T-worksの丹下真寿美と、THE ROB CARLTON 主宰・村角太洋の初コラボレーションによる話題作『THE Negotiation』。共演に三上市朗、山崎和佳奈、森下亮を迎え2019年大阪、東京で開催された初演では、練り上げられた台本と名優たちが繰り広げるハイレベルな交渉喜劇で多くの観客の心を鷲づかみに、大好評で幕を閉じた。早々に再演が決まるも世界情勢により延期に。2021年6月、満を持して「Returns」として再演が決まった。
“やるならとことん”が村角太洋流
2年越しとなった再演だが、緊急事態宣言の間にはリモートで映像を作る配信企画『THE Negotiation SE』を実施し好評を得た。物語は本作の前日譚に当たる短編で、この1年は骨組みをしっかり構築、カンパニーをあたため続けた。
丹下「自粛期間中に映像を撮りましょう、と実際に作り始めてみたら、やるならとことんというのが村角太洋さんなので、とても面白いものができて」
村角「とても大層なことになりましたね」
丹下「公演が中止になってしまいましたが、配信の作品のおかげで、とても楽しかったことは覚えていますね」
村角「ちょうど緊急事態宣言中だったので、まるまる5月を使った感じですね。一番何もできない時期だったにもかかわらず忙しくなって、あっという間に過ぎた感じです」
丹下「この配信の前は引きこもっていましたが、やり始めたら太洋さんの台本は文字量がものすごく多いので、もう受験生のように集中して読むという(笑)。夏休みの課題をやっている気持ちにはなりましたね」
村角「1話10分から15分で7本あったので、それは大変でしたね」
丹下「合わせたら映画の長さですよね。覚えるのは大変でしたが面白さは十分に詰まっていましたし、一度演じているから役に関しては深まっている状態だったので集中できました」
村角「家で台本を書いてZOOMを使って撮影をし、それを1人で編集して、本当に家から出ずに確かに宿題をやってるみたいでした」
丹下「でも楽しかったんですよ! ZOOMをすることが多くなり、画面越しでみなさんと話している事が精神的にも新鮮であり嬉しかったですね」
―――この再演が更にブラッシュアップされそうですね。
村角「設定上(時系列的には)本作の前のお話だったので、作り方として変なもので『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいな。配信の映像と舞台作品の頭をどう繋げるのかが課題ですね。次はこれを整えないと整合つかんなと。初演では芝居が進むにつれてキャラクターが崩れていって抜けた感じになったんですけど、次は最初から抜けた感じになっているので、本編の第一場、二場をどうニュアンスを変えるか、そこは繋げないといけないのでね。たぶんキャラクターが変わってきますね」
口コミの力を実感
―――初演ではとても手応えがあったとお聞きしました。
丹下「本当に口コミの力ってすごいもので、村角さんが書いた作品は関西では有名でコアなファンがすごくついていて、限りなく喜劇に近いけどコントでもない作風が東京の方でもとても向いていると思っていました。それが東京で公演をすると、観てもらった方が口コミでご来場いただいたことをすごく感じられて、もうこれはすぐ再演したい!と公演中に決めました」
村角「会話劇なので、やればやるほど台詞回しなどがだんだん滑らかになって。大阪では探り探りでしたが、東京でやっとみなさんがお芝居自体に慣れてきた感じはありましたね。そこで終わってしまったのでまだ良くなる余地を残しているぞと、割とその場で(再演を)やりましょうよというニュアンスありましたね」
丹下「幕が開いたばかりなのに三上さんが『次はどこの地方でやる?』みたいな話が出ちゃうぐらいで、山崎和佳奈さんも森下亮さんもすごく力になってくれました」
村角「徐々によくなって、それは初日と千秋楽は違いますよね」
丹下「初日は緊張した! この作品は戯曲として物販で販売させてもらったんですが、第1作目と同じ上演時間なのに台本の分厚さが全然違うんですよ。しかも文字も小さくて」
村角「すごい量をやってくれたんです 」
―――女性が頑張る作品はこの作品が初めてだったそうですね。
村角「そうですね、しっかり書いたのはこれが最初ですね。この作品から結構書く機会が増えましたね」
丹下「女の人を描いていてどうですか」
村角「これは一番初めだったので色々考えましたけど、最近はそこまで考えなくなりました。男性でも女性でも面白いことを言うのは同じなので、僕の作品は恋愛モノでもないので、性別で書き分けることはあまりしなくなりましたね」
やりながら肌で感じることができた
―――今だから言えるエピソードや印象深い出来事などを教えてください。
村角「大阪の初日でありがたいことにトリプル(カーテンコール)をいただいたんですね、あれはびっくりしましたね」
丹下「そうそう! みんな優しい!と。自分のホームである大阪で初日のトリプルを頂いたのは感動しました」
村角「最近では4人が100分も喋る芝居が珍しかったのか、役者のパワーがすごく伝わった舞台だったと思います。客席も熱かったですよね、それが目標でもあったのですが、後半お客様がグッと4人を観てくださっている熱が伝わってきました。とにかく初日はみなさんがめちゃくちゃ緊張していたんですね。裏でも台本をチェックされていたし」
―――丹下さんは、セリフも多く、駆け引きで暗躍する秘書役は自分とは正反対で挑戦と仰っていました。演じてみて発見はありましたか?
