2012年に初演され多くの支持を集めた人気探偵コンビが9年ぶりに復活する。自称「予知能力の達人」御堂筋海老蔵と、自称「変装の名人」諏訪蟹子のグズグズ探偵コンビが一癖も二癖もある犯人を追い詰める!連続ドラマのような1時間1話完結型で4つの事件を描く上演形態と、ドラマ「古畑任三郎」のような最初から犯人が明かされる倒叙ミステリーは新しい形式の演劇体験を提供してくれるはずだ。主宰の松本陽一、主演の椎名亜音、藤堂瞬の3人に公演への意気込みを聞いた。
是非、ドラマ要素も楽しんでもらいたい
――― 2021年第一弾となる春公演は9年ぶりの人気探偵シリーズです。
松本「今回は2012年に初演したものに2話を書き足して、1時間で完結する物語を4作品(1ステージ2話ずつ)で上演する予定です。一言でいうといわゆるテレビドラマ風の探偵物語ですね。椎名が続投で諏訪蟹子の役を演じて、前回別の役だった藤堂が初めて御堂筋海老蔵を演じます。テレビドラマ『古畑任三郎』の様に、最初に犯人が知らされる倒叙法で展開します。すでに告知でも犯人役を発表しています。
犯人が分かっているので、どう事件が解決されるか?というギミックを作るのがとても難しいですが、舞台ではあまりない手法なので、面白い仕掛けになると思います。
探偵像にも色々あると思いますが、この海老蔵と蟹子は一番底辺。自称『予知能力の達人』と、自称『変装の名人』という触れ込みを持つ2人ですが、どっちもそんな才能は一切なくて、明日の食い扶持にも困る2人が金にならない事件に巻き込まれていくというストーリーです。
犯人が分かっていることで、ドラマ要素も楽しめると思います。犯行動機の背景を描けるのもこの方式の面白いところかもしれないですね。普通にミステリーをやってトリックを解くだけではつまらないなというのがあるので、そういうドラマも楽しみにしてもらえればと思います」
わず犯人を応援したくなる
――― 客演の方々も多くにぎやかな作品になりそうですね。
松本「今回は犯人ありきでキャスティングしました。第1話の犯人役、松木わかはさん演じるOLがなぜ地下鉄ジャックをしたのか?神谷未来紘さん演じる人気イタリアンシェフがなぜ殺人を犯したのか?など、ゲストが演じる犯人と田村正和さん演じる古畑任三郎がどう対決するのかというあの感覚を舞台でも楽しんでもらえたらと思います」
椎名「犯人を応援したくなる瞬間ってあるじゃないですか。疑惑を切り抜けたと思ったらまた古畑が戻ってきたみたいな(笑)。たまにそういう時に古畑を憎らしく思う事もありましたね」
松本「確かにあるよね。第3話の図師光博さん、七海とろろさん演じる犯人は売れない大道芸人と人生を諦めた風俗嬢という社会の底辺に暮らす人間なので、そういう感情移入もあるかもしれないよね」
椎名「それって底辺 VS 底辺になりますね」(一同笑)
椎名「前回は6か月ぶっ通し連続公演で色んな演目をやっていたので、正直あまり覚えていませんが、再演作も含めて新作のつもりで演じようと思います」
藤堂「初演では別の役で参加していましたが、9年後にまさか自分が主役の海老蔵を演じるとは思いもしませんでした。魅力的な役ですし主演なので気合は入っていますね。犯人と対峙する瞬間をどう演じるか。一応、頭脳明晰?な推理を展開するので今から楽しみです」
松本「洋画の『刑事コロンボ』でもそうですが、すべての情報をお客さんに提示した上で「さあ、解けますか?」というミステリーのルールを敷いているんですね。本作でも解決へのキーワードを作ってあります。それは物だったり、言葉だったり」
椎名「松本陽一の作品はシリーズものがないので、登場人物はその作品の中にだけしかいないのですが、この海老蔵と蟹子は別の作品(0:44の終電車)にも登場したことがあって、いつかこの2人を主人公にした作品を書きたいねと話して出来たのが2012年の初演になります。だから6番シードの中でも異色の作品ですよね」
松本「コンビというのが面白いよね。漫才の掛け合いというかグズグズな感じで」
椎名「探偵が1人だとだいたいスーパーマンみたいになるじゃないですか。だけどコンビだとどっちも欠点があって、それをお互いに補うシステムがいいなと。やり取り見てれば分かりますがホント駄目な奴らなんですけどね。家賃が払えなくて事務所を追い出されて公園で暮らしたこともあるぐらいですし(笑)」
松本「タイトルはカッコ良くて気に入っているんですよ。直訳すると茹でた海老と蟹ですが(一同笑)。イメージとしては2人が顔を真っ赤にして走り回るみたいな。ミステリーコメディというジャンルはあまりないので、両立できる稀有な作品になると思います」
本格的オープニングムービーを公開
――― 今回の新要素はありますか?
