ホットな社会問題を軽妙に笑い飛ばすふざけた社会派・劇団チャリT企画。本公演としておよそ1年3ヶ月ぶりの最新作は、祖母が起こしてしまった交通事故により加害者家族となってしまった一家の踏んだり蹴ったりの顛末と、無関係者を巻き込んだ大騒動茶番コメディ。 座・高円寺の日本劇作家協会プログラムとしても注目の本作から、作・演出の楢原拓と、団員の阿比留丈智、みずき、哲に話を聞いた。
一番ストレートに伝わるタイトルは何かと考えました
――― 2020年1月の本公演を終えた後にコロナ禍となったチャリT企画。それから秋に短編の上演を実施、満を持しての本公演となる。今回もインパクト大のタイトルで攻める。
楢原「もともと『加害者家族』という仮タイトルだったんです。私はずっと前から割と加害者側からの視点で描く作品を多く作っていまして、死刑囚だったり少年犯罪の加害者であったり、その延長で今回は交通事故の加害者側にスポットを当てて。
数年前の、母子が亡くなった東池袋の事故とか、高齢ドライバーの、すごくバッシングされましたよね、『上級国民』とか言って。表に出てきて取り沙汰される情報はでたらめなものもあったりして、加害者だけならまだしもその家族もイヤガラセを受けたり、SNSなんかでバッシングされたり、ものすごく大変な思いをしているんですよね。家族には何の罪もないのに。それがひとつ契機になって真正面から、と言っても笑い飛ばすんですけど、交通事故を加害者家族の視点から描いてみようと。一番ストレートに伝わるタイトルは何かと一生懸命何パターンも考えてね」
みずき「候補には『祖母、事故る』とか」
阿比留「最初は『ウチのばあちゃん、事故った』でしたよね」
楢原「ただ事故ったでは、その人が重傷負った被害者に思われるからね。これは宣伝デザイナーのアイデアで、アクセルとブレーキを踏み間違えた、の方がイメージ湧くのではと」
みずき「(文字数が)長いか短いかそんな話もしましたね」
―――『桐●、部活やめるってよ』のような
楢原「そうそうラノベ的なね。10月の公演も『入れ歯を駅のゴミ箱に捨ててしまった。』というタイトルでやりまして、それは私の実話がヒントなんです。入れ歯をティッシュに包んでポッケに入れていたらそのままゴミと一緒に捨ててしまった。わかりやすいタイトルが今流行りですよね」
―――今日お集まりのみなさんの役どころは? おばあちゃんがいない雰囲気ですが。
楢原「おばあちゃんは留置場ですからいないんです。基本コメディですが、コメディパートとシリアスパートをいつも作っていて、特にコメディパートは自分たちの笑いのセンスを共有していないとなかなか難しいところがありますよね、なので劇団員が笑いのパートを担当し狂言回し的な役どころになるんじゃないかなと思っています」
―――今作でこの3人をどう料理しようなど、考えていることはありますか?
楢原「どう面白く、素材である各々の個性を生かしていくかですね。本を書くときはそこが出発点になります。劇団の初期はもともとフリーエチュードで芝居を作っていたので、どうその役者を生かすか、どう役者から面白いアイデアを引き出すか、という感覚は備わっています。
阿比留君は見た感じがジャイアンみたいなので(笑)ガキ大将的なポジションに。全体的に若い男優が多いので、青春群像的な作品になるかもしれない。あくまでも初期のイメージですが、彼らは軸となる加害者一家とはちょっと距離のある人物たちで、それがどう冒険し、加害者一家にたどり着くのか。ロードムービー的な感じになるかもしれません。ドラえもんで例えると、みずき君はのび太、哲君はスネ夫かな、そう考えるとなんかピッタリだね(笑)」
―――みずきさんについては?
楢原「お調子者的な感じのキャラなので、今回はそれを生かした役になるかな」
みずき「あの役が似合うよねって言っていただけたら嬉しいですね」
―――哲さんはまだ入団されたばかりですね。
楢原「まだ1/3くらいしか本人の事が分からないので、これからですね」
哲「(3月時点で)入団して1、2ヶ月ぐらい、初めてのチャリT企画作品に出演します。頑張ります」
新生・チャリT! フレッシュな20代が揃った劇団に
―――ちなみに台本はもう皆さんの手に?
楢原「理想としては稽古前に最後まであるといいので、そうなるように今一生懸命にやっていますけど、なかなかそう行かないことが多いね(全員笑)。でもちゃんと台本がないと役者のモチベーションに関わるので。俳優は正直なもので、台本が面白くないとお客さんを呼んでくれないんです。そこは心して頑張って書き上げます」
―――みなさんは台本を待っている状態とのことで、いつもその時間は何をされて?