丹下「目の前でベテランの3人が、それぞれ持っているいい塩梅のテンポでこの脚本に挑んでいる姿を見たら、こういうやり方もあるんだと、やりながら肌で感じることができたことはすごく大きかったですね。みなさんすごいんですよ! 自分にないものがこの人達にはあって、それをいま肌で感じている自分は凄く幸せ者!と。でもその感じたモノはこの脚本じゃないと出てないなぁとも思って」
―――役作りというより、現場で役が育っていたのですね。
村角「セリフを覚えたりすることは大変ですが、キャラクターに乗った時にその大変さが出てないのは良い事ですよね」
丹下「そうそう、それはそうですね」
村角「肩の力を抜いているように見えると言うか、とても緊張されているんでしょうけどそれが見えないのは面白かったですね」
丹下「白鳥の様にね(笑)。あと物語の後半で、それぞれのチームが交互にやり取りをしているんですが、あたかも会話をしている様にしゃべっているけど実は会話になっていない、すれ違ってるシーンで、そこが初日くらいにやっと完成して。それまで稽古中も何か上手くいかなくて、そのトリプルをいただいた初日『そこ絶対に詰まらんぞ!』と、あれは役者魂だよね。ミスったら本当に止まるんですよ。世界の終わりみたいな状態になってしまう。あのシーンが出来て次のシーンに行けた瞬間、ちょっと泣きそうになって(笑)」
村角「クライマックスの最後のシーンですから余計にね」
丹下「いけた! 言えた!!という想いはありました」
村角「あれから毎朝、ウェイクアップであのシーンをやるようになりましたね。頭も口も動くので、それで身体と頭を整えて本番に向かうというルーティーンがありました」
―――では今回もそこが見どころになると。
村角「そこ、実は台本は変わっています!」
丹下「ウソぉ!!(笑) ちょっとこれみんなにグループLINEする」
村角「去年むけに一旦はリターンズとして書き直している部分がありまして、その中で緊急事態宣言になったので1年経っていますし、またSE(配信)もやっているので、『THE Negotiation:Returns 2』みたいなニュアンスでまたちょっと書き足しています」
丹下「え? じゃタイトルも変わるの?」
村角「台本として2」
丹下「リターンズなのに2って(笑)。わけわからん」
―――村角さん的にこだわった部分や違いは?
村角「前回はカチッとすることを優先的に作った感じがありますが、次はちょっと力を抜いて、もう少しポップさを出していけたら。会場も変わるので以前よりはぎゅっと濃厚かつテンポを上げて、もっとリズムよくしたいですね。1回やっているのでみなさんできると思います」
丹下「おおお!? なんだこれ、武者震いかな。早くみんなとグループLINEしないと」
―――色々な初めてがあった作品ですが、あえて今回の挑戦となることは?
丹下「前回は本当に緊張具合がハンパなかったので、今回はどれだけ力を抜いてできるかが自分の中での課題ですね。どの現場でもすぐ力んでしまう部分があって、特に本作は普段の自分とはかけ離れているので。今回もう一度やる機会を得たので、もっと優しくできたらいいなと」
村角「配信でやった作品がだいぶ角が取れた世界観になったので、それをうまいことそのまま流せたらなあと思っていて。若干キャラクターも変わりましたし。そんな雰囲気を冒頭から流したいなと思っていますね」
―――初演を観た方は違う印象になりそうですね。
村角「もっとポップな感じになっているんじゃないでしょうか」
丹下「本当にこういう人たちがいそうだなって、思ってもらえるような雰囲気になるんじゃないかな」
村角「人間臭さがもうちょっと出てもいいかもしれないですね」
丹下「きっと森下さんがよりいじられ、より和佳奈さんが天然になっていく(笑)」
村角「確かにね、初演よりも登場人物の知能レベルがかなり下がったから。(全員爆笑)全員が下がってるから! その下がった世界観で統一してできる。お客様も力を抜いて観られるみたいな関係性が、劇場の空間的にもマッチするような気がしますね。そこにテンポを1.3〜1.5倍くらいにしていきたいですね。そう言いながら僕も前回の反省点があったので、台本と演出上で生まれ変わることができたらいいなと個人的には課題と反省を踏まえているところです」
力のある役者が揃った、生で観る価値のある舞台に
―――お気に入りのシーン、また特に観て欲しいシーンは?
村角「今回新しく書いているので、また新しいお気に入りのシーンができるかもしれないです。そしてやはり4人が集まるシーンは観てもらいたいですね」
丹下「私は最初に4人が揃って交渉し始めるシーン。だんだんとズレている?かどうかのやり取りがすごく好き。前回チラシを重厚でかっこよく作って頂いて、その固いイメージで観に来てくださったお客様が多かったので、それを今回は早々に崩したいですね」
村角「逆に冒頭から崩していきましょうと思っていますね」
―――お話に出ているその配信作品をまた観る機会はあるのでしょうか?
丹下「はい、上演の頃にまた観られるように調整中です。再演の後から観ても先に観てもどちらでも大丈夫です! 絶対に楽しいと思います」
村角「初演を観てくださった方も、配信のみの方も、全ての方に向けて作っていくつもりです。それぞれ楽しみ方が違うと思いますが行き着くところは一つなのでそれを楽しみに。決して堅苦しい作品ではありません。そして力のある役者さんが揃っております。生で観る価値のある舞台にしたいと思います」
丹下「一度は延期になってしまいましたがその分、個々がキャラクターを育てる機会になったと思っています。この作品の中ではコロナは無い世界なので、ここにいる間だけでも忘れてもらって、この世界にどっぷり浸かってもらえたら。そして劇場を出る頃にはちょっと気分を1段階2段階あげて帰るような、そんな状態になっていると思いますので、それを期待して観に来てもらえたら」
(取材・文&撮影:谷中理音)