日本で唯一の宇宙モノ専門エンターテインメント演劇ユニット「宇宙食堂」。2年ぶりとなる最新作は、宇宙の環境問題にいち早く着目。スペースデブリ(宇宙ゴミ)をモチーフに、ぶりっ子なAIヒューマノイドロボットに恋した男と、何かが足りない旅人たちが宇宙で“愛”を探す姿を描いていく。作品を代表して、主宰にして脚本・演出の新井総と、W主演の長濱慎、上田操に話を聞いた。
宇宙ゴミも人の想いが入ることによって変わっていく
―――2年ぶりの新作、そして愛がテーマの物語とのことですね。
新井「テーマは愛ですが、モチーフとしてはスペースデブリ、宇宙ゴミが出てきます。コロナの影響で世の中がちょっと下向きになり、気持ちも閉鎖的になっていくので、自分たちの周りを見るきっかけみたいな作品ができたらいいなと。宇宙旅行に行って一歩踏み出そう、そんな物語です」
―――タイトルから、とてもコミカルな印象をうけました。モチーフのデブリという存在はずっと気になっていたのですか?
新井「宇宙は夢のある未来の最先端の場所というイメージがありますが、今、宇宙開発に関して宇宙ベンチャーがどんどん出てきて、夢の場所から割と身近になっています。携帯やスマホがGPSを使い宇宙と交信することが普通になり、現実が色々見えてくる時代になってきていると思ったんです。そうなった時に、実は宇宙にも環境問題があって、ロケットや人工衛星がどんどん打ち上がる裏でゴミ問題が勃発しているという現実がある。少なくても1億個ぐらい飛んでいるのですが、増え続けるとロケットや人工衛星の事故に繋がりかねないんですね。そういう現実を知ってほしいという想いが一つありました。
でも宇宙ゴミってすごく相反するもので、スペースデブリってなんだかかっこよく聞こえますよね。夢のある場所にゴミがあるということが僕的にすごくピンとくるものがありました。
デブリはもともと破片やチリくずという意味で単なる宇宙に飛んでいる破片なんだけど、そのスケール感が面白いなあと。顔合わせの時に少し話しましたが、人によって価値観が違っていて、ただのゴミでも大好きな人がくれた物でビー玉1個でも貝殻のかけらでも、そこに想いが入ることによってダイヤモンド以上の宝物に変わっていく。そういう気持ちの転換による物の価値が変わる様がすごく素敵だなと思って、そこにスペースデブリを合わせて宇宙に飛んでいるゴミも人の想いが入ることによって変わっていく。それが今回のテーマにピッタリだなぁと思って」
―――デブリも誰かの思い出かもしれない、ということですね。
新井「そうなんです。そこに上がるまで携わった人は何百人といるはずなんです。割とタイトルがはっちゃけていますが、内容はとてもヒューマンな物語になります。“スペースデブリの子”という意味と、“宇宙でぶりっこ”を掛けています」
―――それを聞いてお2人はいかがですか?
長濱「僕らが宇宙に行けるのも近い将来叶うんじゃないかと、本当に宇宙が身近になってきたと感じますよね。科学や技術は変わっていきますが、でも変わらないものもあるんじゃないかなと。人と人との結びつきや愛は不変であってほしいし、不変になるものなんじゃないかなあと。そのバランスを上手くとった“愛”をお見せできたらと思っています」
上田「私はAIヒューマノイドロボットのアイ役を演じます。初めて演じる役で、ここまで未来のお話もこの分野も初めてです。私自身50年後この世界がどうなっているか、人々の価値観がどう変化しているのか想像したことがなかったので、その部分を膨らませて作っていければ。
そしてロボットなので普通の人の感情とは違う動きをするのではと。表現方法は自由になってくるんだろうと考えているところです。早くアイを掴んで舞台に立ちたいですね。新鮮さも稽古で楽しみながら、皆さんをより楽しませることができるように進めていきたいです」
2076年ドタバタ宇宙の旅が始まる
―――台本を読んだ印象は?