阿比留「まさに今日の様な取材などで少ない情報を手繰り寄せながら基礎の稽古をしています」
みずき「劇団内で基礎稽古をしています。ぼくは去年の1月の公演を経て劇団に所属しましたが、修行させて頂いている中で笑いの感覚を身につけつつ、今回のコメディパートに入れてもらえたら良い流れにたどり着けるんじゃないかなあ。出来る限りの下準備をしている段階です」
―――客演の方も多数いらっしゃいますが、迎える側として心掛けていることは?
みずき「やはりこのチャリT企画に参加して良かったと思ってもらいたいので、積極的にコミュニケーションをとっていきたいです。先日オーディションがあったのですが、第一印象を大切に、ね」
阿比留「スマイルで! 実は去年、17年間在籍していた先輩劇団員が退団され、他のベテランメンバーも子育てでお休みしてるので、今実際に活動している役者は20代ばかりになりました」
みずき「平均年齢がぐっと下がりまして、客演の方々にいろいろ教えていただくような立場にもなるかもしれません。そういう意味でもちゃんとコミュニケーションを取っていけたら」
哲「僕は最近チャリT企画に入ったばかりですが、入る前に阿比留さんやみずきさんが、初対面の僕に積極的にコミュニケーションを取ろうとしてくれたので、その第一印象がすごく良かったので嬉しかったことを覚えています。自分も初めて会った人に対してはなるべく自分からコミュニケーションを取りに行けるように心がけたいと思っています」
阿比留「今回も飲みに行けない雰囲気ですよね。ひとつひとつが大切な時間になりそうです」
―――もう少しで緩和されそうですが、それぞれ距離の縮め方は?
みずき「とにかく質問して相手のことを知ることから始めます。後は好きなお芝居の話とか映画の話から入ったりですね」
楢原「何か考えた方がいいよね。飲み会をやれない分、ちょっとお楽しみ企画的な、ソーシャルディスタンスを保った上で稽古場で何かやりたいね」
みずき「この間、顔合わせを稽古場でやるのかZOOMでやるか、そんな話もありました。飲み会ができない状況なので少しでもお互いを知る企画を考えたいですね」
人間の愚かしさ、滑稽さを愛せるような作品に
―――以前拝見しました『パパは死刑囚』では、2階建てのステージセットが立てられ、1階では結婚式が、2階では死刑執行が粛々と行われるという、公平に流れる時間の無常さと笑いがひとつの空間で描かれました。今回もギミック的な何かをお考えですか?
楢原「まだイメージしかないですが、今作は何かに向かって人が動いていく話だと思うので、まっさらの中で人間たちが動きながら場所や時間が展開していく、そんなスタイルの芝居になるのではないかな、と直感的に思っています」
―――今回で描きたいテーマは?
楢原「何を言いたい作品か、というとちょっとむず痒いのですが、最終的には人間ってこうだよね、と。コロナ禍でいくら自粛要請をしても我慢の限界があり、みんなどこかで息抜きをしてしまいますよね。それが人間なんだと思うんです。その愚かしさ滑稽さを愛せるような、そのところを描けるといいなと思っています」
―――では最後に意気込みやメッセージをお願いします。
哲「個人的なことになりますが、このチャリT企画は社会派の問題にコメディを交えて表現することが面白いと感じて参加しています。自分が舞台に立つ公演までの期間、作品がどう作られていくのかまず経験して、新人らしく勉強するつもりで作品に臨んでいきたいと思っています」
みずき「この劇団の好きな所は不謹慎な所だと思っていて、楢原さん自体が実際とても不謹慎です。先日ワークショップの準備中に、その会場のビル全館で火災報知器が鳴って消防車がたくさん来てしまって、あとでそれは誤作動だって分かったんですけど、みんなが火元を探している時に楢原さんはスマホでその映像を録っていて。挙句の果てにトイレが我慢できなくてビルの中に入って行ってしまうという、恐れることを知らないマイペースな方で、それが作風に現れています。
劇団に入りたいと思ったきっかけもこの作風が面白いと思ったから。もっとこの劇団を広く知ってもらいですし、もっと有名になってもいい劇団だと思っているので、何とか若い力で盛り上げていきたいです」
阿比留「いまチャリTの3rdシーズンと自称していまして、劇団員も若くフレッシュになり、チャリTがまた面白くなってきたと知らしめたいです。そして僕は29歳で一番の年長者ですが、役者として面白い奴が現れたと印象付けたいと思っております」
楢原「みんな無責任に自分のことを棚に上げて自分は犯罪を犯さないと思っているけど、この話は誰にでも起こり得ることで誰もが加害者になる可能性があります。
そのことをみんな忘れて人のことを攻撃する風潮があり、そこで傷ついて命を落とすような人もいます。加害者家族の中でも会社をクビになったり婚約破棄をされたり、その人は何も悪くないのに感染したらバッシングを受けたり、コロナでも色々ありますよね。私たちの住んでいる社会の意地汚さみたいなものを笑いを交えて描くことで今の世の中を感じてもらえたら」
(取材・文&撮影:谷中理音)