鉄道の路線を擬人化した人気漫画の舞台化である、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』、通称“鉄ミュ”もシリーズ第4弾を迎える。独特な世界観設定と、エネルギッシュな空間。過去作を観劇していなくても楽しめる構成に、いつの間にか鉄道たちのファンになる中毒者が増え続けている。2020年7月に予定していた上演は残念ながら延期になったが、ついに2021年2月、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』4〜九州遠征異常あり〜として上演が決まった。
それに先駆けて、スピンオフとなった公演である、ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』〜すべての路は所沢へ通ず〜(2019年5月)とミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』コンサート Rails Live 2019(2019年9月)のビジュアルコメンタリー配信も決定している。今回は、シリーズ第1弾から出演する永山たかし(東海道新幹線役)、郷本直也(高崎線役・都営三田線役)、森山栄治(秩父鉄道役・都営浅草線役)に第4弾に向けて意気込みを聞いた。
上演決定! 新作の楽しみや、稽古場の様子は?
――― 延期されていましたが、ついにミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』(以下、『鉄ミュ』)の上演が決定しました!今回楽しみにしていることはなんですか?
永山「まずは、こういう状況で公演ができることがとても楽しみです。個人的には僕と同じ“新幹線”役がすこし増えるので、やれることの幅が増えるのが楽しみですね。新しく『鉄ミュ』に参加するキャストも多いですが、みなさんピッタリですよ」
郷本「僕はひさしぶりに森山さんとしっかり共演できることかな。森山さんとは最初に知り合った作品では、(ある意味)ライバル役としてもっとも共演していたので、今回似たような絡みがあるのがかなり楽しみです」
森山「すごく絡みますよ。8割方、俺と直也がしゃべってます」
郷本「……ウソつけ!」
永山「わかんないウソはやめなさいよ(笑)」
森山「(笑)。まぁ直也とも永山さんとも第1弾以来の共演なので、みんなにひさしぶりに会えるのが楽しみですね」
郷本「最年長として『おまえらちゃんと成長してるか?』みたいな目線もあります(笑)?」
森山「それはまったくない。むしろ、みんなすごくプロ意識が高くてビックリした。コロナ禍の影響で稽古場では雑談もなくて黙々と稽古してるし、台詞を覚えるもの早い。他の現場もやりながらの人や、他の本番で稽古に遅れて参加してくる人も、ちゃんと台詞を覚えてから稽古に来るんだよね」
永山「不思議ですよね。忙しい人ほどちゃんと台詞を覚えてる」
――― 稽古はどんな様子でしょうか?
永山「密にならないようにしているので、他のシーンがどういう雰囲気かはまだわからないんです。でも、初めて参加する方がどうやって役をつくっていくのかを見ているのが楽しいですね。僕と共演シーンの多い山陽新幹線役の八神 蓮くん……王子、ですね。王子は今回初参加ですが、稽古の初めの頃は、まだ路線の関係性が理解できていないから『意味がわからないんだよね〜』と言っていました。僕も最初はそうだったなと、同じような段階を踏んでいるのが面白い」
郷本「すごくわかる。この作品って、良くも悪くも一回やってみないとわからない。最初は“鉄道路線の擬人化って!?”と混乱するし、どういうふうに受け入れたらいいのか真面目に考えるんだけど、やってみると、雰囲気でやっていいんじゃないか?と思うんですよね。稽古を通して“みんなが楽しくやっていくことが正解なんだ”とわかっていく。たぶんキャスティングの段階で、役にはその俳優のタイプが反映されるようになっているから安心していいんですよ。
勘のいい役には勘のいい俳優がキャスティングされているし、真面目に役作りについて考え込むタイプの俳優さんなら、それがそのままキャラクターになっていくだろうし。“自分のやり方はこれでいいんだ”と思った時点で馴染んでいくのが、『鉄ミュ』の現場の良いゆるさだよね」
永山「王子も、本人のふわふわしたマイペースなところが役にすごく合ってる。彼は“間に入る”ということがすごく上手だから、一緒にやっていて心地いいですよ。僕との掛け合いはとてもいいバランスになるんじゃないかなぁ」