上田「台本は専門用語もそんなに出てこず、思ったより難しくなかったですね。宇宙のお話なので色々勉強しなくてはいけないのかなと身構えていましたが、人の心にフューチャーしていました。未来でも人間の生活は変わっていないですし、観てくださる方にとっても理解しやすい内容なのでないかなと思います」
―――役どころについてどう演じていこうと?
上田「このお話を頂いた時にすごくありがたかったのは、『操ちゃんしかいないでしょう』と言っていただけて。このコロナ禍でずっと舞台に立てず、次の作品をどうしようと考えていた時期でもあったので、私だからできる役とお声掛けいただくのはどれだけ貴重な事か、と思うと本当にありがたくて。しかも『ポンコツのこの役は操ちゃんしかいない』ん?と(全員爆笑)。喜んで良かったのか一瞬引っかかりましたが(笑)。ありがとうございますと言っていました。
でもそれが割と自分の中で腑に落ちて、自分自身この業界に入ったのが遅く、まだまだ学ばせていただいている段階なので、きっとSNSを通して(本質が)透けて見えていたのかなと。
今の私だからこそできる役と思いました。アイちゃんの中にポンコツの自分を重ねて、このままの自分を役に生かしていけたら。ポンコツさや完璧じゃない人間らしさを愛おしいと思ってもらえるように作りたいですね」
長濱「僕が演じる松原は、自分が作った宇宙船で妻が死んでしまっているので、かなりショックを受けているキャラクターです。そこでアイと出会って、それが亡くなった妻と瓜二つ。アイだから割り切れるのか、似ているから接しているうちに好感を持つのか、松原の心は複雑だと思います。物語としてアイとのシーンは面白おかしく進んでいきますので、どうなるのか自分も楽しみですね。この辺りをおもしろく演じることができたらと思っています」
―――共感する部分はありましたか?
長濱「僕はまだ未婚なので分かりませんが、テーマの愛について家族愛とか友達とか、仕事関係もそうですけど人との繋がりを再認識したところがあったので、その部分を意識して伝えられたらいいなと思っていますね」
―――W主演の2人は凸凹コンビ。お2人の魅力を教えてください。
新井「キャスティング的に大満足のお2人です。キャスティングのプロデューサーと1年以上前から話していて、でも僕のイメージと違いなかなかヒロインが決まらなくて、そんな時に上田操ちゃんがいるじゃない!と。人間臭さがAIのロボットだけど、完璧どころか人間以上に人間臭いロボット像を描きたいという想いがあったので、それは上田操ちゃんが表現できるだろうとお願いしました。
同時に長濱さんは舞台を2本拝見したのですが、操ちゃんと並んだ時に長濱さんと組ませたら絶対面白いとピンときまして、この身長差もワクワクしますよね。長濱さんが演じる松原はもともとエンジニア。わりとメンタルが弱い部分があり人間的には繊細なヤツなんです。そんな見た目や演技力も含めて長濱さんと上田さんのタッグの成功を確信しました。まったく小細工せずに、2人のまま全身全霊で気持ちをぶつけてくれれば、間違いなく良い作品ができると自負しています。
この緊急事態宣言の中(取材当時)なのに集まってくれて一緒に舞台をやってくれるなんて、もう泣いちゃいますよ。いろんな覚悟で来てくれているのだろうから、僕らもそういう覚悟をもって良い作品を作らないと、そんな気持ちです。またその想いがお客様に伝われば嬉しいです」
宇宙一のぶりっ子を開拓していきたい
―――いま言える本作の見どころについて教えてください。
新井「それはまず、上田さんのぶりっ子ですよね」
上田「あははは」
長濱「僕はそれを受ける方なので凄く楽しみです!」
上田「それこそ私もハードルを上げたくないと思いつつも、いかにぶりっ子のポンコツを浪々と演じるか、それにかかっているんじゃないかと思っています。ぶりっ子の役はよく頂くので、専売特許と思っています。ありのままプラス1.5倍〜3倍のポンコツさとぶりっ子で全力で好き放題やろうと」
長濱「このぶりっ子に翻弄されます(笑)」
新井「最初、上田さんがぶりっ子を照れてできないんじゃないかと思って、ぶりっ子が可能か聞いたら、え! 私にその質問をするみたいな。むしろ私の専売特許ですけど?と返されまして」
上田「ああははは! 普段ぶりっ子をやっているつもりはないんですよ! でも周りからはぶりっ子って言われることが多くて気が付きました(笑)。自然に演じることができると思います。ましてロボットなので常軌を逸した宇宙一のぶりっ子を開拓していきたいと思います!」
長濱「いいねぇ! 上田さんが面白おかしくやってくださるので、そこにツッこんだり温度差を作ったりしつつ、ちゃんと愛を見せてブレないように筋を通していけたら」
愛を欲している方に特に観ていただきたい!
