Toy Late Lie主宰の萩原成哉が作・演出を手がける最新作が上演される。誰が嘘つきでどれが嘘なのか、嘘と嘘が交わった時、そこに真実が? この時代だからこそ生まれた守るべき存在と守る者、そんな関係性を深く描く群像劇。作品を代表して、萩原成哉と出演者の遠藤瑠香、秋葉友佑に話を聞いた。
息を吐くように嘘をつく物語
――― とても意味深なタイトルですが、この作品が生まれた背景にはやはり……
萩原「このコロナ禍の影響はかなり大きいですね。息をするのも苦しい時代でマスクを長時間していなければいけないその中で、いろんな嘘が世の中に出回っていて、どれが本当か何を信じていいのかわからない状況。主催ですからコロナについては色々調べて詳しくなりましたが、でもそれが本当か分からない。嘘が蔓延している世の中で、僕たちも生きていく上で嘘をついているんだろうなあと思ったんです。
人を不幸にする嘘である必要は全くないと思っていますが、身近に嘘がいっぱいあって、息を吐くように嘘をつく。それが正当化されない物語になったらいいなと思っています」
――― 具体的にどのような物語になるのでしょうか?
萩原「守るべき存在と、守る人。そういう立ち位置の関係性を深く掘っていける話になったらいいなと思っています。弱者と呼ばれる事のある人の周りには必ず悪意のある人が寄ってくると思っていて、友佑(秋葉)が演じる役はいろんな人が寄ってくるので嘘をどんどんついていくんですけど、瑠香(遠藤)の役は嘘で塗り固めていて、その嘘をかいくぐって行くみたいな役。
友佑は生きることに対して強いイメージが僕の中にはあって、それとは全く逆の弱い者に持って行きたい。それに対して瑠香というこの器をさらに大きい存在にできたらいいなと。
僕が観てきた瑠香は弱い役を演じていることが多いのですが、そうではなくて、前回の作品ではっちゃけた役を演じてもらったので、今度は芯のある役をやってもらおうかなと」
――― それを聞いてお2人はいかがですか?
遠藤「率直に嘘ってどうやってつくんだろうって思いました」
萩原「難しいよね、つこうと思って嘘をつくことは余り無いよね」
遠藤「さらっと言える嘘って何だろうと。試行錯誤しながら真実っぽい嘘、嘘なのか真実なのか、分からないところを狙って行けたらいいのかなあと、今のお話を聞いて思いました。
自分をガードすること、嘘で自分を守っているということだと思うので、自分なのか相手なのか 守りたい人なのか。生きづらそうな役になりそうですよね」
秋葉「僕自身も普段から小さな嘘をついていると思うんです。それをこの作品で気づかされ、こんな感情もあったんだと目の当たりにしたり、何も感じていなかったところが舞台によって露わになるのはちょっと怖いですね」
萩原「そこを掘り下げたいと思っています」
楽しく作品作りができる
――― 今回の作品は今の所役名がないという事ですが、萩原さんは、役者たちの普段の接し方や以前の出演作からのインスピレーションを役に投影していく感じなのですか?
萩原「僕の場合は見たことがないものを見たい人間なので、Toy Late Lieだからこそ自由にできることがあるので見たことがない二人を引き出せたら、といつも思っています。特に友佑に関しては毎回何かしら挑戦をさせたいと思っていて…」
秋葉「得意なものを封じられるんですよ。“叫ぶことを禁止”とかピンポイントで」
萩原「感情の表現の仕方で制限を与えることが多いですね。今回は身体に不自由がある役どころです。世の中から弱者と見られる部分を持っている人間を友佑がどう演じるか、それが今回の挑戦になるのかな。そしてその人間を守る役を瑠香がどう表現するのか、そこも見所だとも思いますね」
―――2人にとって、Toy Late Lieカンパニーの印象は?