森山「直也と俺が共演する河合の龍ちゃん(河合龍之介)も『鉄ミュ』初参加なので、いい風を吹かせてくれるんだろうね。稽古場ではいろいろやってくれようとしてるんだけど、まだ俺が自分のことでいっぱいいっぱいで龍ちゃんのことまで目が行っていないんだけど……」
郷本「今回、森山さんと僕は一人2役で新キャラを演じますけど、新しいキャラクター(の都営浅草線)では森山さんはリーダーポジションだからよくしゃべるし、ずっと場をまわしてるので忙しいですよね。稽古場では『ああでもないこうでもない』って言いながら、稽古時間をオーバーするくらい細かく詰め込んでやっています」
森山「演出の川尻(恵太)さんから『尺が長いので削っていきます』と言われたんですけど、いざ稽古に入るとどんどん尺が伸びていくんですよ」
永山「わかる〜! わかる〜! いつもそうだよね。『この場面、いる?』って話しながらも、川尻さんが面白がってどんどん足していくんだもん。稽古がものすごく面白いから、その様子をお届けしたいですよ。日の目を見ないことばっかりやってる(笑)」
郷本「もったいないですよね。“ずっと毎日記録をとっておけばいいのに”“なぜ特典映像に入れないのか”って思うくらい、稽古場でうまれることがめちゃくちゃ面白いんですよ」
森山「稽古場でうまれて、稽古場で死んでいくものが多い」
永山「そう、死んでいく(笑)この前も、川尻さんが『何かのときに変更できるように』って、高橋優太くんに“日の目を見ない3つの代案”を渡していましたからね。世に出ないことが前提なの」
初演から6年。その変化と軌跡とは?
――― ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』は6年目を向かえますが、第1弾から参加してきたからこそ、感じる変化はありますか?
永山「もう6年か! 同じ役をこんなに長くやることはないので、いつの間にか最長です。最初は、原作をどうやって大切にお客様にお届けするかを迷っていたんですよね。感情のやりとりで成立しているわけじゃない展開や会話をどうやって芝居で成立させるかを悩んでいました。たぶん、今回初参加の人はそういうことで悩んでるんだろうなぁ。僕が“楽しんでやればいいんだ”って思えるようになったのは、第3弾の時かな」
森山「俺も初演の時は不安があったし、“この面白さを伝えるためにはいろいろつじつまが合わない”と思ってなんとなく一本の線にしようということをしてた。たぶんお客さんも初演の頃は、いったいどういう作品なのかわからないまま観ていたんだろうな。でもある時、『鉄ミュ』って成立させちゃいけないのかなって気づいたんだよね。というのも、俺は第2弾公演(ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』2 〜信越地方よりアイをこめて〜)には出演せずに第3弾公演(ミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』3〜延伸するは我にあり〜)に出たのですが、間が空いた分、舞台に出た時の客席の反応が全然違ったんですよ」
永山「そうだった! 第2弾、第3弾とすごく変わっていったんだよね!」
森山「本当に、びっくりするぐらい変わってた。ちょっと会わなかった甥っ子が一気に20センチくらい身長がのびてたみたいな感覚。“こんなに成長するんだ!”っていうくらい、舞台とお客さんが一緒になっていたんです」
郷本「雰囲気が変わりましたよね。僕も第2弾には出ていないから、第3弾でだいぶ空気が違っていたので驚いた」
森山「第2弾公演の時に何かが起きたんだなって思ったよ」
永山「乗客のみなさま(観客)の温度感が変わったんですよね。なんで変わったかというと、みんなが誰かに優しい作品だから、どんどん楽しくなっていったんだと思うんですよ。俳優も演出も、たとえば“この人を良く見せるためにどうしたらいいか”みたいなことをすごく考えてたりしてる。誰もが誰かに対して優しい……その集合体がミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』という舞台。関わる人それぞれが持っている“なにが愛なのか”みたいな部分が、作品の良さになってるんじゃないかな」
森山「そう、とくにお客さんの成長が著しかったですね」
永山「長く続けさせてもらっているシリーズだから、作品も育ってきていますよね。初演だけで終わっていたらこんなに楽しい現場にできなかったです」
郷本「今の、年に1回のペースがちょうどいいんじゃないですかね。毎回全員が出るわけじゃないから、新鮮ですし」
――― 初演から6年間の間で、思い出深いできごとといえばなんですか?