松本「あります。映画監督の山岸謙太郎監督にお願いをして、オープニングムービーを作ってもらいます。それを事前に公開していく予定です。イメージとしては『傷だらけの天使』や『探偵物語』のような結構カッコいいものになるので是非楽しみにしてもらいたいです」
椎名「これは大ごとになってきましたね」
藤堂「昨年、僕らはコロナ禍でも少なからず公演を打てましたが、冷静に振り返っても大変な時代でした。それを経験して思うのは、やっぱり楽しまなきゃダメだなって」
松本「それは確かにあるよね。やるからにはPVも映画のクオリティまで持っていきたいし、お客さん含めて楽しんでいこうぜという色は強く出る作品だと思う」
藤堂「出演する側からしても楽しみで仕方ないです!」
松本「加えて、こういう1話1時間の作品を組み合わせる上演方式もお客さんにとって新しい観劇習慣になるかもしれないね。4話連続の日もあったりして」
椎名「え、待って。4時間上演するのヤバくない!? マチネ(昼公演)・ソワレ(夜公演)はあるけどもぶっ通し4時間はヤバくない!?」
松本「早く帰れるよ」
椎名「いや、そういう事じゃないですよっ! 私は変装の名人という設定からとにかく着替えが多くてただでさえ大変なのに。4時間分の衣装は大変なことになる……」
藤堂「舞台袖がぐちゃぐちゃになりそう」
椎名「あ、そういえばこの年になってもう一度女子高生の制服を着るだった! これはまずい!」
松本「是非、椎名君のコスプレ衣装も楽しんでください」(一同笑)
今年も新しいチャレンジを
――― 今年の最初を飾る作品ですが、決まっている目標はありますか?
松本「新しい事にチャレンジする1年になります。秋の演目も今までにない事をやってみようと構想を練っています。新しい風を吹かせる1年になりますね。昨年はコロナ禍で出来うる限りの対策をした上で公演を打って、この世界がずっと続いたとしても演劇は出来るという自信がつきました。この先どうなるかは神のみぞ知ることなので、僕らはその先にある娯楽の種まきをしっかり出来ればいいと考えています。結果収束して元通りになるのが一番ですが、コロナ禍で閉ざされてしまった皆様の心の扉を開放するような作品を創っていきたいですね」
――― 最後に主演のお二人から読者にメッセージをお願いします。
椎名「痛快で観ている方もガッツポーズをしたくなるような、やってやったぜというような何かおかしな方向からくる変化球みたいな。それでいてナニコレ楽しい!と思ってもらえる作品にします!」
藤堂「色んな要素で楽しめる作品かなと思いました。ミステリーやコメディー、ちょっとした二人の掛け合いや個性豊かなキャラクターなど。どの視点から観ても楽しめる作品にしていけたらなと思っています。その中で特に主演2人が良かったねと言ってもらえるようにしっかり頑張りますので是非皆様のご来場をお待ちしております!」
(取材・文&撮影:小笠原大介)