演出家・和田憲明が見染めた作家の作品を、見染めた役者達と舞台へと押し上げていく。演劇プロデュース・ユニット「、ウォーキング・スタッフ」は現在の演劇界の中でも、そんな態度を貫く、ある意味で生真面目なユニットだといえるだろう。濃密な人間ドラマを得意とする中で、今回は牧田明宏による『岸辺の亀とクラゲ-jellyfish-』を取採り上げる。和田と、主要な役どころを演じる岡田地平、阿岐之将一の二人に話を聞いた。
――― 演劇界にはいろいろ色々なスタイルの演出家が活躍していますが、和田さんはその中でも、役者に対して独特の関係性を求められますよね。
和田「関わり方はそうですね。どうしても自分に合う役者を探したいんです。自分が手がけた芝居の出来は役者の演技次第だと思っているし、その演技も、自分が良いと思っているやり方をしてくれないとダメです。僕が欲する演技を、稽古の段階からやってほ欲しい。それが絶対必要です。そうしないと発想が生まれないんですよ。だからキャスティングの時は事前に会ってみて、いろいろ話してみるんですね。一昨年の『さよなら西湖クン』ではそこを結構しっかりとやりましたが、そういうことに付き合ってくれる役者を探しています」
――― ということは、今回出演される岡田さんと阿岐之さんはそれをクリアしたという事ですね。もっとも岡田さんは先ほど出た『さよなら西湖クン』にも出演されていました。和田さんの印象を聞かせてもらえますか。
岡田「実はその前にも1本、朗読劇があるんです。和田さんが凄いなと思うのは、絶対に諦めないところですね。いろいろな演出家がいますが、稽古から本番への段階で、どうしても上手くいかない場合、その方法論を捨てて切り替える方もいらっしゃるんですが、和田さんはそれをせず、トコトン向き合い続ける。さらに僕自身が芝居に対して欲している部分を、しっかり見抜いてくれています。それは自分の成長のために有り難いなと思います」
――― 阿岐之さんは初めてですか?
阿岐之「ええ。でも作品は何本も拝見しています。本当に隙が無いというか、人間が生きていてそこにいて……もうずっと面白いんですね。その世界観に惹かれて、いつかはご一緒してみたいと思っていました。僕は新国立劇場の研修所出身なんですが、同期の岩男海史くんが和田さんの舞台に出ていて、稽古の様子は聞いていましたから、かなりの緊張感は覚悟しています。面談はもう3回くらいしています。演技論が明確で、だから高いクオリティがあると思うんです。“演技“という曖昧なものに対して、ちゃんとした定義づけがあってブレがないんです」
和田「阿岐之くんは僕の作品にそもそも興味を持ってくれていたのはわかっていたし、話していていろいろ色々話せた。これが大きかったです。まあ正直に言うと、役者を選ぶ時に、役のイメージも大事ですが、それ以上に僕と会うかどうかが滅茶苦茶大きいんです。今回なら30歳前後の男性を探すわけですが、要はいい芝居が出来るかで。ともかく相性がいい相手と組みたいです」
――― ところで、今回の『岸辺の亀とクラゲ-jellyfish-』は和田さんがちょうど10年前に演出された作品ですが。
和田「僕は過去に観た作品や演出を手がけた作品で、良いなと思っているものは状況が許されるなら何度でもやりたい、いつも再演したいと思っているんです」
――― 元々は劇団明日図鑑の牧田明宏さんが2006年に初演した作品でした。
和田「ええ、僕がシアタートップスのスタッフだった時代に上演したんです。当時、牧田くん君ともよく話しをしていて、トップスでも明日図鑑の作品を何本か上演しました。その中でも好きな作品です。オリジナルを観て感心して自分が作り直してみたくなったんです。でもやってみたら頑張れたところもあるけど、そこまで行かなかった部分もありました。気に入った作品を手がける以上、自分で演出しても凄いと思いたいのだけど、その時は勝てたとは思えなかったので、もう一度やりたいと思っていたんです。それにしてもよく出来た脚本ですよ。オリジナルを観た時に役者さんがよく見えましたから。そういった脚本はよく出来ているものなんです」
――― 皆さん照れるかも知れませんが、和田さんの熱意と、お二人の緊張が混じり合ってここまで伝わって来ますね(笑)。それにしても世界的なコロナ禍で演劇もなかなか厳しい状況に入っています。それにもめげずに取り組む気持ちを込めて、メッセージをいただ頂きたいのですが。
阿岐之「ある先輩がこんなツイートをしていました。江戸時代に不治の病にかかった人が通い詰めたのが芝居小屋だった、死への恐怖を忘れられる薬のようなものだった、だから演劇はこういう世の中にこそ必要だと思う……そんな話を演劇関係者ではない方から言われて感動した、と。それを読んで僕もそうであれば良いなと思ったんです。今起こっている大変な状況は演劇で解決はしないけど、人々が劇場や演劇に求めるものがあると信じるしかないと思うんです。
この作品は生々しい質感がある脚本に、憲明さんの生々しい演出が加わりますから、お客様が実際に劇場に来て体験する醍醐味が詰まった作品になるでしょう。そして僕たちもそこを目指したいです」
岡田「話がうまいよなぁ。いつも感心するんです(笑)。まさに彼の言うとおりですね。この状況の中で心を病んでしまう人も多いですが、是非生きている人間達を、皆さんにも“生きて”観に来てほ欲しいですね」
――― 和田さんは社会状況がどうあれ、マイペースに演出に集中するタイプですか?
和田「いや、凄く気にしますが、気にしだすとダメになるので、気にしないようにしているんです。さらに怠け者だけど怠けると止まらなくなるので、怠けないように頑張るし。だから出来る限りのことをしようと必死になるだけです。
でもこの騒ぎで『芸術や芸能、娯楽が不要不急休か?』などと盛んに論じられましたけど、僕は昔の名残なのか、自分のやっていることは不要不急だと昔から思っていた気がします。だからこそ余計に自分のベストを尽くさないと観客に観せる価値がないという強迫観念が働いてます。今回は一層それが強いですね」
(取材・文&撮影:渡部晋也)