永山「山ほどありますね。初演の時に直也と滝川英治と三人で飲んで『ああでもないこうでもない』と朝まで話したこととか」
郷本「よく覚えてますね」
永山「作品のなかにも優しさが詰まっているシーンが多いのも好きです。あと、KIMERUの存在は大きい。みんなで彼を愛でる現場が面白いんですよね」
郷本「僕は高橋優太くんの変化かな。久々に第3弾に出演した時、“彼になにがあったの!?”というくらいフィーチャーされていて印象的でした。あとはやっぱりKIMERUですね。稽古場でKIMERUが発言したらみんな一瞬だけ固まって、『KIMERUがそう言うからそうしよう』となる。そうなる流れを作っていった稽古場の空気がめちゃくちゃ面白い。KIMERUの発言力や存在力が稽古場を牛耳っていて、それを全員が理解しているというのはすごいです」
永山「そうなんです。あの稽古場はKIMERUの言うことが絶対なんです。ダンスの振りがわからなくなったらKIMERUに聞く。KIMERUが間違っていても『KIMERUが言うからそうしよう』と変わる」
郷本「それありますね。しかもお客さんも、永山さんが座長だということはわかりきっているうえで、KIMERUは絶対の存在。これから観る方々も、恐れずにKIMERUさんを信頼して、"KIMERU狂"になってください(笑)」
――― では最後に、上演準備を進めているなかでの今の率直な気持ちと、乗客(観客)の方々へメッセージをお願いします。
森山「当初、夏前にやる予定だった上演が延期になって、次にできるのは1〜2年後かと思っていました。でも今回の公演が決まって、気持ちが高まっています。久々にみんなと会えるし、新しい役も演じられるので、みんなと協力して素敵な『鉄ミュ』を届けたい。(劇場に来られない方もいるので)配信もあるといいな。どうにかこうにか観ていただけると嬉しいです」
郷本「『鉄ミュ』はなにも考えずに観て、一緒にその空気を味わって楽しんでいただける作品です。『なんだかわからないけど楽しかったね』と帰っていただければ嬉しい。もちろん配信があれば映像で観てもその楽しさは伝わると思いますが、僕としては、せっかく劇場で上演ができるので、大変だとは思いますが観に来ていただけると嬉しいです。
やっぱりいまだに『ぜひ足をお運びください』と言いたいんですよね。今、この状況で、いろんなことがあるのはわかってる……わかったうえで一緒に楽しむんだ、というのがエンターテイメントだと思うので、ぜひとも楽しんでいただきたい。『鉄ミュ』は、みなさんの日頃のうっぷんを晴らせる作品ですから」
永山「そうですね。本来なら夏に各都市に行って公演する予定でしたが、今、なんとかこうやって上演できるように準備しています。東京だけしか上演できないのは申し訳ないですが、どの地域の方にもなんらかの形で届けられるものがあると信じてやっています。それを、みなさんそれぞれのなんらかの形で受け取ってもらえたら嬉しいです。
新キャストにも鉄道を身近に感じてもらえるように僕たちも働きかけたいし、初めてミュージカル『青春-AOHARU-鉄道』を観るお客様達にも、観劇後、新幹線に乗るときに僕のことをちょっと思い出してくれたら嬉しい。そうやってふだんから寄り添える作品なので、いつでも僕らがそばで応援していることを感じてもらえたら意味があるなと思います。最初から最後まで無事に走りきるのを、みなさん、どういうかたちであれ寄り添っていただけたら嬉しいです」
(取材・文:河野桃子)