―――そして公演ではエイリアンDAY「爆笑 銀河☆☆―ズ ショー」、スペースデブリDAYなど、イベントがございますね。
新井「僕の親友のスギタヒロシ君が開幕前に会場を温めます。もともと宇宙や歴史好きでネタを持っていて、ネタを見せてもらったらめちゃめちゃ面白くて! TVのバラエティー番組にも出演されている彼が、今回は前説で10分くらいの小ネタを楽しめる贅沢なショーを開催します。完成度が高いので是非お楽しみにしていてください」
―――そしてスペースデブリDAYの宙グッズのプレゼントとは?
新井「宇宙ゴミを除去する会社が世界にひとつだけあって、それが日本の会社アストロスケールさんなのですが、本作に色々と協力してもらっています。彼らも演劇ファンに知ってもらう良いチャンスになればと。そのアストロスケールさんからグッズを提供していただきます。
実は、アストロスケールさんではないのですが、デブリを売っている会社があるんです。でもゴミですよね、よく考えたなーって思って。宇宙に行ったロケットの破片が宇宙に漂っているか地球に落ちてくるかで、JAXAにしてみれば廃棄するのにお金がかかるんです。業者がもらってそれをカッティングしてカプセルに入れて宇宙に行った破片として売っているんですよね」
―――例えゴミでも宇宙にあったと思うと、ちょっと欲しくなりますよね。
新井「そうそう、僕買ってしまった(笑)」
上田「宇宙マニアなら買いますよね。好きな電車の線路の切れ端みたいなもので嬉しいと思う」
新井「ゴミなんだけどね(笑)。色々な企画でお待ちしております」
―――楽しみにしていることは?
上田「登場人物のみんな、何処かしら欠けていたり、足りない部分があるキャラクターで、その欠けている部分がそれぞれの個性になっています。他のキャラクターを皆さんがどう魅力的に演じるのか、それをこれから稽古で見るのが楽しみですね」
長濱「やはりドタバタな2人の掛け合いを楽しみにしています。あと、宇宙作品は空想で作ることも多いと思いますが本作はそうではなくて、今ある技術が発展した先にはこういう未来が待っているんじゃないか、と考証を重ねた上で描いていくそうなので、そこがすごく楽しみですね。2076年まで僕は生きているかわかりませんが、一足先に味わえそうです」
新井「技術考証をしているので、今後こういう未来や社会が待っているだろう、というものになっています。波動砲を出したり巨大ロボが出てくるファンタジーでありません。人間の本質は変わらないと思うんです。約150年前の幕末から今の人間の本質が変わったかと言われたら変わっていない。みんな恋愛をして喧嘩して泣いて叫んで同じなんです。100年後もたまたま宇宙にいるけれど人類は変わらないと思っています」
―――では最後にメッセージをお願いします。
上田「まだ見ぬ世界をお見せできるよう、役者一同頑張ります。沈んだ世間へ景気づけになるようなエネルギッシュな舞台をお届けするので、是非元気をもらいに来ていただけたら」
長濱「コロナ禍で愛を再確認しました。やはり愛を欲している方に特に観ていただきたい! そして劇場に来られない方には配信もあります。僕たちの元気をお届けいたします」
新井「この作品が明日への活力のきっかけになってくれたら嬉しいです」
(取材・文&撮影:谷中理音)