劇団PU-PU-JUICE結成15周年、2017年公開の話題作が新しいキャストともに生まれ変わる。 金の為ならどんな記事でも書き“ゲスの女王”と異名をとるジャーナリスト、泉川マコトは次代の首相有力候補と囁かれる代議士と若手人気女優との密会を記事にしたことで大事件に巻き込まれる。ニュースの裏側にある真実にメスを入れながらも、ファンタジーあり、笑いありの大娯楽作がさらにパワーアップ! 作・演出の山本浩貴、劇団メンバーの中野マサアキ、西山咲子と共に本作の魅力について語ってもらった。
テレビを観て引っかかっていた言葉
―――4年ぶりに話題作が新要素を加えて帰ってきます。本作の着想はどこから得たのでしょうか?
山本「フェイクニュースという言葉を初めてテレビで聞いた時にずっと心に引っかかっていました。ニュース=真実という概念もありましたし、嘘のニュースって何なんだろうと。自分の作品創りの方針としては知りたい事を掘り下げてきたので、ならばフェイクニュースを題材にしようというのが出発点です。
従来の新聞、テレビという時代からインターネットや電子技術の進化によって発信できるメディアが多様化した現代において、新聞記者が長い時間をかけて掘り下げた記事よりも、猫の動画の閲覧数が高いという現実がありますよね。これって何なんだろうと調べていくうちに、昔の新聞記者の本を読むことによって、昭和の記者が徹底していた事実の裏付けに対する厳しさや取材に対する熱意と真摯さを知りました。一方でそんな記者たちがいた時代にでもフェイクニュースと呼ばれる報道はあり、事実と報じられたものでも見方によっては異なることもあったわけで。
真偽含めて様々な情報が氾濫するWEBメディアに生きる現代のジャーナリストと、昭和の記者をリンクさせて報道の在り方や生き方などをあぶり出せたら面白いと思い、本作では2つの時代を交錯させた時間軸を展開することにしました。
再演はやはり初演を超えないといけない難しさがあります。特に初演の完成度が高ければ高いほど、なぞってしまい躍動感のないものになりがちですし、一度完成した作品に新しい要素を入れるのは怖いですが、その恐怖感がないと落ち着いてしまうので、敢えて挑戦しました。
今回は新しいキャストとセットに加えてこの時代の時事ネタなども入れながら今このタイミングで再演をする意味を提示できたらいいなと思っています」
何が真実かを考えるように
―――お2人は前回も出演されていますが、本作にはどんな印象を持っていますか?
中野「本作に出会うまではフェイクニュースという言葉を知りませんでしたが、前回演じた事でニュースに対する見方というか、意識を持って視聴するようになりました。自分は編集長の役ですが、俳優としても現在と過去の姿を演じられるのは楽しかったですね。時代によってキャラクター感を変えたり、重厚さを出してみたりと。やはりニュースを伝える上での校閲者であり、最終責任者なので威厳の様なものは意識していました」
西山「今の時代は簡単に色んな情報が受け取れる時代ですが、何が真実か、この情報を信じていいのだろうか?という視点を強く意識させられた作品ですね。
私は前回と同じく主人公の曾祖母を演じますが、90歳を超える役は初めてだったので、実際の高齢の方を参考にさせてもらうなどして、見よう見まねで演じた記憶があります。昭和の伝説の新聞記者であった夫を支えてきた芯の強さみたいなものは意識していましたね。
主人公の女性ジャーナリスト、泉川マコトが葛藤しながらも成長していく背中をそっと押してあげる存在として物語を引き締めるキャラクターだと感じました」
芸人のパワーはさすが!
―――客演のキャスト陣も個性的なメンバーが揃っていますね。
山本「本作ではファンタジー要素だけでなく、かなりコメディ要素も多いのでそこは是非笑って頂ければと思います。特にガリットチュウの福島さん演じるYouTuberを目指す引きこもりのニートには注目してもらいたいですね。芸人さんのお客さんを引き込む力は流石!の一言です。笑いだけでなく、ストレート芝居でも素敵な役者さんなので、きっとまた何かやってくれるはずです!」
中野「最近、稽古が始まりましたが、若い役者さんもポジティブで元気の多い方が多いので楽しいよね」
西山「そうですよね。客演の方と組めるのはいつも楽しいですし刺激になりますよね。今は前のように終わってから飲みに行けないので、稽古前にゲームをしたりして交流を深めています。前に比べるとどうしてもコミュニケーションが少なくなってしまうので」
中野「稽古終わりに当たり前のように飲みに行って、『あそこはこうだよね』とか話せるってすごい大事だったんだなと。お酒が入って言える事もあるじゃないですか! そういう語り合える場の大切さをこの時代に痛いほど感じています。早くその日常が戻ってきて欲しい!」
とにかく掘り下げて掘り下げる!
―――山本さんが作品創りで大切にしていることはありますか?
山本「劇団は自分にとっては家族であり帰る場所だと思っています。1年に1本、自分が掘り下げたい題材を自分が好きな人たちと共に創ってきました。特に何かのテーマやメッセージを追求しているのではなく、その時々に自分のアンテナにかかったトピックや疑問を掘り下げていって、1年ぐらい寝かせたり、仲間と意見交換したりと色んな方法で作品にしています。敢えて共通している事を挙げるとすれば、1つのテーマが決まったら、とにかく掘り下げて世界を膨らましていくことでしょうか。学校やホテルという感じで、場所から着想を得ることも多いですね。
15周年を飾る本作は自分にとっても特別な作品であり、新しい魅力を伝えられるように一段と掘り下げて書き上げました。役者さん達も僕がまだ気づいていない魅力を拾ってくれてさらに昇華させてくれると信じています」
―――最後に読者にメッセージをお願いします。
西山「一見するとお堅いテーマですけども、ニュースというものを通して人が生きていく姿や葛藤を乗り越えて成長する部分など、何か皆様に伝える力を持っている作品だと思います。今は大変な時期ですが、観終えた後に明日を生きる元気や勇気を持って帰って頂けるように頑張りますので是非劇場にお越しください!」
中野「小劇場からずっとやってきて15周年で三軒茶屋のシアタートラムという憧れの劇場で公演させてもらえるのはとても有難い事ですよね。その思いを一つひとつ噛みしめつつも、新しいキャストの方とのセッションを楽しんでいこうと思います。僕は敢えてこれを伝えたい!という構えはないですが、果たしてフェイクと真実とは?という問いかけをお客さん一人ひとりが持って頂ければ成功だなと思っています。劇場でお待ちしています!」
山本「コロナ禍で当たり前だった事がそうではなくなりました。芝居を出来る事、劇場にお客さんに来て頂けることはなんて幸せな事だったのかと身に染みて感じています。1日1日芝居を出来る喜びを胸に、お客さんに『やっぱり演劇っていいね』と思ってもらえるような作品にします。劇場で皆様にお会いできるのを楽しみにしております」
(取材・文&撮影:小笠原大介)