遠藤「私は以前出演してすごく楽しかった!という印象です」
萩原「瑠香があんなに楽しそうにしていたのを初めて見たし、終わった直後に『次私は出ないんですか?』と言ってくれて、その場でお願いしますと」
遠藤「そうなんです(笑)このカンパニーはマチソワの間にキャストが集まって人狼をやっているんですよ。普通はそれぞれ休憩をして次に備えますよね。そんなカンパニーがとても面白くて作品もほっこりしていて、楽しく作品作りができた印象があります」
萩原「今回は皆嘘をついているのでギスギスするかもしれないけど(笑)」
秋葉「それこそ人狼ですね(笑)」
遠藤「次は嘘で固められるそうなので、仲の良い座組の中で遠慮なくだましていこうかと」
秋葉「僕はなるくんとの縁は6〜7年ですが、劇団公演は2回目。僕のできないことを広げてもらったり準劇団員みたいな感じです。今回もミザンス(ステージ上で演技する立ち位置)がついていないのですか?」
萩原「そうだね、僕はミザンスをつけない事があるのですが、今回もあまりつけない予定。舞台セットはシンプルなイメージなので、その中で生きていてくれればいいかなと」
秋葉「僕はなるくんにルールだけ決めてもらう演技方法を何度かやらせてもらっていて、そこで発見があったりすごく成長できたので今作も楽しみですね」
――― とても充実した座組を感じます。では2人から、なるさんあるあるをお聞かせください。
秋葉「いつもおつまみみたいなおやつを買ってきますよね、イカとか小魚とか」
萩原「そうそう(笑)何か食べてないと演出できないんですよ。イライラしないように噛んでいます。友佑はいつも季節の物を机に置いてくれるよね。この間は節分の豆が置いてあった(笑)」
秋葉「鬼のお面と一緒に(笑)」
遠藤「なるさんはゲラでずっと笑っていて(笑)。たまに席から離れて笑い転げていたり、見ていて面白いです」
秋葉「あるね!」(萩原爆笑)
萩原「自分の作品が大好きなんです。僕が誰よりも作品を楽しんでいて一番笑ってる。だから僕を笑わせて役者たちは自信を持って本番行くんですけど、俺が笑うところではお客様は笑わないので、みんな面食らうという」(全員爆笑)
秋葉「そこの感覚は分かるようになってきましたね(笑)」
遠藤「この座組のムードメーカーは間違いなくなるさんですね」
僕たちが生きていくためにも、違う形のものを演劇として作れたら
――― 萩原さんから、お2人の魅力を教えてください。
萩原「瑠香はお芝居している時に何も隠さないんです。今時の女優さんにはあまり見ないタイプで、取り繕わずさらけ出すことができる女優さん。いるだけで華があるのにそういうこともしちゃうのみたいな、そんな驚きをくれるからいろんな役を見たくなる、とても大事な存在です。
友佑は付き合いが長いので今更ですが、感覚が僕と一緒なんです。僕が笑っている時は彼も笑っていて、プライベートででも仲良いですね。実は見たことがない部分はあまりないんですよ。だからこそ僕が知らない所に挑戦させたい部分があります。色々淘汰される中で僕たちが生きていくためにも二人で違う形のものを演劇として作れたら、そんなところを目指していくためにお互い成長しようよっていう、そんな存在です」
秋葉「僕が2.5次元作品で経験してきたものや小劇場系とか、いろんなディスカッションができるのでそこは面白いですよね。あと、いい台詞を聞いて鳥肌が立つ感覚が一緒で、それも面白くて」
――― そして今作の注目ポイントとして、楽曲のクレジットがございます。歌が聞けると?
萩原「織田智朗が担当します。ボーカルグループaoiroのメンバーですが、僕が以前から曲を提供してもらっていて、今回も織田君の書き下ろしでテーマ曲を書いてもらいます。物語に華を添えてくれる曲ができると思います、楽しみにしていてください。それこそ瑠香が出演した『ふつう(仮)』を観てくれて決まった縁なんです」
遠藤「そうなんですね!新曲が待ち遠しいです」
――― さらに過去作の出演者が集結する部分も見どころですね
萩原「はい。過去ToyLateLieに出演してくださった方が全員集まってくれます。未経験者が一人もいないことは初めてですし、また出演してくださる、これはとても嬉しい事です。僕も楽しみですしきっとお客様もお楽しみにできる部分と思っています」
――― では最後にメッセージをお願いします
萩原「ToyLateLieとしては新たな挑戦の舞台になります。最近、心情を描く作品をあまりやってこなかったのですが、こういう時代が来て僕の中で提示したいものがまた出できたので、それをぶつけることができる作品を新体制になってから初めてやります。劇団員も含めてゲストの皆さんに引っ張ってもらいながら、劇団の挑戦として新たに頑張っていけたら」
秋葉「嘘や生きる事をテーマに、心を揺さぶる様な何かを伝えたいです。どんなに時間が経っても心に刺さって残っている、そんな作品を作れたらいいなぁと思っています」
遠藤「生きづらい世の中で、この先もわからないまま生きていかなければいけないですよね 。そこに嘘をつく世界観をお客様にどう届けるのか、私も大きな挑戦となりそうです。精一杯、作品に身を捧げたいと思います」
(取材・文&撮影:谷中理音)