはいえ、舞台に三人しかいないのに、都合60もの役が出てくるわけで、お互いの間に生まれるキャッチボールというか、そんなものが必要な気がしますね。
長江「毎日、さらに昼夜で違う役をやるわけですから、その回毎に自分が演じた同じ役を、他どちらかが演じるのを観るわけです。だからそれぞれの解釈の違いとかを舞台上で体験するので、そういったやりとりも大切になるんだなと思います。僕は初演には出ていないので、前回と比べてキャストが変わったことによる変化は初体験。楽しみです」
陳内「普通の芝居と違って、稽古も凄く短期間なんです。だから稽古を通して時間をかけて練り上げることが出来ないんです。それだけに本番中にどんどん進化していくことになると思います。前回、僕が観たのは後半の回だったので、役者にだいぶ余裕を感じたし、遊びを取り入れているのを感じました」
――― 3章それぞれが5歳毎の主人公 “水川啓人”ですが、陳内さんにとっては年下を、長江さんは年上を演じる訳ですね。
陳内「僕はこれまでに中国の国王から高校生まで演じているので(笑)。スネ夫があるから小学生もか。だからあまり役の年齢に違和感とか特別な意識は無いですね」
長江「きっと等身大で演じる事が出来るのは20歳前後かなと思いますけれど、年上を演じる時は憧れの先輩や好きな大人のイメージを持って演じますから、そういった意味での楽しさがありますね」
陳内「偶然だけどもう一人の武子(直輝)君をいれると、実年齢が5歳差なんですよね」
――― 毎回の組み合わせが面白そうですね。さて、ようやく少しずつですが劇場での公演も回復してきたところです。そんな今年を踏まえて、楽しみにしているお客さんにメッセージをもらえますか?
陳内「ほんの1年前だったら気楽に出かけられた劇場も、今では少し行きづらい場所になってしまいました。ただそのお陰で劇場だけで無く配信も沢山やれるようになって、劇場に来ない選択をしても楽しめる時代が来たと思いますし、沢山のお客さんが僕達をいろいろな形で支えてくれているのは伝わっていますから「劇場に行けなくてゴメンナサイ」とは思わないで欲しいんです。目の前のお客さまが五割だとしても、その奥にもっと多くの皆さんがいることはわかっていますから、いつかまた気楽に劇場に来れるようになったら思いきって楽しみましょう。それまでは今できる精一杯を一緒に楽しめたらと思います」
長江「劇場や公演に“行く/行かない”では無く“行けない”が生まれた2020年でしたが、いつかはそれが無くなる日が来ると思います。それまで僕達が出来る事は演劇を続けていることしか無いと思いますので、その日まで、お互い元気にいたいです」
――― 本編の後に間髪入れずに始まるアフタートークも、司会のプロデューサーさんがリードするそうなので凄く面白くなりそうですね。楽しみにしています。
(取材・文&撮影:渡部晋也)